蔓延る苔に世界が歪む
振り払っても振り払っても
襲い掛かる灰色の世界は、
私に人を信じさせないように、呪いの言葉を唱えているようだ。
優しい歌になりメッセージになり、
花のように綺麗な無償の美しさの反対側には
美しさのかけらはどこにもない、淀んだ世界が在る。
きらきらと光る小さな粒ですら、ここには存在しない。
灰色の世界、渦巻く偽りの、泥臭い匂いがする。
どうして私は、
ここに居るんだろう。
どうして誰も、この匂いと色が観えないのだろう。
私にしか観えない世界だから、ただただ気づかないのか。
これが、共感覚者とそうでない人とのズレなのか。
こんなに薄黒い井戸の中、いやもっと深い、どろっとした
ヘドロの中のような世界が、ずっと広がっているのに
どれだけ綺麗な言葉を並べても、本質だけしか私にはわからないから、本質はそこにはないということを嫌でも見つけてしまう。
本質が見えない人たちはじりじりとつまさきから、苔のようなものが増殖して顔の所まで覆いかぶさり、いつのまにか「美しい」と錯覚する。
この情景すら、観得ているのは私だけなのか。
その笑顔の頬には苔が蔓延っているのに気づくことができず剥ぐのは時間がかかりそうだ、知らないふりをしていたら頭のてっぺんまで飲みこまれていることだろう。
共感覚があって苦しいことはたくさんあるが
この情景を共有できないことが、とても苦しい。
ああ、まともに会話できる人と、話がしたい。
みんな苔のついた人間ばかりだ。
山口葵
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