ちょっと死んでた日々のこと。

 最近は心が死んでいた。理由は特にない。

 何をしていても空しくて、何を食べてもあまり美味しくは感じない。そうして動くのも億劫で、寝ようとしても眠りにつけずに窓の外が段々と明るくなるのをぼーっと見ていた。
 けれども一日はこなさければならない。重い体を動かして、何時間もかけながら家事を済ませた。味があまりしなくてもお腹が減った感覚はあって、機械的に食事をした。何を食べたのかはもう思い出せない。多分、カップラーメンか何かだろう。
 そうして何日か経って、ようやく少しずつ眠れるようになった。見た夢は、顔も知らない他人に暴力を振るわれて誘拐されるという、何ともまぁ悪夢という言葉が似合う内容である。久々に眠れて悪夢ってハードモードすぎやしないか。

 友人の引っ越しを手伝いに行った。自然に笑えていただろうか。会った瞬間から楽しくて仕方なかったから、きっと大丈夫だろう。夜ご飯に食べたお寿司がちゃんと美味しく感じて、少し安心した。ただ友人とバイバイしたときはめちゃくちゃ寂しくて、家に帰ってからソファで一歩も動けなかった。

 そうして、何故か、滅多に連絡してこない姉から電話がかかってきた。23時に。

 なんてことはない雑談しかしなかったが、話すたびに何となく体が軽くなったような気がして、通話時間が1時間になった頃に、自分の今の状態を話してみた。あくまで簡単に、ふざけてるように聞こえる声色で、

「なんか、自分がおかしい気がする」

 姉は笑いながら言った。

「本当におかしくなったら自分じゃ気づけないから大丈夫」

 なるほどと思った。
 うつ病を経験した姉の言葉には中々に説得力がある。

「どん底になっても何とかなるもんだよ、姉ちゃんがそうでしょ。今じゃこんなに笑ってるよ」

 確かに。
 電話口でコロナウイルスへの愚痴を言いながら、ケラケラと笑う姉の声は明るい。アマゾンプライムでパンデミック系の映画を見ているとのことだった。姉は強い。
 それからまた一時間ほど話した。子供たちが映画館に行きたがって困る、と相談されたので、ポップコーンとコーラを用意したら部屋を真っ暗にして自慢の大きいモニターで映画観なよ、とアドバイスしておいた。それめっちゃいいね、と即採用されたのが嬉しい。
 何となく、もう大丈夫なような気がした。

 その夜も、まぁあまり眠れはしなかった。朝方にうとうとして、出勤時刻の1時間前にようやく動き出せた。ごはんは美味しい。
 もう少し時間はかかりそうだが、姉の言う「何とかなる」日は私にも近そうだ。
 何がきっかけで心が死ぬか分からないが、何がきっかけで心が生き返るかも分からない。つまりはそんな話である。

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