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◇配信前夜のエッセイ3――無料公開の見取り図

 どんなふうに公開?
 エッセイ全5回予定の3回目にして、すでに息切れしつつある今日この頃。さすがにそろそろケリをつけないと、原作ゲーム発売30年を祝えないし、【2018-2019限定無料公開】を謳えなくなる恐れが……。ともあれ、まもなく始まろうとしております、今回のWEB公開という試み。
 これ、前からずっとやりたかったことで、だいぶ準備をしてきたところなんですが、準備しすぎたがゆえに多少の遅れさえ生じ、それをさらなる努力によってどうにか乗り越えて、とうとうここにたどり着きました。全エッセイ公開後、可及的すみやかに、プロ野球ゲーム小説集『プロ野Qさつじん事件』の期間限定無料公開を始めたいと思います。

 ダ・デアル調とデスマス調とを痙攣的に行き来するのは、公開前夜(実際には前々々夜くらい?)を迎えての、武者震いあるいは魂の震えみたいなものだろうか。小説が毎日更新されていくなかで、電柱の陰に隠れてじっとそちら側を窺う男の心悸昂進した息づかいなど、どうか気になさらないでください!
 ……率直に申しまして、せっかくこうしてWEB公開の機会を得ていながら、どうもここにきて気持ちに迷いが生じているのも偽らざるところ。さあこれからどうなりますことやら。と、WEB界へ初めて小説作品を送り出す親の気持ちがわかってきたような……?

 掲載1回分の長さが400字詰原稿用紙で25枚から30枚に及んだ場合、長さのために読者をげんなりさせてしまわないか……短めのほうがWEBでは読みやすいと噂されていますが、長めのものを短く分割したら読みやすくなるなんてこと本当にあるんでしょうか?
 章や段落の立て方からセンテンスの長短についてまで、「読まれやすさ」を考えて書いていたかどうか。そういえば普段読む文章は横書きのものも多いのに、横書きで文章を書くのは久しぶりだと気づかされる。また作品によっては「1Lアケ」を多用する場合があるにしても、ブログの記事等とくらべたら小説の文章は長ったらしく感じられるかもしれないよなあ、と。

 本電子書籍の構成
 まずは、来年発売されます電子書籍『プロ野Qさつじん事件』の中身、収録作品は以下のとおりです。

中篇「プロ野Qさつじん事件」(←限定無料公開)
短篇「すぴんおふ1――(非公開)日記」
  「すぴんおふ2――プロ野球選手の妻」
  「すぴんおふ3――プロ野Qさつじん事件 所沢編」
  「すぴんおふ4――早わかり『プロ野球?殺人事件!』
           ――ゲームをはじめるまえに――」

 ここで一度、公開分のテクスト全体をくわしく確認しておきたい。表題作の中篇「プロ野Qさつじん事件」は240~50枚ほどで、各章長さの異なる11の章で構成される。「0 ぷろろーぐ」は比較的短い状況説明的なパートだ。またつづく「1 自宅」というのがむやみと長く、主人公の元プロ野球選手のやや停滞した日常と、彼の過去について描かれる。その次がさらに「2 過去」であり、誰がどう言おうと過去なのであって、こうした面からすると、エンターテインメント作品だとの主張もだんだん怪しくなってくる……。
「3 自宅――事件」となり、ようやくここであのニセ札殺人事件が発生、日常は破られ事態は切迫し(「ウワーッ!! さつたばだ。どうしよう? いがわさん。」)、野球人二人が警察から逃亡すべき状況に陥る。すると次章が「4 逃亡」……というわけで、我ながら章タイトルが何ともわかりやすい。

 いや、展開はそんなに単純ではない(はずなんです)。そこは作品内作品の存在など自己言及的な構造により「メタっぽいこと」もしているのであって、何かと事情が込み入りがちなのを中和する意味でも、本筋とは関係ないどうでもいいような挿話とか、逆に直線的に謎を追いかけていく展開など(散文性とスピード感?)が必要になってくる。プロ野球界隈の豊富な話題、昭和末期の世相、ゲームの設定や世界観と、小説の材料には事欠かず、きっと多すぎたくらいの展開であった。

 話をもつれさせることにかけては、本領を発揮します。つまり脱線ですが、心理描写ではないプロ野球選手の横顔などを盛り込みすぎるきらいがあります。実をいえば「1 自宅」がいま以上に長くなりそうな気配を察知し、これを本体から切り離すようにしてまとめたのが「すぴんおふ1――(非公開)日記」という短篇です。「いがわさん」と呼ばれる男の日記の文面など。
 本書併録の「すぴんおふ1~4」(書き下ろし含め4作品120枚、電子書籍特典?)は、だいたいそうした経緯から、「脱線するならトコトン脱線しよう」と本気で投げた大暴投というべきもの。第3章の事件当夜を主人公の妻の視点から描いた「すぴんおふ2――プロ野球選手の妻」もまた同様であります。

 濡れ衣を着せられ独自の犯人捜査(球界人脈を利用する)に乗り出した主人公は、様々な交通手段を用いて全国11球場7都市を経巡る。すべてのステージをクリアして「15 最終回」で何者かとの最終対決に臨むことになるのだが、そのだいぶ以前、「9 神宮外苑」でとあるゲーム内にはない大きなつまづきにより、せっかく見出しだけ用意していた10章以降の各都市は、訪れたらしい痕跡だけが残ることになった。
本文中には章タイトルのみが以下のように掲載される。

10 所沢周辺
11 名古屋
12 広島○×▲篇
13 ナニワ圏
14 至東京

 ゲーム内容を知る人間からすれば、これは非常にもったいない。名古屋では三冠王三度の大打者とその素敵な奥さんに会えるはずだし、広島は任侠映画とはちがいとても平和な都市で、現地では何か重要なアイテムを手に入れることになるはずだった……。
 また「ナニワ圏」とはナニワ広域圏(阪神エリア)のことで、過去の経緯から主人公にとって一般市民からの風当たりが異常に強い土地ではあるものの、大阪の二球場に加え兵庫県西宮市内の二球場とで四球場もあり、当然昔もいまもプロ野球の盛んな土地だった。「バイソンズ」「フォークス」「ブレイビーズ」そして「タイガーキャッツ」と、多くのチームのプロ野球選手や関係者たちが待っている(あの国民栄誉賞辞退者、数年前の某球団優勝監督にしてイジられ役の元監督、当ゲーム会社社長などまで)。

 その土地でも、当時の「黄金時代」の憧れのプロ野球選手たちが待っていてくれる。道路沿いの風景が牧歌的でやたらと緑の面積が多い。そこにある大きな湖は狭山湖(山口貯水池)なのだ。球団オーナーは民間鉄道会社である一方、主人公は「ジェイアール」の新幹線しか利用しようとしないため、移動手段は車にかぎられる。しかも都内から関越自動車道の所沢インターを利用したのでは球場までが遠いとの判断により、一般道の「しんおうめかいどう」を経由して向かうことになるのであった。
 所沢ステージにはホテルがなくて、泊まるとしたら「ビジネス旅館」ともいいがたい、テレビも置かない畳敷きの民宿である。住んでみればきっといい土地(筆者の実家も近い!)なのに、後年の状況を見るかぎり、その後多数の中心選手がチームから移籍することになる……。
 主人公が愛車のBMWを飛ばして「レオポンズ」の選手に話を聞きに行く章は、「すぴんおふ3」のタイトル通り「所沢編」として、独立した短篇で読むことができます!
(「すぴんおふ4」はゲーム内容などをじっくりと書いたエッセイです)

次回完結!? スケジュールが怪しいので、「配信前夜のエッセイ」第4回5回分は、同日更新を目指して書こうと思います……。