見出し画像

#2 噛んだ悲しみは、不思議と甘く

昨晩のこと、仕事を終えた帰路にて、父から一件のLINE。


「こんばんは!いい写真だろう?好い遺影になりそうだな?
 白髪頭になってしもうたわ。先が長くはないかね?父より」


彼はいつも、どんな内容でも、はじめにきちんと挨拶してくれる。
わたしはそんな、彼の身内に対する尊厳の保ち方と示し方が好きで、
真似しているうちに、わたしもすっかり習慣になったりしている。


送られてきたその写真の中の彼は、たしかに朗らかに笑顔で、
わたしの記憶の中の彼よりも白い髪をしているようだ。


さて、なんと返信をしようかな、、、


じっくり考えているような、
あまり考えてないような気でいたら、
もてあましているうちにもう日付が変わりそうだ。



大したことないつもりでいたのにすでに思考の隅の方から、
雨が靴先に染み込んでくる様に、
悲しみがゆっくりと、でも着実に、広がってくるのに気がついてしまった。

わたしは慌てて、努めて明るく返信をした。

「こんばんは、素敵な写真ね♩
 父さんの白髪はとってもきれいよ。
 君が死ぬ時には一緒にゆくから安心して!」

、、、、、、、。

待たせすぎたのか、父はもう寝てしまったようで、
返信は来なかったが、そのおかげでわたしもそれ以上構えずに済み、
ベッドに入った。

明日の朝にはきっと彼から、
立派な父親らしい一喝メッセージが届くだろう。

そんな予想と熱い水滴に心がふやけていくのを感じながら、
ぜんぶ自然の摂理だと改めて納得しながらも、
ちょっとばかし悲しい眠りに落ちてゆく。

それでも彼を愛しているのだという単純な事実を、
身が切れるほどに再認識しながら。
そんな痛みの中に潜むある種の甘やかさも、
ちゃんと夜風に感じながら。

            2023/6/13   霞みの渋谷にて  セス・プレート

追伸
しなびたレタスは50℃のお湯につけると、シャキシャキにもどるらしい。
不意な夜をやり過ごした今朝のわたしはというと、妙に元気。
自分でも「いい感じだな」と思うくらいにしっかりしちゃってて、
機微の長持ちしない奴だとも、わりと逞しく奴だとも思えて、
ちょっと可笑しくて、変に嬉しくって、結果妙に元気。
熱めのシャワーを浴びたからかしら?ふふふ、レタスの如し。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?