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この「怖さ」は何なのだろうか|8/4〜8/10

緊急事態宣言のなかで始めた日々の記録。火曜日から始まる1週間。仕事と生活のあわい。言えることもあれば言えないこともある。リモートワーク中心。そろりと外に出始めた。ほぼ1か月前の出来事を振り返ります。

2020年8月4日(火) 自宅

「WHO 特効薬がない可能性」というニュース。そういえば考えもしなかった。いつかワクチンが出来る。それで治るものになる。社会のなかでインフルエンザのような扱いになっていくのだろう。そう「終わる」と思っていた。でも、確かに終わらないことだってありうるだろう。ウイルスに静かに制圧されていく人類の姿を思い浮かべる。ニュースの真偽はわからない。もちろん、そのシナリオを望むわけではない。
午後はZoomでArt Support Tohoku-Tokyo 2011→2021の寄稿に関するミーティング。記憶の継承とは、どうなされるのがいいのだろうか。強い記憶は遠くまで届く。広く共有される。忘れにくいものになる。一方でローカルに強く残る記憶は、広く伝播することはない。それでも、その土地で生きのびるための大事な知恵となるのだろう。『<災後>の記憶史――メディアにみる関東大震災・伊勢湾台風』の筆者が、あとがきで、自身が愛知県出身で1959年の伊勢湾台風が当然のように「みんな」に共有されているかと思いきや、大学になって地域の外に出てみれば、全然知られてなかった、なんでだろう、と考えたことが研究を始めた動機だと書いていたことを思い出した。この本で1989年に公開されたローカルアニメ映画『伊勢湾台風物語』は、愛知、岐阜、三重の3県で同年公開の『魔女の宅急便』以上の興行だったという話も知った。そういうローカルな記憶の残り方は大事なのではないだろうか。
東京都の新規感染者数は309人。大阪府知事が会見で、ポピドンヨードを使ったうがい薬で「唾液中の陽性頻度が低下」との研究結果を発表。おもいっきりテレビのみのもんた級のインパクト(このたとえが伝わるのは、どのあたりの年代までなのだろうか)。現実が想像を超えてくる日々。

2020年8月5日(水) 自宅

尋常じゃない暑さ。レバノン・ベイルートで大規模な爆発があった。Twitterに現地の人が撮影した短い動画が流れてくる。都市のなかに入道雲のような爆煙が上がっている。次の瞬間、大きな爆発が起こる。周囲の空気を一気に吸い込み、放出する。光と衝撃が走る。カメラが揺れる。駆け出した撮影者の足元に映像は振り切れる。爆発までの時間差がもたらした生々しい映像。武器庫が爆発したのだという。9.11の映像は言うまでもなく、明日原爆投下から75年が経つ広島の情報がいろんなところに流れていたこともあって、その風景とも重なって見えてくる。
「10年目の手記」のチラシを、ひたすら校正する。来週から始まる小金井アートフル・アクション!「まちはみんなのミュージアム」の進め方について、上地里佳さんと電話で話す。オフラインで実施も想定していた活動だったけれど、現在の感染者数の多さから見て、少なくとも来週の初回はオンラインにすべきではないか。参加者も不安に感じるのではないだろうか。むしろ、それ以降のオンライン/オフラインの混ぜ方や判断基準を、ここで改めて考えたほうがいいのではないか。お盆を過ぎた再来週に、このプログラムを担当する荒田詩乃さんと事前/事後の対策などシミュレーションし、今後の進め方を議論することにする。
実際にフィジカルな企画を始めようとすると戸惑うことも多い。 この「怖さ」は何なのだろうか?  感染者が出たときに事業が止まってしまうことか?(それをきっかけに事業が終わってしまう可能性もある)。そのための対応が大変だからか?  社会的に「叩かれる」からか?  実際に事業で陽性になった人が発生したとき、その人は「知っている人」の可能性もあるだろう。その人の体調はどうなるのだろうか?  そのことが目の前の心配事として現れるはずだ。シミュレーションで、そこが最初に思い浮かばないのは、まだ自分のなかで、近いようで遠いものなのかもしれない。
愛知県は明日から独自の緊急事態宣言を出す。6日から24日まで。東京都の新規感染者数は263人。

2020年8月6日(木) 府中→市ヶ谷

毎週のACF(Artist Collective Fuchu)のミーティングにも身体が慣れてきた。大風呂敷を広げた構想を実践に落とし込んでいく。一方で大風呂敷は色んな人たちに語っていくことが大事なのだろう、ということを確認する。
府中から市ヶ谷へ。オフィスで今月から本格運用が始まった勤怠システムを入力する。説明会で聞いたことを、すっかり忘れている。こういうのは「習うより慣れろ」なのだと思う。ドキュメント発送のための封入作業を行う。ひさしぶりの身体を動かす労働感。夜はラジオ下神白のミーティング。今年度の動きを細かく落としこむ。一時は現地訪問も行けそうな雰囲気もあったけれど、ここに来て、その線は望みが薄い方向で話を進める。
週末に予定していたライフミュージアムネットワークの出張を見送る。福島県奥会津の三島町で町長と赤坂憲雄さんの対談と、福島県立博物館で実行委員会に参加予定だった。会津若松市で予約していた宿もキャンセル。ぎりぎり会津若松市での会議だけならば行けるかと思ったけれど、さすがに三島町のディスカッション参加は無理だと思った。首都圏から来た「参加者」がいるのは厳しいだろう、と。確信はない。受けとめられ方を想像し、判断するしかない。いまも行きたいという気持ちは拭い去れない。
東京・千葉・茨城に熱中症アラート。いつの間にか「アラート」が浸透している。東京都の新規感染者数は360人。都知事、会見でフリップを掲げる。

この夏は「特別な夏」
「旅行や帰省」を控えましょう。
「夜間の会食」を控えましょう。
「遠くへの外出」を控えましょう。

2020年8月7日(金) 自宅

夜はZoomで「10年目をきくラジオ モノノーク」のミーティング。今後のスケジュールと進行を議論する。ゲストや連絡担当などを決める。それぞれが、かなり忙しくなってきた。東京都の新規感染者数は462人。こうやって日記に記すことがなければ、感染者数をニュースで追うことはないだろう。数は「多い」くらいの感覚で、細かい人数は気にしなくなってきた。
「【速報】新型コロナのワクチン、英製薬大手と1億2千万回分の供給で合意」の見出しのニュース。

 日本政府が供給を受けることで合意したのはイギリスの製薬企業「アストラゼネカ」とオックスフォード大学が開発中のワクチンです。このワクチンについて、開発が順調に進めば日本向けに1億2千万回分を供給することで合意したということです。
 日本へのワクチンをめぐっては先月末にアメリカの製薬大手「ファイザー」と、開発が成功した場合に来年6月までに6000万人分の供給を受けることで合意しています。

2020年8月8日(土) 自宅

連休が始まり、小学校の夏休みも始まる。今年の帰省はなし。とにかく暑い。東京都の新規感染者数は429人。何気に400人台が続いている。ここ1週間ほどで身近なところから感染の話題が出るようになった。

2020年8月9日(日) 自宅

午前にライフミュージアムネットワークの実行委員会にオンラインで参加する。ミュージアム「で」何をするか、ではなく、ミュージアム「が」何をすべきか。ライフミュージアムネットワークの議論でいつも考えさせられる問いが、この状況下で、いままで以上に鮮明になってきた。ミュージアムは、ある土地の文化的なアイデンティティを確認し、伝える役割をもつ。対象は、その土地に暮らす人、それ以外の人たちを含む。そうして物理的なミュージアムに訪れない人たちも対象にしたとき、幅は一気に広がっていく(というか全ての人になる)。世界、後世…と縦軸横軸に話は広がる。いまここに訪れることがない人たちに何かを伝えようとする。そんなミュージアムの「機能」を議論するとき、たとえば「館」や「展示」は、あくまで、ひとつの手法なのかもしれないとまで思えてくる。物理的な訪問の困難さを抱えるいま、議論はいっそう本質的になっていく。
ただ、それを落としこむ事業のつくりかたが課題になる。誰とやっていくのか。どんなメディアを使うのか。これまでにないやりかたを身体化していく必要もある。その細部のつくりこみが議論のしどころなのだろう。
と、メモをとりながら、どう伝えようかと考えているうちに時間は過ぎる。相変わらず、オンラインで議論の細部を詰めるのは難しい。
11時2分に画面の向こう側からサイレンが聞こえる。会議は中断。長崎への原爆投下から75年。参加者全員で黙祷をする。インターネットは世界中の異なる場所で暮らす人たちが、いま同じ時間に生きているという感覚を確認できる。なのだとしたら、記念日の日付や時間も同じような機能があるのだろう。画面には映らない、さまざまな場所で黙祷する人たちの姿を想像する。

2020年8月10日(月・祝) 自宅

朝、熱中症の注意喚起が防災無線から流れている。緊急事態宣言期間中の朝夕のアナウンス以来なのではないだろうか。

(つづく)

noteの日記は、Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021「2020年リレー日記」のテスト版として始めたのがきっかけでした。7月の書き手は、大吹哲也さん(NPO法人いわて連携復興センター 常務理事/事務局長)→村上慧さん(アーティスト)→村上しほりさん(都市史・建築史研究者)→きむらとしろうじんじんさん(美術家)。以下のリンク先からお読みいただけます!
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画像:"File:Damages after 2020 Beirut explosions 1.jpg" by photographer: mehdi shojaeian عکاس: مهدی شجاعیان is licensed under CC BY 4.0

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