海辺のスケッチ

(一)音楽室
ピアノは
音の波打ち際です

しおざいが音楽になる
波打ち際です

ピアニストの指でなぞる

ピアノにとってのさざ波は
ピアニストが去った後の
無限の沈黙です


夜明け前
誰もいない音楽室から
波の音が聴こえてきたら

鍵盤に耳を
あてて見て下さい

なつかしい
海のにおいが、するから

(二)銀河
どっちが海で
どっちが銀河か
わからなくなる

どっちが波音で
どっちが星のまたたきか

星は回り
波は止まない
海は広く
銀河は果てしなく

そして
夜明け前の海と銀河は
どちらも静かで
どちらも遠くて

どっちも、やさしい

どっちも
ひとりぼっちの
わたしの涙を包んでくれた

どっちが海で
どっちが銀河か
わからなくなった

海に映った銀河と
銀河に映った海と

波音に抱かれた
星のまたたきと
銀河のまたたきに
とけた波音と

(三)心
海を見ることは
心を見ること
海を聴くことは
心を聴くこと

海のスケッチは
心のスケッチ
海の唄は心の唄

だからどこにいても
海を見ることができる
どんなに遠くても
海の音が聴こえる

ひとりの時は
海を見ている
ひとりの時はいつも
波の音を聴いている

海を見ることは
わたしを見ること
海を聴くことは
わたしを聴くこと


だから
いつかわたしに
会いたくなったら
海の絵を、描いて下さい

そしてわたしの唄を
聴きたくなったら
海の絵に
耳を澄まして下さい

海を見ることは
心を見ること

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眠れない夜に

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