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イきり・オブ・ザ・イヤー2022王者到来!

『こんな小さいお気持ちじゃ真剣に打てないよぉ~』

とタコ負けしている新規のお客さんが俺に”いつも高お気持ちで打ってますアピール”をしてきた。

麻雀は目に見えないものが多すぎる。ゆえにどんな強者でも負けることがあるし、弱者でも大勝ちすることもある。これは麻雀を打つうえで受け入れなければならないことである。しかしそれを受け入れられない人が良く使うのがアピールだ。
アピールをしてくる奴の心理というものは大体決まっている。自分は強いんだ!弱いと思われたくない!という承認欲求だ。
例えば連続でラスったりすると、ネット麻雀の段位を持ち出してきたり、この前いくら勝った、何連勝したとか言って自分は弱くない、手が入っていないだけだというアピールをしてくる。ぬるい放銃をしたときは『いつもリャンピンで打ってるからさあ、低レートだと全ツしちゃうんだよね~』といつも高レート打ってますアピールをしてくる。
アピールの内容はいろいろあるが、多少盛ってはいても完全に嘘ということは少ない。いつもリャンピンで打っているという人も1回は打ったことがああるだろうし、ネットの段位も+1段か+2段ぐらいだろう。ピンすら打ったことない人がリャンピンを打ってるというのは聞いたことが無いし、雀魂で王座の間にも行ったことない奴が魂天を名乗ることなんてまずない。麻雀で何かをアピールする際、盛りはしても自分の身の丈を逸脱しない程度のアピールにとどめるのが普通である。

しかし、麻雀界にはそんな常識が通用しない奴もいる。アビスの中ぐらい常識が通用しないのだ。俺は雀荘に務めて13年になるが、いろんな奴を見てきた。ある程度変な人が現れても、耐性がついていてあまり動じないのだが今回の件はあまりにも面白かったので記事にしようと思った。

ある日、うちのお店にいかにも香ばしそうな新規が現れた。名前を白石と名乗った。背は170㎝ぐらい。色の入った眼鏡をしていて歳は20代後半ぐらいだろうか。
『特殊麻雀打てるの?』
初対面でタメ口である。
『はい。ちょうど四季東天紅というものが立っていますのでそれはいかがですか?』
と勧めた。四季東天紅というのは俺が五等サンマをヒントに考えた東天紅である。まだ動画にはしていないがめちゃくちゃ面白い。サンマ専門Youtuberであるdaisenさんがnoteにまとめているので詳しく知りたい方はそちらをご覧いただきたい。

東天紅を知らない人はこちらの動画を

半荘という概念が存在せず、1局で完結する麻雀である。

『なんでもいいよ。どんなルール?』
と白石は興味を示した。
ルールを説明しおわり、お気持ちの話になる。
『1点10種籾です。』
というと
『え?たった10?安すぎるよぉ~』
と言われた。
『ウチはソフト麻雀なので…』
『いやぁ、10の東天紅なんて打ってらんないよぉ~』
『すいません。それですと通常のフリーを打ってもらうしかないです。』
『フリーはいくつ?』
『0.5種籾です』
『普通のサンマだよね?』
『そうです』
『まぁ、四季東天紅のほうをやるかぁ~。せっかくきたしね。』
『分かりました。』

ということで四季東天紅に案内することになった。普通、こんなヤバそうな奴をほかのお客さんと打たせるわけにはいかないのだが、四季東天紅をやっていた人が常連の磯山さんと木村さんであった。磯山さんは普段気持ちの高い麻雀を打っているが、四季東天紅が好きすぎて安い気持でも喜んで打つ人である。そして木村さんは特殊麻雀全般が好きでお気持ちは関係ないという人だ。この二人、香ばしい奴が来たらおだてて木に登らせ、降りてこないところまで持ち上げる。過去に何人もの香ばしい奴が餌食になってきた。だから今回も何の迷いもなくその卓にぶち込んだ。

数時間後、フルボッコのぼっこになっている白石の姿があった。四季東天紅はとあるアクションがとても不利になる。それを分かっていない白石はそのアクションを取り続け負けに負けていた。すると、

『いやぁ、小さいお気持ちだと真剣に打てないんだよな~』

とお決まりの普段高いお気持ちで打ってるアピールを始めた。
外から見ていた俺は
『普段どのくらいのお気持ちでやってるんですか?』
と聞いた。
すると

『マンズが入ってて、マンズがすべてガリ扱いの東天紅を1点100種籾でやってるよ~たまに200になったりするけどねw』


と信じられないようなお気持ち表明がされた。
やったことない人のために説明すると、1局につき5000~種籾ほど動くお気持ちである。普通の麻雀に換算すると1半荘で50000種籾ほどだ。

そんなわけないだろwww

っとツッコミを入れるのを我慢した。後ろから白石の麻雀を1時間ほど見ていたが、牌効率の基本ができていない。形にも弱く、待ちの把握もできていなかった。雀魂で言うと雀豪2~3レベルだ。そんな奴が200の東天紅で勝ち切れるわけがない。ただの金持ちかと思ったが、財布がボロボロだったのでそうではなさそうだ。

そして散々ぼこぼこにされ、-200000点程負けた。東天紅をやったことある人は信じられないと思うが、四季東天紅はそのくらい負けることもあるスリリングなゲームだ。
そして卓が割れた。白石は

『いやぁ、今度はもっとお気持ち高いのでやりたいなぁ~』

と言い出した。そこに反応したのが磯山さんである。

『え?いいよ?どのくらいでやる?』


と白石に食いついた。確かに、こんな実力の人が高お気持ち打ちたいと言っているのだ。そりゃあ食いつくに決まってる。家に帰ったら自分のベッドに裸のガッキーが寝ていたら襲わない人はいないだろう。
『え?やってくれるんすか?wそれなら50以上がいいですねえ~』
と白石は勝ってもいないのに喜び感情を前面に出した。なんだその自信。
『じゃあメンツもう一人は肥え×君が入ってくれるよね?』
と磯山さんが俺に振ってきた。

いやいや、またれい。

何を勝手に話を進めている。お気持ち50の四季東天紅は歌舞伎町のピン東と同じぐらいだぞ。1局で200点とか出ることもある。白石、おまえ、今日200000点負けてるからな?3時間ぐらいで。
それにここをどこだと思っている。ソフト麻雀Donkey'sだぞ。(ステマ)

ソフトって意味知ってるか?優しい、柔らかいっていう意味だ。それに麻雀を付けてソフト麻雀だ。優しい麻雀屋なんだわ。初心者でも楽しく安心して遊べる雀荘。それがソフト麻雀Donkey'sだ。それをなんだ、人が破産するような気持ちの四季東天紅を立てるだと?たとえ白石がただのカモでめちゃデカい期待値を背負っていて、やればほとんど負けることはないとしても、俺はお店を預かる身だ。店の秩序は俺が守らなければいけない。磯山さんはめちゃくちゃやりたがっているし、俺も正直めちゃくちゃやりたい。でも、しかし、俺はそれを許すわけにはいかないんだ。申し訳ないと思いながら俺は口を開いた。

『いいですねぇwwwやりましょうwwwいつにしますか?www』

おかしい。口が勝手にとはまさにこのことである。”手が勝手に”とか”足が勝手に”とかドラマやアニメで出てくるが、『そんなことはないだろ。確信犯じゃねぇか』と、多くの人がそう思っていることだろう。そうではなかったのだ。俺はお店を預かる身としてそんな返事をするわけにはいけないのになぜだかどうしてか全くわからないが口が勝手にOKの返事を出してしまったのだ。しかし拙者も男でござる。男に二言が無いというのは常識でござろう。口が第二の人格を持ってしまっているというのは拙者の勝手な都合でござる。店を預かるこの俺に二言があったとなっちゃあ店の信用問題にかかわるでござる。OKを出してしまったのなら仕方ない。やるしかないのだ。本当に仕方ないので候。

『おーし!じゃあいつにする?』
と磯山さんがウキウキで日程の調整を合わせに入った。
『俺、このあと大阪に行って仕事があるんでその帰りにまたよります。明後日の日曜日の夜からどうですか?』
と白石。
『日曜日の夜ね?何時ぐらい?』
『うーん、仕事が終わるのが未定なので、当日お店に電話しますわ。』
『オッケー!じゃあ肥え×君、日曜日ね!』
最終確認だ。これでもう後戻りはできない。ソフト麻雀Donkey'sからハード麻雀Donkey'sに生まれ変わるんだ。悲しい。あまりにも悲しすぎる。だが、人は変化し続けるもの。それを受け入れなければならない。そんな気持ちを押し殺し返事をした。

『分かりましたwwwww日曜日っすねwwおkでーすww』


磯山さんと白石と俺で四季東天紅50以上お気持ちで卓を立てる約束をしてその日は解散となった。

さあ、いよいよ決戦の日である。それまで俺は勝った種籾で何をしようか考えていた。母ちゃんの誕生日が近かったから空気清浄機でも買ってやるかとか、ちょっと店のスタッフ連れて飲みに行くかとか。不思議である。どうしてまだ得てもいないお気持ちを自分のものになったものとして使い道を考えてしまうのだろう。まるで宝くじを買って当選番号が発表されるのを待つ人みたいだった。俺は宝くじを買ったことがないが、きっと買う人は当選番号が発表されるまでのウキウキ感にお金を出しているのだろう。

ピンポーン

店のチャイムが鳴り、磯山さんが現れた。ニッコニコである。今日という日を楽しみにして昨夜は眠れなかったという。
『肥え×君、いくら持ってきた?』
『50以上ってことなのでですが100想定で30万種籾ほど持ってきましたwまぁ払うことは無いと思いますけどw磯山さんは?』
『肥え×君と同じくらい。いやぁ、今日は奪い合いだね!』
『磯山さん、今日は負けられませんよw殺し合いですなw』
と談笑しながら白石を待った。

しかしいい時間になってもお店に電話が来ない。どういうことだ。俺も磯山さんもしびれを切らしそうになっていた。

『もしかして、来ないんですかね…』
『肥え×君、俺が今日をどれだけ楽しみにしてたか分かる?』
『分かりますよ…あんな香ばしい人と打てるんですから…俺も楽しみにしてここまで生きてきました…』

さらに1時間が経過し店の電話も鳴らない。ふざけんな。俺たちの楽しみを…ぬか喜びじゃねぇか。ちくしょう…

ピンポーン!

きたあああああああああああああ!!!と店のチャイムが鳴った

入口を見ると…

ドンキーズのスタッフのはると君が遊びに来た。↓はると君

『おまえかよおおおお!』
と磯山さんがキレた。理不尽である。
『え?wどうしたんですか?w』
とはると君は全く動じず聞いた。
実はかくかくしかじか…
『へぇ~すごいですね~、とりあえず来るまで四季東天紅やりましょうよ!』
『おっしゃ!50でやるか!』
と学生のはると君に対して50種籾で始めようとした。

『だめです!10で!』

おかしい。ちゃんと止めることができた。なぜ白石の時は止められなかったのだろう。まぁいい。
磯山さんとはると君ともっさんでいつもの四季東天紅が始まった。↓もっさん

俺は動画編集して待ったが、さらに2時間経っても来なかったため、俺はもうあきらめて家に帰ることにした。磯山さんも残念そうにしていたが大好きな四季東天紅が打てて楽しんでるからいいだろう。めちゃくちゃ楽しみにしていた遠足が台風で中止になってしまった小学生のあの頃を思い出しながら店を出た。

そして家路につこうとしたその瞬間、電話が鳴った。もっさんからだ。

『肥え×さん!白石から連絡ありました!今豊橋駅に着いたって!』

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