一円玉も旅をするよ
この寒さで足先が冷たくて困っている青鳥(あおどり)なのです。郷里にいた時からなので仕方ないのですが、この時期はつらいのです・・。
それでも、ふよふよはするのです。何故なら、歩いていると血行が良くなっている気がするから。
昨日に比べたら格段に暖かいのです。なので、ふよっていたら、足元にキラリと光る丸いモノが視界の隅っこに引っかかりました。通り過ぎてしまったので二、三歩そのままの姿でバックなのです。小さくて丸い、妙に金属チックなもの。
一円玉でした。
何故ここに一円玉? 周囲にお店は無い、ただの幹線道路沿いの歩道の上。こんなところでお財布を取り出したりするかなあ? ポケットの中にいれておいたものが、何かの拍子に転げ落ちた?
真相は不明ですが、確かなのはここに一円玉が落ちている、ということ。拾い上げてみると、結構傷が出来たりしていて、ピカピカ光って主張していたのが嘘のようです。この傷み具合からは、もっとくすんだ光りを放っていてもおかしくはありません。
どうしてあんなにピカピカして見えたんだろう? 掌に載せてみたり、表裏くるくる回して太陽の光りを反射させたり試してみたのですが、落ちていた時の輝きはもうありませんでした。こんなとき、ちゃんとした大人は警察に届けるのでしょうか・・ならば、青鳥はダメな大人なのです。一円玉だしなあ・・届けてもなあ・・お札なら行くけどなあ・・。けど、見つけてしまったから、見ないことにはなあ・・。
よし、ポッケないない、なのです。要はネコババ、なのです。なんとなくお財布には入れずに、コートのポケットにこの一枚だけ忍ばせました。
さあ、ふよふよの続き、なのです。「積極的迷子属性」ONなのです。新しい相棒の一円玉くんと共に、知らない道を行くのです。知らないお店、知らない交差点を歩くのです。頭上には飛行機雲が何本も架かっています。一円玉くんは見たことあるかなあ。路上に落ちていたのなら、たくさん見ているかな?
それにしても、一円玉なんて拾う人はいないのかなあ? それじゃあ、一円玉くんが可哀想なのです。一円玉くんもお金なのにね。一円玉では見向きもされないのです。青鳥があの場所を通るまで何人かの人が見ているはず、なのです。それでも拾われないなんて、一円玉くんはつらいと思うのです。やっぱり大きな値のお金だったら、簡単に拾われてしまうのでしょうね。「ここだよ!」って、ピカピカ主張しているのに、それでも見ないのか見えないのか。今は青鳥のお散歩の相棒、なのです。
ちょっとお買いもの、なのです。ここで一円玉くんを・・と思ったのですが、キャッシュレス決済をしてしまいました。うーん、選択ミス。またまた相棒とお散歩は続きます。
次のお店に入ります。ここはキャッシュレスではなく現金払いのみ。
さあ、一円玉くん、君の出番だ。青鳥のポケットから解放された一円玉くんは、たくさんの一円玉がいる場所へ移っていきました。青鳥との旅はここでおしまい、なのです。一円玉くんが一円玉としての機能を発揮する場所に収まって、今度は一円玉くんが主役になるのです。
いろんなお金に揉まれて傷をこさえて、一円玉くんは人から人へ渡っていきます。
引き換えに手に入れた食パンを手に、青鳥はおうちへふよふよと帰りましょう。
良い旅を、一円玉くん。