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少しずつ少しずつ、身軽な状態で何かをはじめてみる【アートプロジェクトの中の人】 遠藤純一郎 @ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―

こんにちは。東京アートポイント計画プログラムオフィサーの村上です。

今回は東京アートポイント計画参加団体のアートプロジェクト「ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち― 」で活動している遠藤純一郎さんをご紹介します。

アートプロジェクトの運営には「どんな人」がいて「どんなこと」をしているのか。【アートプロジェクトの中の人】に伴走するプログラムオフィサーがお届けしていきます。
今回は私が聞き手となり、遠藤さんとこれまでの活動を振り返りながら、いろいろお聞きしていきたいと思います。

今回ご紹介するのは、遠藤純一郎(えんどう じゅんいちろう)さん

ー遠藤さんは「ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―」(以下、ファンファン)事務局メンバーです。
まずは、なぜアートプロジェクトに関わろうと思ったのか「ファンファン」の運営をする事務局メンバーになったきっかけなどを教えてください!

遠藤:私がアートプロジェクトを知ったきっかけは、高校を卒業するかしないかの時、「大地の芸術祭」の事を新聞記事で読んだことだったと思います。なんか楽しそうだな、と漠然と思って芸術祭アートプロジェクトについて調べるようになりました。

私は当時、神奈川に住んでいたので「黄金町バザール」に行ってみたり、それをきっかけに「AOBA+ART」のイベントに参加してみたり「アートラボはしもと」に行ってみたり、訳も分からずいろいろなところに行っていました。
アートプロジェクトを調べる中で、地域活性化というような言葉を目にしたとき、なんでアートなんだ?とか、アートそのものの可能性ってなんだろうということがずっと分からなかったのですが、それでも少なからず楽しそうだなという思いで徐々に近づいていった感じでした。

その後、東京芸術大学先端芸術表現科に入学し、引き続きいろいろな現場に行きつつ、大学では同級生たちと様々な形での共同制作を行って、最終的には個人で卒業制作をして卒業しました。
大学を卒業する頃には、いわゆるアートについて専門的に勉強するよりも、自分が現代アートを通して感じるようになった様々な社会への違和感を、もっと深く考えて勉強したいと思うようになっていました。ある意味「アート」へのこだわりや期待というものが、いい感じにほぐれていました。
特に大学卒業当時から包括的な性教育について関心が高まっていて、大学の時の同期と性教育を扱ったカレンダー制作を始めたりしていました。

それでも、大学在学中からアシスタントをしていた北澤潤さんのプロジェクト型の作品の制作・運営の現場に入ったりしながら、アートプロジェクトのそばで過ごしてました。
その時当時のファンファン事務局の方から「ファンファン」をお手伝いする話をもらったのですが、私が特に惹かれたのはラーニング・ラボでした。まず、プロジェクトの動きがレクチャーのイベントから始まっていること、そして、テーマの一つ一つが私自身の関心にも近く、多様で魅力的でした。

画像をクリックすると、レポートを読むことができます(全8回)

ー実は私と遠藤さんは同じ大学の学部なんですよね。学部時代は一人で制作する人が多いなか、遠藤さんはいつも機会をみて誰かとコラボレーションしているのが印象的でした。

ファンファンでは、どんなことをしていますか?

ー「ファンファン」の事務局ではどんなことをしていますか?

遠藤:ファンファンのその時々の状況で様々なことをするのですが、今年度はおもに「ファンファン倶楽部」の活動を担当しています。(後述)
また、他に何をやったかなと具体的に思い出してみると、例えば2020年の春に初めて緊急事態宣言が出て、家にずっといた時期に「WANDERING:ショートショート」という映像を作りました。素材の撮影はディレクターの青木彬さんが撮影してくださったのですが、オープニングのアニメーションは私が勢いで作り、全体をまとめました。

あとは、2021年の秋頃、ファンファンを紹介するための簡単なリーフレットを作ろうという話が出て、編集のアイデアをまとめてデザインもしました。

わかりやすいところでいうとそんな感じで、アニメーションもデザインもアマチュアですっていう意識はあるんですが、それでもやってみるのが、DIY精神を大切にしている「ファンファン」だな、と思ったりします。

ファンファン倶楽部の「やってみる時間」

ー「ファンファン倶楽部」の部長もやっていますね。
ファンファンの「ファン」を増やすというか…。場づくりで意識していることはありますか?

『ファンファン倶楽部』とは
「ファンファン」を支える大事な集まりのひとつです。メンバーだけでなく「ファンファンってなんだろう」「何か一緒にやってみたい」という地域の人々が集まり、「ファンファンレター」を作ったり、ふと立ち上がる妄想からイベントを企てています。何が始まるかわからないけれども、何かが確かに生まれていく活動。

遠藤:例えば「ファンファン倶楽部」の特徴の一つとして、「自己紹介を自由にさせない」ということが挙げられます。
誰しも、自分の中に様々な面を持って日々生きていると思うのですが、いざ自己紹介しようとすると何からどこまで話せばいいのかって難しいですよね。私自身「自由な」自己紹介を求められると、目の前の相手にどの自分を見せるか、というところでフリーズしてしまうんです。結果、何も言えなかったな、と落ち込むことになります(笑)。
ただ、時間をかけて付き合っていけば、おのずとお互いにわかるものがあると思っているので、自己紹介は「自分のすべて」を紹介するのではなく「(実は)こんな一面があります」ということを話しながらウォーミングアップするための場にしたいと思ってやっていました。

「ファンファン倶楽部」の1期から3期までを振り返ったエッセイを書くワークショップの様子。

そのために、用意する質問を工夫して「今、積ん読している本は何ですか?」とか「特技は何ですか?」とか、いわゆる肩書きを話さないままスタートさせようとしたり、開始早々20〜30分程度自分と向き合う時間を取ってから話したり、ということをしています。
その他にも参加者の話したいことがその場の雰囲気によって制限されないよう、1分ずつ話をしていくことや、一定時間ペアになって話をして他の人はそれを聞くというような、ある種のゲームのルールのようにして試していました。

活動の中心としては、個人の頭の中にあるちょっとしたアイデアをみんなに開いて形にしてみる「やってみる時間」というものがあります。
個人的に、共同制作や北澤潤さんのプロジェクトを経験しながら、会話する中でアイデアが生まれたり、自分のアイデアを誰かが面白がってくれたりするときの喜び、さらにそれを実現させる喜びを知っていたので、それをファンファン倶楽部でもやりたいなという思いががありました。

そして、少しずつ何かを試すこと自体の価値を強く感じているので、それ自体が叶うように、さっき言ったような、話し方の工夫をしているという感じです。


人との関わり方、過ごし方を工夫した 「ラジオの時間」

ー他にも遠藤さんにとって印象的なファンファンでの活動があれば教えてください。

遠藤:私の中ではファンファン事務局内部に向けて考えた「ラジオの時間」という情報共有の工夫が定着したことが嬉しいこととしてあります。

もともとは、その時々の興味をラフに話そうという事務局内部の雰囲気と、しかし会議の時間が長くて生活を圧迫しているという状況、また、実は私自身が自分の興味をラフに話し出すのが苦手という現実があり、「雑談」のための時間をしっかりと設けたらいいのではないかというアイデアがありました。
そして、2020年の春、その年のラーニング・ラボの企画を考えるために、話し手と聞き手を1人ずつ決めて話すやり方でそれぞれの関心ごとを共有する時間を作りました。その後その発展として、ラジオ風に「ゲスト」から興味のあることについて10分間話を聞く、という時間をミーティング内に設けたのが「ラジオの時間」の始まりです。これが形を変えつつ、今も事務局の情報共有の手段として使われています。

ファンファンを表す言葉を考えるとき、その一つに「手前から考える」というものがあります。それは例えば事務局内部のコミュニケーションの取り方を見直すというようなことなのですが、私は事務局に入った当初からそこにずっと関心がありました。「手前から考える」ことを大切にしているファンファンだからこそ、こういった工夫のことを堂々と楽しく考え続けられているのかなと思います。

ーちょうどコロナ禍で、Zoomに疲れてきたなという頃でしたね。効率的で単調になりがちなZoomミーティングの中に、遊びを入れるのがうまいなと思いました。そういうことを色々試せる事務局の雰囲気もいいですね。

ファンファンで身につけた、やってしまえ!精神

ー遠藤さん自身が以前から色んな活動をしているなかで、アートプロジェクトを中で動かす側(=事務局)にいることでどんな変化がありましたか?

遠藤:私はこれまでさまざまな活動をする中で、自分に対してアーティストという肩書きを使うことは、どうしてもむず痒く感じていました。ですが、いわゆる「事務局」が運営しているアートプロジェクトの中では思い切り「表現」することができたかなと思います。
その表現というものには様々なレベルがあると思っていて、例えば、自分がデザインしたもので広報することだったり、ファンファン倶楽部を運営することだったり、「ラジオの時間」で自分の考えていることを口に出してみたり、そもそもそういう方法を提案してみたり、私の中では、その全てを表現として考えています。
そして、それらをやってしまえ!という精神は、確実に鍛えられたのではないかなと思います。

これまで話には出していませんでしたが「ファンファンレター」は、私のやってしまえ!精神にだいぶいい影響を与えている気がします。
ファンファンの日々の積み重ねの中に「ファンファンレター」というメディアでありツールが存在していることで、少しずつ少しずつ、身軽な状態で何かをはじめてみるという能力がついていったような気がします。
そして、プログラムを作ったりまとめたりする過程で、その価値をもがきつつ言語化していくことができたことも、とても大きな糧になっています。

画像をクリックすると、これまでの「ファンファンレター」を読むことができます。

ー「少しずつ少しずつ、身軽な状態で何かをはじめてみる」というのは、話を聞いていてすごくしっくりきました。ファンファンは関わる人にとっての自由にひらかれた存在になっていて、遠藤さんみたいに「やってしまえ!精神」が培われる場所になっていそう。
参加者の頭の中にあるちょっとしたアイデアを共有して形にしてみる「やってみる時間」がエリアに根付くことで、ふと何かが立ち上がる瞬間も少しずつ増えていくんだと改めて感じました。
プロジェクトが行われる手前で考えられているような、事務局の生の言葉を聞くことができました。ありがとうございました。

遠藤さんがこれまで関わったアートプロジェクト

▼『FRAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁
遠藤:北澤潤さんのアシスタントとして関わったプロジェクトのうちの一つ。ファンファン倶楽部で参加者のアイデアを形にしにしていくことは、北澤さんのプロジェクトの中での経験からきています。

▼『おじさんの顔が空に浮かぶ日
遠藤:宇都宮で行われていた目のプロジェクトの活動に通っていました。プロジェクトとしての作品制作に関わるプロジェクトメンバーにとっての鑑賞体験の意味を考えさせられた、とても好きなプロジェクトです。

▼「白いチューリップ」
遠藤:大学の同期と始めた、包括的性教育をテーマにカレンダー、映像の制作、イベントの企画などを行っているチームです。

▼「かさねぎリストバンド
遠藤:常に10人ほどのメンバーがプロジェクトベースで集まって演奏しているようなバンドで、私自身はここ以外で演奏する機会がほぼないのですが、それでも参加させてもらえるこのバンドの人の集まり、協働の仕方が面白いなぁと感じています。


ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち― の記録物

▼2018年度・2019年度の活動の中で生まれた“学び“や”対話“を追体験できるように、ハウツー本、写真、マップにまとめたファンファンパック

▼2020年度に実施したプログラムをまとめたドキュメントブック

▼2020年度に実施したプログラムの裏側で、事務局がどんなことを考えていたかを振り返る、副音声風のリーフレット


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