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マンガ「サユリ 完全版」を読んだので映画版と比較してみる

 先週、映画の「サユリ」を見て非常に面白い作品だったので、原作を読みたくなった。そして読んだ。

 思ったより映画版と違った点が多くて面白かったし、興味深かったよね。今回はその辺の違いについてあれこれ考えながら書いていこうかなと思う。

マンガ版の幽霊=サユリの存在感のなさ

 映画版ではサユリ(幽霊)の存在は最初から明示されている。サユリとその家族の描写が一番はじめのシーンに来ていて、この物語で彼らは意味のある存在だということが印象付けられている。母親がサユリと名前を呼んでいるので、タイトルの「サユリ」と合わせて、あの引きこもりの女が重要なキャラクターだというのはすぐに分かる。

 対して、マンガ版ではサユリの存在は隠蔽されている。前半、家族が皆殺しにされる前まで、幽霊がいることさえ示されない。ことごとくサユリの存在が隠されて、なぜかわからないけど不幸が続くという展開になっている。

 本当に対象的なアプローチでマンガ版を読んだ時は驚いたよね。

サユリが出てこないことで何が起こるか

 マンガ版ではサユリが表に出てこないことで、家族が次々に死んでいく原因がハッキリしないんだよね。意味がわからない。なぜか死んでいく。不幸になる。理解できない現象が続く。ものすごい不気味なんだ。わからないことは怖い。つまり、めちゃくちゃホラー度が高いんだよね。

 対して映画版、こちらは最初からサユリの仕業だと画面上で教えてくれる。ことあるごとにサユリっぽい影やら何やらが見切れたりして、この家で起こっていることはサユリが原因だという因果関係がハッキリしているんだよね。何が起こっているか観客が自覚しながら見ることができる。幽霊から攻撃されているということを明示することで、ホラー度はかなり下がるんだけど、ホラー映画の演出によって十分怖くなっているから、作り手の凄さがわかるよね。

 じゃあ、なんで映画版はホラー度を下げてまで、サユリを前面に出したのかといえば、めちゃくちゃ物語の構造が分かりやすくなるんだよね。見ている側が展開を飲み込みやすい。

住田の登場タイミング

 マンガ版と映画版、大きく違うのは住田というヒロインの扱いだろうね。住田の登場タイミングによって、大きく印象が変わっていると思う。そして、物語の中の役割も少し変わってきている。

ギリギリまで登場できないマンガ版

 マンガ版でじいちゃんが死ぬちょっと前に住田は登場する。ホラー編がだいぶ終わっている段階だ。要するに、住田はホラー編では怪奇現象の原因を教えてくれる役割なんだよね。だから、最初の方から出すことはできない。マンガ版はホラーに振り切っているからね。

割と最初から出てくる映画版

 対して映画版は父ちゃんが死ぬ前に登場している。家に怪しい雰囲気が漂ってる時点、あの家はヤバいって教えてくれる。なぜ登場できるのかと言えば、映画版では最初から幽霊の仕業ですと明言しているからだ。だから、それを補強するために住田を登場させることができた、というわけだね。

登場タイミングで何が変わるか

 とにかくヒロインとして、主人公の則雄と交流ができるんだよね。マンガ版では登場が遅かったから、なぜ住田が則雄に入れ込んでいるのかよくわからなかった。まあ、物語の外で元々好きだったとかはあるのかもしれないけど、物語の中で惹かれるような描写はほぼなかった。住田の行動に違和感があるんだよね。

 映画版では何度も会話するシーンを用意しているので、その点において不自然さはなかった。そして、映画版ではサユリにさらわれた住田を助けるという、主人公らしい見せ場を作ることができた。ばあちゃんとの会話で、住田が好きだって則雄も明言していた。だから、住田がちゃんとヒロインすることで、則雄が主人公らしくなったってことだね。

ばあちゃんという存在の説得力

 マンガ版と映画版の違いとしてかなり大きいと思うのは、ばあちゃんの存在だと思う。マンガ版もかなり強キャラ感はあったけど、その強さがかなり謎な感じがあった。押切マンガのよくわかんねーけど強いやつって感じがした。その強さが割と妖怪じみていた。それはそれでいいんだけど、多少の説得力に欠ける部分はあった。

ベテラン女優が演じることで生まれた存在感

 実写映画なんだから当然だけど、本物の人間が演じている。ばあちゃんは根岸季衣という大ベテランが演じたことでめちゃくちゃ実在感が出た。これも当たり前ではあるんだけど、マンガに比べると人間味があるんだよね。

 それから太極拳という設定が追加されて、ばあちゃんの強さをある種で補強されていたし、則雄の修行パートにも意味が生まれた。マンガ版の修行シーンは修行と呼べるレベルではなかったよね。

 マンガ版と比べて頼もしさがすごいよね。マンガ版はなんかよく分からんけどヤバい人って感じに対して、映画版は頼れるばあちゃん、ばあちゃんならなんとかしてくれる、という頼もしさがもう半端ない。ばあちゃんなら幽霊ごときに負ける気しねえって感じ。

おわりに

 マンガ版はホラーに振り切ったニッチ向けのホラー作品。

 映画版はエンターテイメントとしての完成度を高めた万人向けの作品。

 という印象を受けた。味付けの違いの範囲だと思うよ。ボクは映画版を褒めまくってるけど、マンガ版は前半の不気味さが異常だったので、それはそれでありなんだと思う。

 

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