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あなたが空を見上げれば


あなたが空を見上げれば
わたしも同じ空を見上げ
あなたの視線が水面に落ちれば
わたしは眩しい光に想いを馳せよう

気がつけば季節は
二回りと半分を過ぎていた
歳を重ねた分だけ
強くなった気もするし
狡くもなった気がするよ
素直に生きていたいって願うけど
上手くいかない
しょうがないよね
こんなに生きづらい世の中なんだ
神様だってきっと許してくれるって思うんだ

桜が咲くように
木の葉が色づくように
わたしの中であなたは
静かに規則正しく呼吸する
世間がそうするように
忘れられたのなら
忘れてしまえたらいいのに
知れば知るほど深く堕ちてゆく
あなたが「あなた」と大海に呼びかけるたび
熱く燃える夕陽を抱きしめ途方に暮れる
きっとわたしは
世間になり損ねた出来損ないなのでしょう

今、ここを生きろと哲学者は言う
止めどない流れの中では
今、ここが何処なのかもわからない 
旅の邪魔をするつもりはないけれど
街の喧騒に他の誰でもない
「あなた」を探してしまう
お願いです
わたしの声に気づいたら少しだけ
足を止めてくれませんか

ラジオが梅雨入りを伝える
雲の隙間から陽が射し込み
光の柱が天と地を繋ぐ
青い空が僅かに見える
一縷の望みを抱き
澄んだ色に手を伸ばす
握り返してくれる手は無く
指先に哀しく雨が降るばかりだ

あなたの温度を知らぬまま
また夏が来て通り過ぎてゆくのだろう

あなたが空を見上げれば ———




#詩 #自由詩 #ひとりごと