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コメダのグラコロ

 建築学科に在籍している学生の睡眠不足の原因は、だいたい設計製図の課題のせいだと思う。
人によって課題にかける熱量と時間は異なると思うが、私の場合かなりの時間を製図に使う。(完成後のクオリティはまた別の話)   

 しかし一人で考え続けても煮詰まる時はあるもので、そんな時には他人の意見が欲しくなる。
 例の如く思考が進まなくなった私は、昨年の12月の初めに同じ学科の友人である、うめさん(仮名。名前に梅の字が入っているため)を誘ってコメダ珈琲でお互いの作品の意見交換を行うことにした。


 学校が終わると電車に乗り、最寄りのコメダへ向かう。  そういえば、コメダのグラコロが美味しかったと母が言っていたことを思い出す。話の種に食べてみるか…
そうと決まればお腹が空いてくるもので、課題そっちのけでグラコロを堪能してやろうと楽しみにしていた。
 

店につくなり、うめさんは店の奥へ迷いなく足を進め、窓側の赤いソファーへ腰を落ち着ける。 「昨日もここの席だったんだよね」
聞けば前日もこのコメダに友人と来たとのこと。どんだけコメダが好きなんだよ… 

「うめさん何にする?私グラコロ一択だけど」 

「迷うんだよねー、照り焼きサンドにするか、このデミグラスソースのやつも美味しそうでさ」

 あみ焼きチキンサンドかドミグラスバーガーかで迷っているらしい。こちらとしてはお腹空いてるから早く決めてくれよ、と思いつつ、

「じゃあ私、今のうちにトイレ行ってくるから。その間に注文しといて」

 私は先にお手洗いに行くことにした。
しばし一人になり、グラコロに想いを馳せる。どんな味なんだろう、コメダのサンドイッチは量が多いけど食べ切れるかな、考えるほどお腹空いてきたな… 意気揚々と席へ戻り、

「お待たせ。もう注文した?」 

「したよ!」
 

サンドイッチが運ばれてくるのを待つ。 製図の話なんかをした気がするけれど、私はグラコロのことしか頭になかった。
 やがて店員さんがこちらに向かってくるのが見え、いよいよグラコロと対面かと胸が躍る。 

 

「お待たせしました。ドミグラスバーガー辛子抜きです。」
 

へえ、うめさん結局ドミグラスバーガーにしたんだ。

「あ、そっちです」 「いや、私ちがいます」

「「え」」

「・・・うめさんでしょ?」 

「ちがうよ、私あみ焼きチキンサンドだもん」 

 ・・・ん?

あみ焼きチキンサンドだと? もしかして、店員さん、他の席のを間違えて持ってきちゃったのかな?いや、なんか違う気がするなあ…

「へ?てりやきとドミグラス頼んだの?」

 「うん」 

このやろう、両方自分が食べたいもの頼んだな!!!

「私グラコロって言ったよ?!しかも辛子抜きとか微妙な気遣いいらんし!」 

「あーーーーー!!!ごめん!笑」
 

しかも辛子食べられるから!何なら好きだから!!
ああ・・・私のグラコロ・・・サヨナラ・・・

でもなかなかどうして、うめさんを怒る気にはなれない。
これが彼女の美点とも言えるんだよな・・・ と思う。

 結局その日は辛子抜きのドミグラスバーガーとあみ焼きチキンサンドを2人で分け合って食べた。 

 よって私はまだグラコロにありつけていない。
しかし、やり返す機会を虎視眈々と狙っている。
食の恨みは怖いのだ。

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