見出し画像

江ノ島ねこもり食堂/名取佐和子 読書記録#36

 江ノ島に生きる女性たちの年代記。佐宗家の女性たち四代の人生を綴った、百年の物語です。

 章の並び順が少し特殊で、時系列順ではなく最初に2000年代、次いで大正・昭和、そして2020年代へと進む構成になっています。
 現代編の語り手・麻布の狭かった世界が、やがて大きく広がっていく。それはそのまま百年の歴史を紐解いてきた読者の体感でもあります。開かれていく、雄大な生の風景。それはまるで江ノ島の弁天橋から見た海のように。

 そうした四代に渡る暮らしを変わらず見守るのが、島の猫たちです。タイトルにもある「ねこもり」とは、佐宗家の女性が代々受け継いだ、島猫の世話をする役職のこと。猫たちは自由気ままに、かつ力強く日々を生きている。それが佐宗家の人々の暮らしぶりとも重なり合って見えてきます。
 物語各所に登場するある猫がいます。トラと呼ばれるその猫は、キツネに似た大きな耳と背中の五本線が特徴的。何代目かもわからない、もしかしたら百年生きているのかもしれない、そんなトラの存在からは、何か超自然的なものを感じます。トラは猫神様なのかも。

 人も、猫も、それぞれ懸命に生きている。生きて、命を次代につないでいく。島という小さな世界から、命のバトンという大きな世界へと開かれていく情景が、不思議と心地よく感じました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?