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ただ、ふらふらしている(ことばの足音を追いかける〈4〉)

アートプロジェクトの現場で出会った、気配を残しては去っていくことばたち。どんな姿をしているのか。どんな道を進んでいくのか。その姿をちょっと追いかけてみるシリーズ、お届けします。

”ただ、ふらふらしている感じだよね。”

そう聞いたとき、「ファンタジア!ファンタジア!-生き方がかたちになったまち-(以下、ファンファン)」のメンバーと私は思わず、心の中でガッツポーズを取りました。なぜなら、“ふらふらする”ことは、ファンファンがプロジェクトを通して目指している「当たり前を解きほぐす対話」のために、敢えて取ってきたポーズだったからです。

このことばをお話ししてくださったのは、文化研究者でありアーティストの山本浩貴さん。現在ファンファンの企画として開催中の、「超衆芸術スタンドプレー 夜明けから夜明けまで」の関連トークイベントでお話いただいているときでした。

輪郭を決めずに出会う

「超衆芸術スタンドプレー 夜明けから夜明けまで」は、アーティスト集団・オル太を招へいして行っている企画です。2019年度のレジデンス企画をきっかけに墨田のまちのリサーチをはじめ、今回の企画へと結びついたのですが、そのスタートは「ファンファン側からは特に切り口やアウトプットを指定せず、オル太に自由にリサーチしてもらう」ところから始まりました。
多くの場合、リサーチは特定の目的やテーマ、アウトプットを想定して始まることが多いのではないでしょうか。しかし、それでは「ファンファンがまだ見えていないもの、会えていない人には出会えない」と考え、オル太に“ふらふらと”まちへくり出してもらい、新鮮な視点でまちを捉えてもらおうと思ったのです。その結果、今回の企画に直接的に結びつくような、まちの歴史を思い起こさせるような建物等の発見から、「日本では珍しいが、フィリピンではよく食べられている魚を買えるお店がファンファンの拠点の近くにある」というエピソードまで、幅広い出会いが。ファンファンが持っていたレイヤーとは異なるまちの姿が浮かび上がりました。
山本さんのトークでは、そのような自由なリサーチの姿勢が「ただ、ふらふらしている」と表現され、“地域の輪郭を決めずにまちに入っていくこと”の可能性が示されました。

「学び」=「当たり前を解きほぐす対話」

「当たり前だと思って認識してしまうこと、考えてしまうこと」からいかに自由になるかは、ファンファンがスタートした2018年度当初から取り組んでいるヒアリング企画「WANDERING」にも表れています。墨田区の白地図に気づきやキーワードを落としこみながら対話していくと、本人も気付かなかった思考の連鎖が起こり、発見に出くわすようなプログラムです。
(そして、タイトルのWANDERINGにはまさに「ふらふら歩く」「話が逸れる」という意味を込めて名付けられていました!)

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ファンファンは、墨東エリア(墨田区北東部)を“学びの場”に見立て、豊かに生きる方法を探るプロジェクト。そして、ファンファンが考える“学びの場”とは、これまでの当たり前を解きほぐす対話が生まれるような場。絶えず自分の想像の限界を更新することこそ 大切な“学び”だと考えています。

これまでのような頻度で集えなくなってしまったこの半年、ファンファンが事務局内で取り組んできたのは言語化と思考の共有でした。
定例MTGでのラジオコーナーメモツールでのやりとりを通して、「ふらふら歩く」をはじめ、当たり前を解きほぐすための切実さをめぐることばが蓄積されてきました。

「ジムキョクの概念を根本から問い続け(る)」
「(アートを)信じるために疑い続ける」

※ファンファン事務局が綴っているGoogle keepのメモから抜粋

このまちで「ファンタジア」を生んでいく

なぜ、当たり前を解きほぐすことが大切なのか。なぜ、ファンファンが必要なのか。ことばや思考の蓄積をとおして、少しずつ少しずつ、その核心に近づいている気がしています。その、まだ見えないものに近づくような過程では、ファンファンの名前の由来でもある「ファンタジア(=これまでに存在しないものすべて)」を思い起こさせます。

つまり、ファンタジアの豊かさは、その人の築いた関係に比例する。その人がきわめて限定的な文化の中にいるなら、壮大なファンタジアはもてず、いまある手段、すでに知っている手段を常に利用せざるをえない。
(ブルーノ・ムナーリ著、萱野有美訳『ファンタジア』、p.29、みすず書房、2006年)

ファンファンが舞台としている墨東エリアは、20年以上もデザインやアート、まちづくりに関する取り組みが行われ、そういった多様で活発な活動が“このまちらしさ”を創出しています。開発や社会の変化でまちは変わっていくけど、自然と変わらないものもある。しかし同時に、変わらない強さではなく、変わり続けていくことを恐れないという強さも、いま、豊かな学びのために必要な姿勢なのではないでしょうか。
(人間の身体でも、1日に1兆個の細胞が生まれ変わっていることが、健康な状態であるように。)

そんな姿勢の大切さを信じて、ファンファンはこれからも様々な企画やメッセージを発信していきます。

冒頭でもご紹介したオル太の『超衆芸術スタンドプレー 夜明けから夜明けまで』は、11月29日(日)まで開催(※金土日祝のみ開場)しています。ぜひ足をお運びいただけると嬉しいです!

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