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仕事帰りの小さな本屋さんで

2024.1.10

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

(2018.10.28)

映画の上映を待つ間、近くの、小さな本屋さんに行ってきました。

中年のご婦人が一人で店番をされているお店です。

入ったとたん、その静けさに懐かしいものを感じました。

一番奥にある本棚の上に、ミニコンポのスピーカーが置いてあり、ひかえめな音量で、モーツァルトのピアノソナタが流れていました。

出入り口のレジコーナーには、ラジオが置かれているようで、これも小さな音で、AMのトーク番組が。

小さな店に二つの違った音源があるのに、まったくぶつかってはいませんでした。

まるで、トーク番組のBGMにモーツァルトが流れているかのよう。

レジ横にいる彼女の心は、ふたつの音源の間を、一日中行き来しているのでしょう。

今から40年ほど前、私の会社の近くにも、似たような本屋さんがありました。

先輩に叱られ、凹んだ私は、帰りのバスを待つ間、よく、その本屋さんへ行ったものです。

季節は冬の夜、暖かい店内には、同じように静かで、小さくクラシック音楽が流れていました。

いや、静かと言っても、無音ではなく、エアコンの送風音が不思議な安心感を生んでいました。

私にとって、そこは「心のサナトリウム」。

会社を辞めるなら、次はこんな本屋さんになりたいと、若者らしく夢想したものです。

それ以来、悩み事があると、解を求め、だんだんと大型書店の本の森の中を散策するようになり、いつしか、それが趣味になっていきました。下町の小さな本屋さんのことは、すっかり忘れて。

しかし、店こそ違いますが、今回、小さな本屋さんで、40年前にタイムスリップしたような気持ちになり、たった数分間でしたが、映画一本分と言いたいくらいの、感慨に出逢えました。

そして、何よりも、良い意味で「何も変わっていなかった」ことにちょっと驚き。

けっして大型書店がうるさいとは思いませんが、人の気配も含めて、小さな本屋さんは、流れている空気が違うのです。

( これは2018.10.28以降のパレット記事に、抜粋、加筆、再掲したものです。)


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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