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「やさしい日本語」で、あたらしい当たり前をつくる【アートプロジェクトの中の人】 鄭禹晨(TEI USHIN)@東京で(国)境をこえる

今回はアートプロジェクト「東京で(国)境をこえる」の新メンバー、鄭禹晨さんの事務局での活動をご紹介します。

アートプロジェクトの運営には「どんな人」がいて「どんなこと」をしているのか。【アートプロジェクトの中の人】に伴走するプログラムオフィサーの目線で、お届けしていきます。

今回ご紹介するのは、鄭禹晨(TEI USHIN)さん

鄭さんは台湾出身、日本に来て6年目になりました。
普段は訪日・在日外国人向けメディアの編集者をしながら、都市や異文化をテーマにした映像のプロジェクトに携わっています。

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2019年からTokyo Art Research Lab(TARL)の「東京プロジェクトスタディ」に参加し、外国人が自分の国を離れる理由とその生活を記録した映像作品を制作してきました。
(ページの最後にも企画のお知らせがあるので、ぜひ見てください。)

その最中に多文化共生をテーマにした東京アートポイント計画事業「東京で(国)境をこえる」の存在を知り、今年からは事務局広報担当として加わっています。
なかでも「やさしい日本語」をつかった情報発信は、鄭さん主導で力を入れているテーマでもあります。

「やさしくない日本語」に気づく

そもそも「やさしい日本語」とは、
さまざまな人にわかりやすい文法や表現を使った日本語のことです。
阪神・淡路大震災のときに、外国人へどう情報を届けるかという課題がから生まれました。今では災害時のみならず平時における外国人や子供や高齢者、障害者など、さまざまな人とのコミュニケーションに向いた情報提供手段として広まっています。(参照:東京都生活文化局ホームページ

日本語を日常的に使ってきた人にとっては一般的な単語や言い回しでも、日本語を学びはじめた人にとってはむずかしい段階のものが日常生活の中で飛び交っています。そのなかで生活を送るのはとても困難。
だからこそ、日本語を学びはじめた人にも伝わるよう「やさしい日本語」が大事なのです。

しかし実行するとなると、そもそも「やさしくない日本語」に気がつくこと自体がむずかしい。
いろいろな方々の参加を考えていた「東京で(国)境をこえる」HPの文にも、こんな問題が。

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2020年度までの《東京で(国)境をこえる》公式HP

ふくざつな単語や言い回しが多く、海外にもルーツをもつ参加者からは「ことばが固い」「ハードルを感じる」というコメントがありました。
多文化をテーマに扱うプログラムを行う上で、これではいけません。
このような経緯で、届けたい人に届く「ことば」をつかった情報発信をはじめることになりました。

レッツ!やさしい日本語チャレンジ!

こうして広報の鄭さんだけではなく、事務局+担当プログラムオフィサーを含めた全員の参加によりはじまった「やさしい日本語」チャレンジ。
実際に手を動かしながら、以下の手順で考えはじめました。

①翻訳:1人ずつテキストの翻訳をして、鄭さんに提出
②編集:鄭さんによるテキストの精査、ひとつのテキストにまとめる
③改良:再び全員でテキストをみて、ブラシュアップを行う

単語や言い回しは日本語検定におけるN4~3のレベルを目安に設定、ちなみに鄭さんは日本語能力試験 N1(むずかしい)〜N5(やさしい)のN1をおもちです。
作業を進むなかで、鄭さんからはこんなコメントがありました。

「〝国境〟ということばは〝国と国の境〟と言った方がいいですね」

当たり前のように使用し、プロジェクト名でも使っている国境という単語がむずかしい部類だということを、私たちはなかなか気がつくことができません。
他にも、

〝コミュニティ〟
〝拠点〟
〝共同制作〟

など、東京アートポイント計画で頻繁に使う単語がやさしくない日本語であることがわかっていきました。

「〝共同制作〟は〝作品を一緒に作る〟にする?」
「〝疎外感〟ということばを〝仲間はずれ〟と訳すのもしっくり来ない」

ひとつの単語を変換するだけでも、かなりの議論を重ね、時間を割くことになります。

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単語の他にも、気にしなくてはならないのが言い回しです。プログラムの意図やニュアンスからズレないようにしつつ、わかりやすく伝わりやすくしなくてはなりません。

一度完成。そしてこれから

こうして試行錯誤の結果、できたのが次のテキストです。

BEFORE

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AFTER

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2021年度「東京で(国)境をこえる」公式HP

しかし、これで終わりではなく、道半ば。
これから活動をしていくなかで、他にもわかりづらいという意見が聞こえてくるかもしれません。
そのときは再度、考え直すことが大事なのです。
これは普段の生活において、外国人やさまざまなルーツをもつ人々と向き合うことも同じでしょう。しっかりとこちらの考えを伝えること、伝えることを努力すること、それが互いのすれちがいを減らし、受け止め合う下地を作ることになるのです。

私たちの使う「やさしい日本語」はまだまだ「やさしくない」。
そのことに向き合い、鄭さんと一緒に、これから新しい当たり前をつくっていきます。

お知らせ

鄭さんが関わるプロジェクトで今、参加者をぼしゅうしています!

「kyodo 20_30」
「東京で(国)境をこえる」では、国籍(どの国の人か)・ことば・文化にとらわれず、話し、クリエイションをする20~30歳のメンバーをぼしゅう中!
「東京で(国)境をこえる」のnoteでは、初回の活動レポートを公開中。
鄭さんのWSのようすが見られます!
そしてFacebookでは、毎回どんな活動をするかお知らせが上がっていく予定です。ぜひ、今からでもご参加ください。


また、TARLでは「Multicultural Film Making」がはじまります。鄭さんが監督として「新しいまち」をテーマに、さまざまなルーツをもつ人たちの経験や想いをもとにした1本の映画をつくるメンバーをぼしゅうしています。

それぞれのサイトで、くわしく内容を見てみてください。
そしてぜひ、ご参加ください。

以上。長くなりましたが最後にひとつ。
今回のテキストは「やさしい日本語」翻訳サイトを使って、ところどころ直しています。
AIが手助けしてくれるので、ひとりで煮詰まったときにオススメです。

伝えるウェブ|翻訳をためす

このような事例やツールは東京都の紹介ページにまとまっています。情報発信に役立ついろいろなサイトがあるので、ぜひ参考にしてみてください。


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