【ショートショート】帰りたくない人
おかしな感覚かもしれないから、あまり今まで人には言わなかったのだが時間もあることだしこの機会だから語ってみようと思う。
私は実家のある愛媛県から就職のために出てきた岡山県に帰るバスに揺られている。読みかけの本を閉じ、ふと窓の外に目を向けた。
つい30分前に松山市駅から高速バスに乗り込んだ。
バスが動き出すその瞬間まで母は見守ってくれる。
お盆明けの蒸し暑さの残る日もお正月終わりの凍えるような日もバスが見えなくなるまで。
「私もう大人だよ。そんな見送ることないのに。」と心の中