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百人一読(70年代周辺)

昨日村上春樹の『めくらやなぎと眠る女』のアニメ映画を観て、今日は村上春樹とその周辺の文学をやろうと思う。時代性が見えてくるかもしれない。


11村上春樹『1973年のピンボール』

新潮の100冊でも村上春樹は上げられているようで、

春樹さんの小説は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(新装版)』『海辺のカフカ』が入っています。『世界……』は、落田洋子さんの装画・街の地図で、単行本とはちょっとちがうテイストが楽しめますよ。

「新潮の100冊」

ということだった。二冊とも読んでいた。新装版は読んでないけど表紙とか違うのか?現実世界と地下世界と『世界の終わり~』も『海辺のカフカ』と重なるところがあるよな。『海辺のカフカ』は最後泣くんだんよな。それがセンチメンタル過ぎてという感じなのか?春樹の小説は喪失した青春時代という作品だと思うのだ。それが一番良く出ているのが、『1973年のピンボール』だと思う。ゴーストになった鼠くんとの思い出とピンボール・マシーンとの出会い。それは今の若い人がコンピューター・ゲームの世界に彷徨う感じなのかな。ヴァーチャル・リアリティがムラカミ・ワールドのキーワード。


12  村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』

1980年前後のデビューで両村上と称えれていた。龍の方が劇画調でその頃は面白かったのだが、それ以降はあまり読んでいなかった。今もロックスターとその取り巻きのグルービーな女たちというファンタジーとして、似たようなラノベはないか?やっぱ春樹の方の時代なんだと思う。新潮の100冊では、ない!新潮文庫で出してないから出版社の絡みがあるのだろう。


13 大江健三郎『『雨の木』を聴く女たち』

大江健三郎はさらに春樹たちの兄貴分の文学だと思うが、マルケスの方に近いのかな。大江健三郎の読書で一番いいと思うのは世界文学が過去からのバトンであり、繋がっているということで世界文学を引用するのだが、フォークナーとか「その息子たち」というような文学で、マルカム・ラウリー『火山の下』の引用とかそこから文学の地下道(アンダーグラウンド)が開けていく感じだった。フォークナーの息子たちは深層世界の「オデッセイア」なのだ。


14 ホメロス『オデッセイア』

村上春樹とか中上健次とか「フォークナーの息子」たちの祖先的文学がホメロス『オデッセイア』とか古典文学になるので読んで損はないと思う。物語形式で「放蕩息子の帰還」という神話パターンは「100分de名著 「千の顔をもつ英雄」ジョーゼフ・キャンベル」でも取り上げられている。



15 中上健次『千年の愉楽』

両春樹の兄貴分的存在なのが中上健次か?彼の違いは音楽の趣味で分かれると思う。中上がジャズでのフリー・ジャズ方面に対して春樹はウェスト・コースト・ジャズからロックへとポップな世界になっていく。龍もジャズよりはロックなのだがポップになるとニューミュジック系みたいな。日本限定なんで世界観に乏しいというか、中上も演歌になっていくんだけれど。大江健三郎がジャズから現代音楽という感じなのかな。

ここではそういう音楽的バックボーンが語りとしての特徴として、『千年の愉楽』では登場人物よりも語り部が注目されるということだ。このへんからメタフィクションの要素が出てくる。

16  ガルシア・マルケス『エレンディア』

マルケス『百年の孤独』が新潮の100冊に入っているのは文庫化されてセールスなんだろう。マルケスだったら『エレンディア』の短編集か『大佐に手紙は来ない』の方がいいと思うけど。マジック・リアリズムという手法でそれが一番感じられる短編が『エレンディア』なような気がする。『百年の孤独』を読める人はそれでもいいと思うが、『エレンディア』は映画化もされた。


17 太宰治『人間失格 』

時代を超えてベストセラーなんだよな。自分が最初に「新潮の100冊」の時代にも入っていたし、中国でもベストセラーだと聞いた。「この主人公は自分だ、と思う人とそうでない人に、日本人は二分される。」ということです。よく「はしか」のように言われるんだけど太宰も語りが上手い作家なのは短編集を読めばわかる。


18 プイグ『蜘蛛女のキス』

マルケス『百年の孤独』が出版されてベストセラーになってラテンアメリカ文学が紹介されるのだが、一番好きになった作家がプイグかな。これも牢獄で好きな男の世話をするゲイ(今はつかってはいけないコトバなのか、オカマのほうがいいのかな?)が映画のストーリーを語っていくのだが、ここでも語りの文学だった。


19 ボルヘス『伝奇集』

「新潮の100冊」にはボルヘスが一冊も入ってないと思ったら、そもそも出してなかった。そういう版権のこともあるから、一概にベストと言っても新潮文庫という縛りがあるんだよな。ボルヘスもラテン文学ブームで読んだのだが、今のほうがよくわかる。最高の文学入門書なのだ。


20 オーウェル『1984』

村上春樹が『1973年のピンボール』から『1Q84』に至る時代の中にあって1984が大きく変化していくのは、パソコン時代でウィンドウズが発売された年(その翌年だった)から現実がネット社会化していく。その管理社会の恐怖を描いたのがオーウェル『1984』ではなかったのか?


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