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2020年R-1グランプリで「スマホゲーム実況」が優勝したことの意味

2020/03/08 に、日本一面白いピン芸人を決めるR-1グランプリが行われました。まずは、優勝したマヂカルラブリーの野田クリスタルさん、本当におめでとうございます。めちゃくちゃわらいました。

今回はコロナウイルスの影響でお客さんがいないという異例の大会となりました。その辺に関しては誰かもっとお笑いの造詣が深い人が色々な考察をしてくれるんじゃないでしょうか(と他力本願

で、僕が衝撃的だったのは、野田さんのネタが両方(本戦・決勝)ともにスマホゲーム実況ネタだったってことなのです。この衝撃を、お笑いという文化、ゲームという文化、コンテンツの作りやすさとしてのゲーム実況としてまとめていきたいと思います。

観客との共感覚をお笑いに変えるということ

単なるサラリーマンの私がお笑い論を語るなどおこがましいですが、少しだけお付き合いください。そもそもお笑いとは、「ボケとツッコミ」・「緊張と緩和」によって成り立つ芸というのは、みなさん承知のことだと思います。

たとえば、サンドイッチマンさんの下記の漫才では、

「僕ら、ラグビー部で知り合ったんですよね」
「人ってだいたいラグビーで知り合いますからね」
「そんなことないよ」

というくだりがありますが、このボケとツッコミは、「人はラグビーで知りあう方が珍しい」という暗黙の前提があって成り立つものなのです。要は、「ツッコミ=お客さんの代弁者」という構造になっているのが、基本的なお笑いのスタイルだと思います(ここを壊してきて活躍されている方もたくさんいらっしゃいますが)。

そのような構造をとっているからこそ、ボケの仕草や言葉を観客が理解できることというのがお笑いでは重要な要素なんだと僕は理解しています。要は、観客との共感覚があるからこそ、「そんなことないやろ」等といった笑いに転換できるんだと思います。

たとえば、今回メルヘン須長さんが披露されていた「SNSあるある」は、SNSをやっていない人にはあまりピンとこなかったネタだったと思います。逆にSAKURAIさんが披露されていた歌ネタなんかは、一般的なワードで笑いを取れるネタだったんじゃないかなって思います。

ゲームとお笑い

お笑いとゲームといえば、結構歴史は古く、(今回審査員もされていた)陣内智則さんが有名ですよね。たとえば、下記の動画ではゾンビゲームを題材にして見事お笑いに昇華しています。

これは、ゾンビゲームのゾンビは基本やられ役で、喋ることはないという共感覚があれば楽しめるネタになっています。彼は他にも、育成ゲームだったり、ドライブゲームだったり、いろいろとゲームを元にしたネタをもっています。

ゲームという映像を使えば、ゲーム画面そのもの華やかさだったり、ゲーム画面の動きで「緊張」を演出できるので、基本的にピン芸人と相性がいいと思っています。

ただ、これがR-1, M-1といった賞レースで勝てるテーマであるかどうかは判断が難しいところです。実際、2016年のM-1グランプリでは、ハライチさんが「ドラゴングランプリ」という架空のゲームを使ってネタをやりましたが、審査員からの共感覚を得られずに得点が伸びませんでした。そのネタの中では、

「俺の名前は勇者澤部だ」
「よくぞこの世界に参られた、勇者勇者澤部よ」

という掛け合いがあるのですが、これはRPGの名前は自分で設定できることを知らないと笑えません。たとえば「よしひこ」とつけたら「勇者よしひこ」と呼ばれるというような。これを知らないと、イマイチ笑えない。というか、面白さが理解できない。

なので、賞レースにおいてゲームをテーマにするのは勇気のあることなんじゃないかなと思います。

ここまで読んで、「野田さんはスマホゲームネタで優勝したから、スマホゲームがお茶の間の共感覚として受け入れた。そのこと自体がすごいということを書きたいブログなのかな」と思った人、半分あたりです。もう半分は「実況」をテーマに深堀りしていきます。

ゲーム実況としてのマヂカルラブリー野田さんのネタ

今回のR-1で優勝した野田さんのネタは、紛れもなくゲーム実況でした。その点をもって、「日本で一番面白いピン芸人ネタは、ゲーム実況だった」という歴史的な大会だったとおもいます。言い換えると、コンテンツとしてのゲーム実況が、お茶の間に評価された(常識として受け入れられた)んだなという歴史的な回だったとおもいます。

R-1を見てない人のために優勝ネタをちょっと補足します。彼がプレイしていたのは「モンスト」と略される、「モンモンとするぜストッキングお姉さん」という自作のゲームです。審査員の陣内智則さんいわく、彼が自分で作ったゲームとのことです。

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もちろん、課金・モンストといったワードをつかって笑いをとっていたということに対して、その言葉が一般化したんだなというゲームの共感覚層の広がりを感じました。

しかし、そのことよりも僕が注目したのは下記の2つでした。

①野田さんが実際にプレイしている(ように見える)
②ゲーム自体はシンプルで、いわゆる「ボケ」の要素は少ない

①つめ。上記の動画を見てもらって分かるように、彼は実際にゲームをしている(機内モードにしたiPhoneを直接ディスプレイにつないで操作している)。その上で、言葉巧みに笑かしてくるのだ。

もうこれは、ゲーム実況そのものだと僕は感じました。とくに、決勝ではなく本戦で披露した「ももてつ」のネタは、まさにゲームのチュートリアルを面白おかしく話しているゲーム実況そのものでした。

②つめ。いままでのゲームネタ、たとえば陣内智則さんのネタは、映像そのものが面白いことが多いです。その観点で言うと、野田さんのネタは映像そのもののボケは少なかったのが印象的でした。もちろん、ストッキングお姉さんのビジュアルが面白かったりするなど、最低限のボケはありましたが笑。

では、なにで笑いを展開していたかというと、それがまさに野田さんのゲームプレイでした。モンストネタでは、ストッキングお姉さんの目からビームがでてきて、自機にあたって自機のハサミが爆発するというくだりがあります。そのくだりの次の展開を考えてみます。

これまでのゲームコントであれば、ビームの数を増やして「今度はビーム増えるんかい!多すぎやろ!」のようなツッコミが主流なのかなと思います。しかし、野田さんは、ビームを避けてプレイを続け、さらに次の展開で笑いを取っていました。その、ゲームをクリアできるかな?という緊張感を、うまくお笑いの緊張と緩和のフレームワークに昇華していたと思っています。リアルタイムで操作しているからこそ生まれるライブ感がうまくピン芸にマッチしたんだなと深く感心しつつ、見てる間は爆笑しておりました。

まさに、「ゲームしているだけで面白い をプロがやるとこうなる」というのをまじまじと見せつけられた3分間でした。ちなみに、おすすめのゲーム実況者の明日香ちゃんねるを貼っておきます笑。ゲームをしているだけで面白いということの本質が詰まったチャンネルですのでおすすめです。もはやこの芸は、「ゲーム漫談」といっていいのではないかなと思います。

2020年R-1グランプリで「スマホゲーム実況」が優勝したことの意味

ひっぱりました笑。2020年R-1グランプリで「スマホゲーム実況」が優勝したことの意味は、「「喋りながらゲームするのって面白いよね」という感覚がお茶の間に受け入れられた」ということなんだろうなと思っています。

・モノマネって面白いよね
・裸で絶叫するのって面白いよね
・リズムネタって面白いよね
・あるあるって面白いよね

と同じところに「ゲーム漫談って面白いよね」が並んだ日だったなって思います。上でも書きましたが、「ゲームがボケてそれに突っ込む」というスタイル(いわゆるフリップ芸の代わりのゲーム画面)ではなく、「ゲームをしながら面白いことをいう」という、ゲーム漫談というジャンルができた日なんだろうなと。

これからもゲーム漫談というジャンルの芸人さんがたくさん出てきますように。

ゲーム配信とお笑いが大好きなただのサラリーマンが一筆書いてみました。
おわり。

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