ネットリンチを受けたので訴訟を起こし、勝訴した話 【1】 『判決編』

■ざっくりまとめ

・ネットリンチの被害者が加害者の誹謗中傷行為に対して訴訟を起こして勝訴した

・判決ではTwitterアカウント名に対する誹謗中傷、掲示板のスレのテンプレ、晒し行為について違法行為と認められた

・ネットリンチは正義でも何でもなく「ただの違法行為」であり、多額の賠償金の支払い、最悪前科が付くことを意識しておく必要がある


はじめに

2018年の年末から2019年の初めにかけて、とあるゲーム界隈で運営の不誠実な対応を発端とする炎上騒動が発生しました。

この炎上騒動に巻き込まれる形で複数の特定ユーザーが多数の人間から寄って集って誹謗中傷を受ける、いわゆる「ネットリンチ」に発展しました。

それらの行為は全く正当性の無いものであったため、ネットリンチに遭った人達は泣き寝入りせず、訴訟に踏み切りました。

裁判の結果、それらの行為に対して違法との判決が下され、ネットリンチを行っていた人達の本名・住所といった個人情報が開示されました

一体何が起こり、何が正しく、何が間違っていたのか。ネットリンチに対して被害者がどのように対応したのか。

それらを多くの方に知っていただき、デマの拡散やネットリンチを行う事の危険性について警鐘を鳴らしたく、幾つかの記事にまとめることにしました。

長くなりますが、これは誰しも自分の身にふりかかり得ることですので、最後まで読んで頂けると幸いです。

第一段として本記事では、多くの人が一番知りたいであろう訴訟の内容、結果を中心に記載していきます。

あらまし

まず、「何があったのか」ですが、三行にまとめると以下のとおりです。

①スマホゲームの運営が不誠実な対応により炎上
②運営のお気に入りと決め付けられたユーザーへのネットリンチに発展
③②の友人や無関係の人間に至るまで中傷が拡散

(もちろん、ここに至るまでには色々な事情や問題が複雑に絡んだ結果なのですが、長くなるためここでは記載しません。詳細を知りたい方は末尾のリンクから続きの記事を参照してください。)

①運営の炎上については概ね運営の自業自得です。
②の運営のお気に入りと決め付けられたユーザーについては、①に巻き込まれたに過ぎません。
③に至っては、②のユーザーの友人であったり、単に目立つというだけで炎上の発端と無関係なユーザーです。

しかし一度炎上状態になると、広範囲を焼き尽くすまで鎮火しないことは多くの人が知る通りです。

本炎上騒動では、①の運営サイドのみならず、②の運営のお気に入りと決め付けられたユーザーを中心に、③の無関係なユーザーにまであまりに酷い誹謗中傷、名誉を棄損するデマの拡散が行われました。(※)

それらの多くは明確に違法行為であったため、②で運営のお気に入り扱いされ特に酷い誹謗中傷を受けたユーザーと、その友人である③のユーザーがネットリンチを行っていた大勢の人間に対して訴訟を起こした、というのが本件のあらましです。

(※)以下、誹謗中傷例。これらの内容が大量に書き込まれました。

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発信者情報開示請求訴訟

被害者が加害者を訴えたくとも、インターネット上の投稿だけでは個人を特定出来ないため、まず最初に加害者を訴えるための個人情報(本名や住所)の提供をプロバイダに命じるための訴訟が必要になります。

これを『発信者情報開示請求訴訟』と言います。

この訴訟の直接的な相手(被告)はプロバイダですが、加害者は関係無いのか?というとそんな事はありません。

加害者側は当然自分に対する訴訟を起こされたくないため、プロバイダから個人情報を開示して良いか聞かれた際には通常「開示拒否」の連絡をプロバイダ側に行います。

同時に、加害者は自分の行為の正当性を主張し、その根拠となる証拠をプロバイダに提供します。
プロバイダの弁護士は加害者から受け取った情報を基に裁判を闘います。

つまり、発信者情報開示請求訴訟はプロバイダの弁護士を介した、実質的に加害者と被害者の裁判ということです。

もし加害者側の行為が正当か、あるいはそれほど酷いものでは無いと判断されれば、個人情報提供の要求は棄却されます。逆に要求が認められたということは、加害者の行為が限度を超えて「不当なもの」であったということです。

今回の件では大半の開示請求が認められたため、②や③の人達を叩いていた側の行為の多くが不当であったと裁判所が認めたということです。

判決内容とポイント

ここでは、特に重要と考えられる内容を含む2つの判決について述べたいと思います。

まず主文です。

【判決文より抜粋】

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各プロバイダに対して発信者の氏名・住所といった情報の開示命令が下っています。

この判決の中では複数の投稿全てについて違法性が認められていますが、特に重要だと考えているのは以下について開示請求が認められた点です。

①Twitterのアカウント名に対する誹謗中傷
②名誉を毀損するテンプレ
③晒し行為

①については、多くの人が「誹謗中傷されてもそれが本名(または芸能人・有名人)に対してで無ければ訴訟は起こせない」と思い込んでいるのでは無いでしょうか?

そんなことはありません。現に今回の判決ではTwitterのアカウント名(ハンドルネーム)に対する誹謗中傷で開示が認められています

【判決文より抜粋】

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つまり、「それは別の誰かの事です」とか「本名じゃないから人権侵害には当たらない」などという言い訳は通用しないということです。(これらの主張は尽く棄却されました)

更に、直にハンドルネームを出していない投稿についても「文脈などから当人のことを指している」という判断が下されていることから、「直接名前を出して無いからセーフ」という言い訳も通用しないことが明らかになっています。

要はそれが誰かわかる書き方をしたらアウトという事です。

もちろん、全てのアカウントに対して人権侵害が認められるわけではありませんが、長年その名前で活動されているような方であれば今回のように認められる可能性があります。


②については、今回ネットリンチのメイン会場となっていた某掲示板のスレのテンプレに対して開示請求を行い、認められました。

【判決文より抜粋】

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※テンプレの部分は伏せていますが、テンプレの内容に対する裁判所の判断理由の部分です

これの何が重要かというと、一連のスレ(のテンプレ)全てが違法と確定したことです。

スレは通常テンプレのコピペを通じてpart◯◯と伸びて行きますが、それらは内容が全く同じなので当然全部違法ということであり、それはつまり過去、現在、未来にわたるスレに対して損害賠償が認められる、刑事告訴が可能である、ということです。

判例を見ると、リツイートについても「コピペと同等」という解釈をされつつあるようですから、リツイートについても今後は慎重になった方が良いと思われます。

③については、非公開な環境において投稿された内容を公開の場に流す、いわゆる「晒し」行為に対して開示請求が認められました。

【判決文より抜粋】

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判決文の中で、晒し行為が重大な人権侵害であると断じています。

つまり、非公開の内容(例えば鍵垢のツイート)を公開の場に流したらアウトということです。

今回の騒動では「自分は晒すだけで誹謗中傷は他人に任せる」というやり方をした人物が複数いましたが、このような行為もアウトである事がハッキリしました。

これらの行為は、SNS等、インターネット上で日常的に行われていると思いますが、訴訟を起こされた場合、多額の賠償金の支払い、最悪前科が付く可能性があるという事を肝に命じて頂きたいと思います。

最後に

一昔前であればこれらのような行為をされても、被害者は泣き寝入りするしかありませんでした。法律が追い付いておらず、加害者を特定する事が出来なかったためです。

恐らくですがこのようなネットリンチを苦に自殺した人もいたのでは無いかと思います。いじめと同じで加害者は大したことをしてないつもりでも、被害者が受ける心の傷は甚大だからです。

しかし、時代と共に司法も変わりつつあり、炎上の問題が取り沙汰されるようになって以降、こういったネットリンチ行為には厳しくなって来ていると感じます。

今回の判決は、これまでネットリンチの被害を受けてきた人達、現在進行形でネットリンチを受けてる人達に勇気を与える内容だと思います。もし同じようにネットリンチ被害に遭われている方は「訴訟を起こす」という選択肢があることを頭に入れて対応する事を推奨します。

同時に、ネットリンチに加担している人は「訴訟を起こされれば負ける」という事実を認識しておいた方が良いでしょう。ネットリンチ加害者は、自分の行いは「正義」だと思ってやっていることが多いですが、それは正義でも何でも無く、ただの違法行為である事は判決のとおりです。
高い賠償金を支払ったり、警察の世話になりたく無ければ止めておくことをオススメします。

※本記事は一旦ここまでとします。

※訴訟の発端となった炎上事件について、詳しく知りたい方は以降の記事を続けてお読み下さい。

ネットリンチを受けたので訴訟を起こし、勝訴した話 【2】 『真実編(概要)』
ネットリンチを受けたので訴訟を起こし、勝訴した話 【3】 『真実編(詳細)』

※ネットリンチに対する考察、ネットリンチを受けて訴訟を考えている方へのメッセージについては、以下の記事をお読み下さい。

ネットリンチを受けたので訴訟を起こし、勝訴した話 【4】 『考察編』

ネットリンチを受けたので訴訟を起こし、勝訴した話 【5】 『実戦編』

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