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ひとりでチャーハン!

※『チャーハン大賞』選外作品です。当作品を含め、『BOOTH』にて電子書籍として販売開始いたしました!
匂い鉢―蒼樹里緒掌編集―

※公式記事にてご紹介いただきました。また、追加特典の『ザ★チャーハン』一袋もいただきました。ありがとうございます!

【追記】『ザ★チャーハン』も実際に食べてみました!


 明太(メイタ)くんは、チャーハンが大好き。お休みの日には、お父さんがチャーハンを作ってくれます。
 フライパンで炒める音が聞こえると、明太くんは待ち切れなくなるのでした。
 卵、チャーシュー、ネギ、カニかまぼこ、お米がフライパンの中で動き回ります。塩、コショウ、しょうゆ、マヨネーズのにおいも、キッチンに広がりました。
「ほら、できたぞ。めしあがれ」
「わーい! いただきまーす」
 できたてほかほかのチャーハンを、明太くんは口いっぱいに入れました。噛めば噛むほど、色々な具とお米がまざり合って楽しくなります。
「お父さん、おかわりっ」
「ははっ。本当によく食べるな、明太は。チャーハンも喜んでるんじゃないか?」
「もう、明太ったら。そんなに食べると、太っちゃうかもよ」
 お母さんがあきれますが、明太くんは気にしません。
「ぼく、朝ごはんも昼ごはんも夜ごはんも、ぜーんぶチャーハンがいいなぁ」
「またそんなこと言って」
「ぼくも、ひとりでチャーハンが作れるようになりたい! そうしたら、いつでもたくさん食べられるもん」
 お母さんが困ったように笑っても、明太くんはにこにこしながら、チャーハンを食べ続けるのでした。

 ある日のことです。朝ごはんのあと、明太くんはふと気がつきました。
 お母さんが、つらそうに頭を押さえていたのです。
「お母さん、どうしたの? 顔が青いよ」
「うーん、ちょっと疲れちゃったみたい。お昼ごはんの時間まで寝てくる」
「わかった」
 お母さんは、よろよろとお部屋へ歩いていきました。
 お父さんは、ラーメン屋さんへお仕事に行っています。今、お留守番ができるのは、明太くんだけです。
「お母さん、だいじょうぶかな……」
 明太くんは、お母さんが起きるのを待つことにしました。
 時計の針が、十二時前をさしました。お昼ごはんの時間が近づきましたが、お母さんは出てきません。
「おなか空いたなぁ」
 明太くんは、キッチンへ行って冷蔵庫をのぞきました。おかずになるものが少なく、すぐに食べられそうなものは、チーズや漬物くらいです。
 それから、明太くんはお母さんのいるお部屋のドアを、そっと開けてみました。
 お母さんは、ベッドの上でぐったりしているようです。
「お母さん、元気になってほしいな……。そうだ!」
 明太くんは、あることを思い出しました。冷凍庫にも食べ物が入っているのです。
 明太くんは、キッチンのテーブルから、椅子を一脚引っ張ってきました。その上に乗り、冷凍庫のふたを開けます。
「ええと……」
 がさがさ、ごそごそ。
 明太くんは、ひんやりとした冷凍庫の中に手を入れ、食べ物を探します。
「あった、これだ!」
 大きな黒い袋には、『オトコチャーハン』と書かれていました。金色の文字が、キラキラしています。
「ぼくだって、小学二年生になったんだもん。お父さんみたいに、ひとりでできる……はず!」
 前にも、お母さんの具合が悪かった時、お父さんがチャーハンを作ってあげていたのです。
 いつもお父さんがやっている、フライパンを使ったチャーハンの作り方が、明太くんにはわかりません。でも、このチャーハンなら、電子レンジでも簡単に作れると知っていたのでした。
 袋の裏には、作り方が書かれています。明太くんは、それをじっと読みました。
「うーん……学校で習ってない漢字がある。読めないよぉ」
 もし、間違えて上手に作れなかったらどうしよう。
 明太くんは、だんだん自信をなくしてしまいます。
 その時です。チャーハンの袋が、急にピカーッと光り始めました。
「うわぁっ!」
 まぶしすぎて、明太くんは思わずぎゅっと目をつぶり、袋をぱっと離しました。
 光がだんだん引いていき、おそるおそる目を開けると……。
「やぁ、明太くん。初めまして!」
 そこには、筋肉ムキムキのお兄さんが立っていました。ぴっちりとした黒い半袖のTシャツには、『オトコチャーハン』の金色の文字とチャーハンの写真が、大きく描かれています。
「だ、だれ……?」
 明太くんは、ぽかーんと口を開けてしまいました。
 お兄さんは胸を張り、はっはっは、と明るく笑います。
「オレは、きみもよーく知ってる、『オトコチャーハン』だ。きみがすごく困ってるみたいだったから、特別な魔法を使って変身したんだよ」
「えっ、ほんと?」
「きみがいつもチャーハンをおいしく食べてくれてるのは、知ってるぞ。やり方を教えるから、お母さんのために作ってみよう!」
「う、うん。わかった!」
 なんだかふしぎなことが起こりましたが、明太くんは、この頼もしそうなお兄さんの力を借りることにしました。
「まず、チャーハンを袋からお皿に出してみよう」
「うん。お母さんとぼくの分だから、お皿は二枚だね」
 明太くんはまた椅子に乗り、食器棚からお皿を取り出しました。いつもチャーハンを食べるときに使う、大きなものです。
 うっかり落としてしまわないように、ゆっくりテーブルに置きました。そして、チャーハンの袋を破り、それぞれのお皿に平らに盛りつけていきます。
 凍ったままのお米や具材は、キラキラ光っていて宝石のようです。
「うわぁ。こんなにたくさん入ってるんだね」
「そうだよ。一袋の量は、大人の男の人でもお腹いっぱいになるくらいだからな」
「お母さんとぼくで半分こしたら、ちょうどいいね」
 二つのお皿が、たっぷりのチャーハンで埋まりました。
「よし。じゃあ、次はお皿を電子レンジに入れて、チャーハンを温めよう」
「うん。ええと、どのくらいあたためればいいのかな?」
「五百ワットで六分間、一皿ずつ温めればオーケーだ」
「オーケー!」
 明太くんは、まずお母さんのお皿を電子レンジに入れました。朝に飲む牛乳や、おやつの時間に飲むココアなども温めたことがあり、どのボタンを押せばいいかも知っています。
 動き出した電子レンジの中で、お皿がゆっくりと回り始めました。その様子をわくわくと見守る明太くんの目も、電気の光を映してキラキラします。
「お母さんのがあたたまったら、次はぼくの分だね。早くできないかなぁ」
「そうだな。でも、明太くん。大事なことを忘れてないか?」
「え?」
 真剣に聞くお兄さんに、明太くんはきょとんとしました。
「チャーハンは電子レンジで作れたし、もうすぐでき上がるし……。あっ!」
 明太くんの頭の中に、あるものが浮かんできます。
「そっか、チャーハンだけじゃないんだ!」
 チャーハンを食べるときには、お父さんはいつもサラダかスープを作ってくれるのです。チャーハンのお米や具だけでは、栄養は摂れません。明太くんが毎日元気でいられるように、お父さんもお母さんも、色々と考えて工夫してくれているのでした。
 お兄さんは、にっこり笑って明太くんをほめます。
「その通り。よく気がついたな」
「でも、どんなおかずがいいかなぁ」
「お母さんは具合が悪いし、温かくて飲みやすいスープがいいんじゃないか? インスタントなら簡単に作れるぞ」
「スープかぁ。さがしてみる」
 明太くんは、また食器棚に向かいました。
 広い引き出しの中には、ペットボトルや瓶、袋や箱などがごちゃごちゃと詰まっています。
 がさごそと探すうちに、明太くんは、インスタント食品のカップがいくつかあるのを見つけました。
「これだ!」
 取り出したカップの中身は、ワカメスープのようでした。
「これなら、お母さんも食べやすいかな」
「ああ。チャーハンにも、ワカメはよく合うしな」
 うんうん、とお兄さんも満足そうにうなずきます。
「じゃあ、さっそく作ってみるよ。先にお母さんの分からね。おにいさん、またやり方をおしえてくれる?」
「任せとけ」
 ワカメスープのカップのふたには、作り方が書かれていますが、明太くんはやっぱり難しい漢字があると読めません。お兄さんに教えてもらいながら、少しずつ進めていきました。ペチャクチャおしゃべりしていると、料理も楽しくなってきます。
 キッチンの蛇口からもお湯は出ますが、もっと熱いお湯が沸かせる給湯器という機械が、電子レンジのそばにありました。お父さんとお母さんが、朝に飲むスープやコーヒーを作るときに使っているのを、明太くんは知っています。
 危ないから一人のときに触ってはいけないよ、と言われていましたが、今だけは特別です。
「カップのうちがわの線までお湯をそそぐ、っと」
 給湯器の注ぎ口の下にカップを置き、明太くんはボタンを押します。ワカメやスープの素が、お湯を浴びてやわらかくなり始めました。もくもくと湯気が立ち、スープとチャーハンのにおいがまざり合って、おいしそうな空気になってきます。
 ところが、あともう少しで注ぎ終わりそうな時。
 お湯が跳ね、明太くんの指にかかってしまいました。
「あつっ!」
「いけない、すぐ冷やすんだ!」
 お兄さんが、キッチンの流し台で明太くんをひょいっと抱っこし、手に水をかけてくれました。ほんの少し赤くなっていた指から、熱もだんだん引いていきます。
 明太くんの目に、涙がじわっとあふれてきました。
「こ、こわかったー!」
「危うく火傷になっちまうところだったもんな。ちゃんと冷やしたし、もうだいじょうぶだぞ」
 お兄さんは明太くんを床に下ろし、大きなてのひらで頭をわしゃわしゃとなでてくれます。そのおかげで、明太くんの涙もすぐに引っ込みました。
「おにいさん、ありがとう。スープもちゃんとでき上がるかなぁ」
「ふたをして三分待てば完成だ」
 お兄さんがカップのふたをさっと閉めてくれて、明太くんはほっとしました。
「ほら、お母さんのチャーハンも、もうすぐ温まりそうだぞ」
 電子レンジのタイマーが、いつの間にか残り十秒を知らせています。
 やがて、ピーピーと音が鳴り、明太くんは電子レンジのふたを開けました。そこには、ほかほかのチャーハンが確かにでき上がっていました。
 卵、チャーシュー、ネギ、塩、しょうゆが入っているのは、お父さんが作るチャーハンと同じです。でも、このチャーハンは、お父さんのチャーハンよりも強いにおいがします。きっと、お父さんは使わない材料が入っているのかもしれません。
「やったぁ、できた!」
 これで、お母さんも元気になってくれるかもしれない。喜んでくれるかもしれない。
 明太くんは、ぴょんぴょん飛び跳ねました。
「よし。スープもできたら、お母さんのところに運んでいこうな」
「うん!」
 どの食器がどこにしまってあるか、明太くんは全部は覚えていませんでしたが、お兄さんと一緒に探しました。
 チャーハンのお皿、ワカメスープのカップ、チャーハンを食べるときに使うレンゲ。それと、お母さんがお薬も飲めるように、お水を入れたグラスもお盆に載せます。
「これでよし、っと。ぼくの分は、あとでじゅんびすればいいや」
「ちゃんとひとりで作れたな、明太くん。偉いぞ」
「えへへ。おにいさんがおしえてくれたおかげだよ」
「オレの魔法も、そろそろ時間切れみたいだ」
 お兄さんの体が、だんだん透明になり始めました。
 明太くんは、目をまるくします。
「おにいさん、消えちゃうの?」
「心配するな。きみがまた『オトコチャーハン』を食べてくれるとき、オレはきみを見守ってるからな」
 にかっと笑って手を振ったお兄さんの姿は、すっかり見えなくなってしまいました。
 少しだけさびしくなりましたが、明太くんは笑顔でお礼を言います。
「チャーハンのおにいさん、ほんとにありがとう! ぼく、チャーハンはいろんなものがたくさん入ってて、いいにおいもして、ごはんのおまつりみたいでたのしいから、ずーっと大好きだよ!」
 明太くんは、お盆を落とさないように気をつけながら、お母さんのところへ運びました。
「お母さん、おきられる? お昼のチャーハンを作ったよ」
「えっ、本当?」
 お母さんがゆっくりと起き上がり、ベッドの端に座ります。
 明太くんは、お盆をベッドの横の棚に置きました。
 湯気の立つチャーハンを、お母さんはうれしそうに見ます。
「これ、『オトコチャーハン』だね。明太が電子レンジで温めてくれたの?」
「うん。ワカメスープもね。食べて早く元気になって、お母さん!」
「ありがとう。じゃあ、いただきます」
 レンゲを握ったお母さんは、まずワカメスープをすくって飲みました。それから、チャーハンを一口。じっくりと噛みます。
「とってもおいしい。明太が作ってくれたから、いつもより優しい味がする」
「よかったぁ!」
「用意するのも大変だったでしょ。よくがんばったね」
 明太くんの心は、チャーハンのようにほかほかになりました。
「ところで、キッチンのほうがにぎやかだったみたいだけど、お友達が来てたの?」
「えへへ。実はね……」
 あの筋肉ムキムキのお兄さんと楽しくおしゃべりしたことも、明太くんはお母さんに教えました。
「ぼく、今度はフライパンでチャーハンを作ってみたいな!」
「そうだね。お父さんとお母さんと一緒にやってみようか」
 お母さんが、スマートフォンでチャーハンの写真を撮りました。そして、それをお父さんに送ります。
 何分か経つと、お父さんから返事が来ました。
「明太が作ったのか! おいしそうだ。よくできたな。お父さんも、明太と一緒にチャーハンを作りたいよ」
 お父さんの言葉を読み、明太くんもお母さんもにっこり。
 二人の様子を、チャーハンもうれしそうに見守っているようでした。

 —完—

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