あおきひび

文を読んだり書いたりする人。 noteでは主に読んだ本の感想を書いています。 記事を読…

あおきひび

文を読んだり書いたりする人。 noteでは主に読んだ本の感想を書いています。 記事を読んだ人が「自分もこの本を読んでみたい」と思えるような文章を目指しています。 小説置き場(カクヨム)→ https://kakuyomu.jp/users/nobelu_hibikito

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  • 読書記録

    読んだ本の感想をまとめています。

記事一覧

ラインマーカーズ/穂村弘 読書記録#42

 例のごとく、好きな収録歌を引用しつつ語っていきます。  火を初めて見た新鮮な感動が、「呼吸する色の不思議」という言葉に表れているように思いました。「火よ」と教…

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あかるい花束/岡本真帆 読書記録#41

 短歌のことはよく知らない。でも、印象的な歌がたくさんあった。ので、拙いながらも短歌評みたいなことにチャレンジしてみる。ここで残した言葉が、後から見返す自分にと…

あおきひび
12日前
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天才による凡人のための短歌教室/木下龍也 読書記録#40

 序章「引き返すなら今である」が刺さった。確かに、短歌を作ること(短歌以外の創作も)とは生活に必須ではないし、必ずしも人を幸せにはしない。それでも創ることに、一…

あおきひび
2週間前
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折本データまとめ

以下からDLできます。

あおきひび
3週間前
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たやすみなさい/岡野大嗣 読書記録#39

 「気分の背景にある時間と光景」を、五七五七七の結晶にして残しておける、それが短歌の良いところだと思う。  個人的に好きだった歌をいくつか引用して語ってみます。 …

あおきひび
4週間前
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西の魔女が死んだ/梨木香歩 読書記録#38

 不登校の中学生「まい」は、「西の魔女」・英国人の祖母の家で暮らすことになりました。このおばあちゃんがまた不思議な魅力を持つ人物なのです。彼女を手伝って庭仕事を…

あおきひび
1か月前
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本は読めないものだから心配するな/管啓次郎 読書記録#37

 本が読めない。苦しい。安心を得たくて、この本を手に取った。  しかしなぜ、「本は読めないもの」なのだろうか? 筆者は言う。本は冊数では測ることが出来ない。それ…

あおきひび
1か月前
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江ノ島ねこもり食堂/名取佐和子 読書記録#36

 江ノ島に生きる女性たちの年代記。佐宗家の女性たち四代の人生を綴った、百年の物語です。  章の並び順が少し特殊で、時系列順ではなく最初に2000年代、次いで大正・昭…

あおきひび
2か月前
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文学フリマ東京38 読書感想文②

 こちらは2024年5月19日に開催されたイベント「文学フリマ東京38」で買った本の感想です。  各作者様に御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました! バイロ…

あおきひび
2か月前
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文学フリマ東京38 読書感想文①

 こちらは2024年5月19日に開催されたイベント「文学フリマ東京38」で買った本の感想です。  各作者様に御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました! 海のま…

あおきひび
2か月前
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天国旅行/三浦しをん 読書記録#35

 「心中」をテーマにした短編集です。生と死について独自の切り口を持った全7編が収録されています。  「心中」の1テーマだけでここまでひねれるのか! と驚きましたが…

あおきひび
3か月前
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いのちの車窓から/星野源 読書記録#34

 星野源は不思議な人だ。  彼はミュージシャンであり俳優であり、文筆家でもある。エッセイ『いのちの車窓から』に綴られるのは、ヒット作の制作秘話や大物芸能人とのエ…

あおきひび
3か月前
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ステップファザー・ステップ/宮部みゆき 読書記録#33

 私が初めて読んだ『ステップファザー・ステップ』は、児童文学レーベルの青い鳥文庫から発刊されたものでした。その当時からお気に入りで、定期的に読み返している一作で…

あおきひび
3か月前
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八日目の蟬/角田光代 読書記録#32

 元恋人の赤ちゃんを誘拐してしまった希和子。そこから長い逃避行が始まります。「薫」と名づけられた少女は、「母」希和子からの決死の愛情を受けながら、すくすくと成長…

あおきひび
3か月前
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自分で考える勇気 カント哲学入門/御子柴善之 読書記録#31

 この本はカント哲学の入門書であり、それと同時に「自分で考える勇気を持つこと」について論じたものです。カントは「道徳的に生きることで、幸福になる」ことを最高善と…

あおきひび
4か月前
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家出のすすめ/寺山修司 読書記録#30

 寺山修司はこう言いました。「家出」とは、家という暗い桎梏・制限を打破し、自我を獲得するための重要な手段だと。  家を捨て、母を捨て、血を捨て……そうして若者た…

あおきひび
4か月前
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ラインマーカーズ/穂村弘 読書記録#42

ラインマーカーズ/穂村弘 読書記録#42

 例のごとく、好きな収録歌を引用しつつ語っていきます。

 火を初めて見た新鮮な感動が、「呼吸する色の不思議」という言葉に表れているように思いました。「火よ」と教えてくれた「貴方」もまた、闇夜の灯のように尊い存在だったのでしょう。音数がぴったり57577なのも好きなポイント。

 冷蔵庫の音が聞こえるほど静かなダイニング。しかし確かに息づくものがそこにある。ふたりはそれぞれに本を読んでいて、時折ペ

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あかるい花束/岡本真帆 読書記録#41

あかるい花束/岡本真帆 読書記録#41

 短歌のことはよく知らない。でも、印象的な歌がたくさんあった。ので、拙いながらも短歌評みたいなことにチャレンジしてみる。ここで残した言葉が、後から見返す自分にとっての手がかりになるかもしれない。

 「失くす」と「捨てる」の違いは何だろう、と考えてみて、「それは意志が介在するかどうかだ」と思い当たる。捨てたくない・捨てたい。これは成立する。しかし、失くしたくない・失くしたい。これは成立しない。
 

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天才による凡人のための短歌教室/木下龍也 読書記録#40

天才による凡人のための短歌教室/木下龍也 読書記録#40

 序章「引き返すなら今である」が刺さった。確かに、短歌を作ること(短歌以外の創作も)とは生活に必須ではないし、必ずしも人を幸せにはしない。それでも創ることに、一体何の意味があるのか。

 「それでも短歌を書こうと思うのであれば」と、彼は作歌における実践的なアドバイスを多数伝授してくれる。具体的なコツや技法の話もあれば、創作の上での心構えやメンタル面でのアドバイスもある。これから短歌を作りたい人はも

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たやすみなさい/岡野大嗣 読書記録#39

たやすみなさい/岡野大嗣 読書記録#39

 「気分の背景にある時間と光景」を、五七五七七の結晶にして残しておける、それが短歌の良いところだと思う。
 個人的に好きだった歌をいくつか引用して語ってみます。

 誕生日に、いちばん最初にもらう「おめでとう」の言葉って、何だか特別な気がしませんか。そんな「おめでとう」を、鏡に写る自分につぶやく。それは寂しい景色のようでいて、静かな自己肯定の明るさを持った瞬間だと感じました。

 友達とも見知らぬ

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西の魔女が死んだ/梨木香歩 読書記録#38

西の魔女が死んだ/梨木香歩 読書記録#38

 不登校の中学生「まい」は、「西の魔女」・英国人の祖母の家で暮らすことになりました。このおばあちゃんがまた不思議な魅力を持つ人物なのです。彼女を手伝って庭仕事をしたり、のんびりとくつろいだりしながら、まいとおばあちゃんとの生活はおだやかに続いていきます。
 ごはんの味や土を踏む感触、風の匂いや温度……そうした生の実感というべきものを大切に、暮らしの姿が丁寧に綴られていきます。

 そしておばあちゃ

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本は読めないものだから心配するな/管啓次郎 読書記録#37

本は読めないものだから心配するな/管啓次郎 読書記録#37

 本が読めない。苦しい。安心を得たくて、この本を手に取った。

 しかしなぜ、「本は読めないもの」なのだろうか? 筆者は言う。本は冊数では測ることが出来ない。それよりも大きなテクストの流れを我々は読むのであり、それは動的な情報として押し寄せる。

 一生かかっても読めない本がある。書店や図書館には膨大な本が並んでいるし、一度読んだとしてもその内容を忘れてしまうことだってあるから。質的にも量的にも、

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江ノ島ねこもり食堂/名取佐和子 読書記録#36

江ノ島ねこもり食堂/名取佐和子 読書記録#36

 江ノ島に生きる女性たちの年代記。佐宗家の女性たち四代の人生を綴った、百年の物語です。

 章の並び順が少し特殊で、時系列順ではなく最初に2000年代、次いで大正・昭和、そして2020年代へと進む構成になっています。
 現代編の語り手・麻布の狭かった世界が、やがて大きく広がっていく。それはそのまま百年の歴史を紐解いてきた読者の体感でもあります。開かれていく、雄大な生の風景。それはまるで江ノ島の弁天

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文学フリマ東京38 読書感想文②

文学フリマ東京38 読書感想文②

 こちらは2024年5月19日に開催されたイベント「文学フリマ東京38」で買った本の感想です。
 各作者様に御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました!

バイロン本社/宮田秩早さん『幻想アジア吸血鬼譚集 夕牲歌』「ミアネ」オカワダアキナさん

 ミアネとは韓国語で「ごめんなさい」を意味する言葉。沈没事故とアイドル学校、吸血が日常となった世界で、僕らは蹴落としあい喰らいあい「血を奪い合う

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文学フリマ東京38 読書感想文①

文学フリマ東京38 読書感想文①

 こちらは2024年5月19日に開催されたイベント「文学フリマ東京38」で買った本の感想です。
 各作者様に御礼申し上げます。素敵な作品をありがとうございました!

海のまぼろし/みたかさん
『Insel』
 各短編に共通するテーマは、「生きづらさ」、そして「海」。
 海は圧倒的なまでに広く大きい。それは時として人を救い、また絶望させもする。そんな相反したイメージを巧みに利用して、仄暗さの中にわず

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天国旅行/三浦しをん 読書記録#35

天国旅行/三浦しをん 読書記録#35

 「心中」をテーマにした短編集です。生と死について独自の切り口を持った全7編が収録されています。
 「心中」の1テーマだけでここまでひねれるのか! と驚きましたが、考えてみればそれも当たり前かもしれません。
 なぜなら、心中は一人ではできないから。必ず二人以上の人間が絡んでくる、そこに関係性のドラマが生まれるのでしょう。

 タイトルの「天国旅行」は、THE YELLOW MONKEYの同名楽曲か

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いのちの車窓から/星野源 読書記録#34

いのちの車窓から/星野源 読書記録#34

 星野源は不思議な人だ。
 彼はミュージシャンであり俳優であり、文筆家でもある。エッセイ『いのちの車窓から』に綴られるのは、ヒット作の制作秘話や大物芸能人とのエピソードなどなど。
 しかしただ煌びやかなだけではない。ここが魅力的だった。星野源は日常の風景を独自の視点から切り取って見せる。そこには少しのてらいもない。語り口は優しく、親しみ深い。

 芸能人の話なら誰もが聞きたがる。でも、このエッセイ

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ステップファザー・ステップ/宮部みゆき 読書記録#33

 私が初めて読んだ『ステップファザー・ステップ』は、児童文学レーベルの青い鳥文庫から発刊されたものでした。その当時からお気に入りで、定期的に読み返している一作です。
 今回読んだ講談社文庫版は、青い鳥文庫版未収録の「ワンナイト・スタンド」を含む全7編構成となっています。

 本作の好きなポイントは、第一にユーモラスな語り口。語り手である泥棒の「俺」の軽妙な台詞回しがクセになります。
 登場人物たち

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八日目の蟬/角田光代 読書記録#32

八日目の蟬/角田光代 読書記録#32

 元恋人の赤ちゃんを誘拐してしまった希和子。そこから長い逃避行が始まります。「薫」と名づけられた少女は、「母」希和子からの決死の愛情を受けながら、すくすくと成長していく。東京から名古屋、小豆島へ。島で束の間の平穏な日々を過ごした後、ふたりの暮らしは突然終わりを迎えました。

 物語後半では、成人した「薫」(=恵理菜)のその後が描かれます。彼女が過去と向き合い、思いを清算していった先には、思いがけな

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自分で考える勇気 カント哲学入門/御子柴善之 読書記録#31

自分で考える勇気 カント哲学入門/御子柴善之 読書記録#31

 この本はカント哲学の入門書であり、それと同時に「自分で考える勇気を持つこと」について論じたものです。カントは「道徳的に生きることで、幸福になる」ことを最高善と呼び、そこに至るための思索を展開した、18世紀ドイツの哲学者です。

 なぜ「自分で考える」ことに「勇気」が必要なのでしょうか。その理由として「それぞれの人が持つ先入観や、自分で考えることを危険視する権力・権威などが、それを妨げるから」とい

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家出のすすめ/寺山修司 読書記録#30

家出のすすめ/寺山修司 読書記録#30

 寺山修司はこう言いました。「家出」とは、家という暗い桎梏・制限を打破し、自我を獲得するための重要な手段だと。
 家を捨て、母を捨て、血を捨て……そうして若者たちは個人として自立していくというのです。

 本文は4章構成で、「家出のすすめ」「悪徳のすすめ」「反俗のすすめ」「自立のすすめ」に分かれています。

 悪とは何かを問い直し、それを通じて新たなモラルを発見するための思索と行動。

 科学的な

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