非現実的現実

私はプロレスが好きだ。ひいてはデスマッチを見る(凶器を使うあれです)。一概にプロレスが好きと言っても色んな層がいる。存在は知ってても見ないなどの理由でデスマッチに一度も触れないプロレスファンもいると思う(ランバージャックとか金網とかではなく凶器を使う前提のルールで闘うものの話だ)。そんな中、私はデスマッチと出会ってしまった。

プロレスが好きになったきっかけ

これは私の別の趣味であるラジオから来ている。ある日、番組を聞いているとパーソナリティをやっている芸人がプロレスが好きだと言っていた。私は「プロレスねぇ」と見る機会無いしなぁと思いながら聞いていた(プロレスはメジャーなスポーツやエンタメと比べて受動的に見る機会が圧倒的に無いと思う)。それから何週かごとにラジオのパーソナリティがプロレスの話をしていた。そんな熱く語るなら面白いのかと、こういう時の常套手段であるYouTubeで「プロレス」と検索してみた。この時期にどの団体のどの時代の誰が出てる試合(もしかしたら試合ですらなかったかもしれない)の動画を見ていたか覚えていない。

それから最初にちゃんと団体を認識して見始めたのは新日本プロレスである。やはり深夜とはいえ地上波で見れるというのはハードルが低い。ワールドプロレスリングを毎週見るようになった。次第に現地観戦したくなってくる。その年も下半期に入っていたこともあり私は現地観戦デビューをある日に定めた。そう新日本と言えばイッテンヨン、東京ドーム大会である。チケットを買って機運を高めていた。

親の優しさによって運命が狂う

運命が狂うはちょっと大げさに書いた。イッテンヨンのチケットを買った私は普通に年末に向けて生活していた。ある日、親が「新聞屋がプロレスのチケットくれるっていうから貰っといた」と言ってきた(恐らく親の優しさでプロレス好きだからと貰ってくれたんだろう)。新聞を更新したりすると洗剤とかをくれるが、そのラインナップにプロレスの招待券が入ってたみたいだ(野球が好きだったときは野球のチケットが無いかめっちゃ聞いてた)。渡された招待券には見たことない選手の写真と大日本プロレスの文字。この時の私は新日本しか見てなかったし全日本とノアぐらいしか他団体を認識していなかった。当然デスマッチなんてジャンルがあることも知らない。初観戦が東京ドームじゃなくなっちゃうけどタダでもらったし行くかぐらいの感覚だった。

予習をしないで行った自分を褒めたい

2016年12月18日、招待券は2枚あったので当日は父親と二人で横浜文化体育館に行った。父はゴールデンタイムでプロレスを見てた世代で総合やボクシングを好んで見ているのでプロレスには興味がなかった(父親はこの日、関本大介選手、岡林裕二選手を見たことで再びプロレスに興味を持った)。招待券を座席のチケットに引き換えて着席した。

テーブルクラッシュマッチは正直、めちゃくちゃ衝撃を受けたりはしなかった。通常ルールでも四次元ポケットもといリング下から出てくるのでテーブルクラッシュは見たことあったからだ。この試合でも流血はあったと思う。でも私が普通に見れていたという事は流血量的には大したことなかったはずだ。

問題は5試合目の蛍光灯デスマッチだ。私は蛍光灯で当然のように人を殴られ、蛍光塗料が粉塵となってリング周辺を覆う異様な光景を見た。嘘だろと思った。入場時に貰ったチラシにも当日の試合順とデスマッチ形式は書いてあった。蛍光灯って書いてあるのは見てた。でもこんな大量にカジュアルに使われるとは思ってなかった。せいぜいフィニッシュ前に一発殴って終わりみたいな感じだと思っていた。日常生活では、まず見ない(見たくない)量の血を流す選手を見て目を覆いたくなった。しかし流血しながらも闘う選手を見て、その非現実感に興奮している自分に気付いていた。

メインイベント。これが私が初めて見たデスマッチ形式でのシングルマッチ。星野勘九郎選手vsアブドーラ・小林選手。蛍光灯に加えパイプ椅子、階段(リングに上る用のもの)、そしてコンクリートブロックが凶器として使われたこの試合は私の価値観、生まれたばかりのプロレス観を簡単にぶち壊した。コンクリートブロックをもって殴り合ったり、先ほどの試合以上に割られまくる蛍光灯、金属製の階段で挟まれた人の上に人が降ってきたり、投げられた蛍光灯の束を大きな背中で受けたり、すべてが新鮮で刺激的だった。血まみれになって闘う選手に『命』を感じた。

こうして私はデスマッチと出会った。改めて考えると初めて現地でプロレスを見る体験を大日本プロレスで味わった自分と新日本プロレスで味わった自分はプロレスの見方が絶対に変わっていたと思う。恐らく予定通り東京ドームで初現地観戦を体験したら新日本しか見なくなってた可能性があるなと思う(”人気や規模”は日本で一番の団体の最大のビッグマッチにスケール感で勝てる興業を打てる団体は他に無いから)。外部からの要因によって前者の体験を得た私はプロレスというジャンルの中にも色々な形式がある事、メジャー団体以外にも団体がたくさんあることを知る事が出来た。

デスマッチとの出会いを書いた理由

私は先日、デスマッチカーニバルを現地に見に行っていた。皆さんご存知と思うが竹田誠志選手が負傷によってレフェリーストップという結果になった。この結果を受けてGCWの日本での興行において竹田選手がレフェリーストップという結果になった時にデスマッチは「危ない」とか「やめるべき」とか、そういった旨の書き込みをネット上で目にしたことを思い出した。そこで、なんで私はデスマッチと出会って見続けてるんだろうと考えたので文章にしようと思った。




デスマッチは殺し合いでも殺人ショーでもない『命』の輝きを見せてくれるものだ。




余談

記憶をしっかり思い出すために対戦カードを見直したのだが、役者が揃っていて凄い興業だったなって思う。ちゃんと知識がある状態で見たら違う面白さがあっただろうな。



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