アリアハンのお城にようこそ(ショートショート)

 私はアリアハンのお城に仕える兵士である。
 祖父の代より兵士としてお仕えし、私で三代目である。

「アリアハンのお城にようこそ」

 これは私が冒険者より話しかけられた時に、返答を義務付けられているセリフだ。
 私はこの仕事で日当32Gをもらっている。

 夜勤もある。
 夜に城に入って来ようとする無礼な冒険者も存在する。
 そのような時、私は彼らを制してこう伝えるのだ。

「今夜は宿などに泊まるなどし 朝になったら来るがよい」

 冒険者が何を訴えかけようとも耳を貸さずに、一言一句違わずにセリフを繰り返す。
 これが私たちの仕事だ。


 少し昔話をしよう。
 私は幼少の頃よりレールの敷かれた人生を送っていた。

 子供の頃に一度だけ父に反抗し、冒険者になりたいと願い出たことがある。
 結果、三日三晩怒鳴られ続け、私は冒険者の道を断念した。

 私の父は名誉を重んじる人間だった。

 私たちのセリフには序列がある。
 私が家は偉大なるアリアハンの名を語れる名誉ある仕事である。
 その身分を捨て、ごろつきと同義である冒険者になりたいなど言語道断であった。

 ちなみに、最も序列の高いセリフを有するのは王の間にいる兵士だ。

「武器 防具は装備して身につけるように!
 持ってるだけではだめですぞ!」

 私は父の代わりにこのセリフを言えるような兵士になることを求められた。
 いまでこそ気持ちは薄れたが、当時は平凡な未来を想像し、途方に暮れたものだ。


 ある日、一人の若者が城を訪れた。
 魔王バラモスを倒すため、わずか16歳の少年が冒険の旅に出るという。

 大っぴらには言えないが、王はあまり世間を知らない。
 仲間を集め旅に出よと命じる割に、粗末な武器防具しか用意しない。
 さらに軍資金もわずか50Gしか出さなかったようだ。

 財政難なのだろうか。
 アリアハン周辺ならどうにかなるだろうが、これではロマリアにすらたどり着けまい。
 私は息子とほぼ同じ年齢である彼をとても不憫に感じたものだ。

 そんな彼は城のあちらこちらの兵士に話しかけ、情報を集めていた。
 彼はこの町の出身らしい。

 私のセリフは何の参考にもならなかっただろうが、それでも丁寧にお辞儀をしていった。
 さわやかで好感が持てる少年だ。

 私は思わず手に持つ鉄の槍をプレゼントしようかとも思ったが、それは規則で許されない。
 まだ私も職を失う訳にはいかないのだ。


 月日は流れ、あの少年が魔王バラモスを倒したとの報せが届いた。

 なんということだ。
 粗末な武器防具と50Gしか支援されていないあの少年は、国を救う英雄となったのだ。

 あの時のことは今でも覚えている。
 見違えるようにたくましくなった少年は、仲間を連れて城へ凱旋した。

 彼は私のことを覚えており、道すがらに話しかけてくれた。

「さあ早く王様のもとへ!お待ちかねですぞ!」

 とっさに私は普段と異なるセリフを口にした。
 気付くと周りもいつもと異なるセリフを口にしていた。

 私の中で何かが変わった。
 日々の規則に縛られ、わだかまりと小さなプライドを抱えながら過ごした36年間。

 彼の行動は、変化する勇気を私に与えてくれたのだ。


 今の仕事は私の代で終わりにするつもりだ。
 息子には冒険者になることを薦めようと考えている。

 戦士でも魔法使いでもよい。
 なんなら盗賊や遊び人でもよい。

 世界は自由なのだ。
 自由とは同時に責任を負うことでもあるが、若者には無限の夢や希望がある。

 選んだ道には困難が待ち受けているかもしれない。
 それでも自分で選んだ道だからこそ、努力し乗り越えることができるはずだ。

 世を知り、人を知り、実りある人生を過ごしてほしい。
 あの少年が神鳥ラーミアの背に乗り大空を駆け巡ったように。

<了>

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