小さなお話・マグロのゆめ
いつかのどこかに一冊(ひとさく)のマグロがおりました。
昔は大きくて立派な魚のかたちをしていましたが、いまは切り身です。というのは、マグロは一度釣り上げられてお寿司にされそうになったところを、逃げ出して海へ戻ってきたからです。
マグロは世界を知りません。知っているのは仲間たちのこと。それから自分を釣り上げた人間たちのことだけです。
だからマグロはたくさんのものを見たいと思いました。どこまでも泳いで、いろんな所へ行きました。暖かい海にも、寒い海にも。
美しい出会いがいくつもあ