セラムン二次創作小説『あたしの彦星様』
まもちゃんに会いたい。その一心であたしがいるべき場所ーー射手座Aスターを離れ、遠く離れた過去の地球へと降り立った。再びちびちびに姿を変えて。
何も考えずに降り立ったその日はまさかの七夕の日。笹の葉がそこかしこに飾られてある。織姫と彦星が年に一度、天帝から許されて会える日。運命を感じた。
セーラーコスモスとしていつもいる場所は沢山の星々が産まれる。そして、全ての星が終わるところでもある。
星は沢山あるけれど、七夕伝説なんて素敵な伝説は全く無い。当然、織姫と彦星なんていなくて。かつてのセレニティとエンディミオンのような恋に身を焦がすこともない。大好きなまもちゃんや仲間もいない。ロマンスもなんにもない。無の世界。
「一目、見るだけ」
一目だけでも会いたい。近くで。その想いがあり、うさぎと瓜二つの姿を変えてちびちびになった。
上手く一人のところに出くわさないと。そうは言っても今のうさぎが一緒にいるだろう。七夕というイベントの日だ。前世と重ね合わせ、絶対会うに決まってる。
「雨降ってきちゃった……」
今は梅雨。曇天だったから、降るだろうと思ったら案の定。
濡れるのは好きじゃない。ロッドを出すと、上へと上げて号ぶ。
「ラムダパワー!」
ロッドに力を込め、雨から晴天へと変える。今日は七夕だから、私からの本のささやかなプレゼントだ。
日本全国の人達、それに織姫と彦星。喜んでくれると嬉しいな。
「さてと、まもちゃん探そう」
取り敢えず彼の家へと向かうことにした。うさぎに出くわさない様に慎重に行動する。小さい体も相まって、警戒しながらの移動は中々思うように進まない。
最初っからまもちゃんのマンション付近に降り立てばよかったと後悔する。こういう抜けたところはうさぎと同じだ。
いや、そのうさぎに見つからないためだけども!
「おチビちゃん?」
後ろから声をかけられる。聞き覚えのある、今一番会いたくて会いたくて仕方なかった人。ーーまもちゃん!?
「ちびちび〜」
後ろを振り向く。そこには記憶のままの想い人が立っていた。幸い、一人で。
「一人? ママやパパは?」
「ちびちび〜」
まもちゃんと名前を呼びたいのをぐっと堪える。けれど、体は勝手に動いていて彼の右足にしがみついていた。
「人懐っこい子だな。ちびうさみたいだ」
いつかのみんなと似たような反応。でも、ちびうさってそんなに人懐っこかったっけ?最初は警戒心凄かったけど。
「参ったな……交番行くか?」
周りを見渡すも、親らしき人物が見当たらない為、まもちゃんは困ったように頭をポリポリと掻きながらそう呟いた。
どうやら交番まではデートができるみたい。この一時を大切に紡ぎたいと噛み締める。
するとヒョイッと両手で抱き上げられた。そして、左手にチョコンと座らされた。ん? これは、デートが短いフラグか?
「お前、名前は?」
「ちびちび〜」
「家は?」
「ちびちび〜」
それから交番に行くまでの間、まもちゃんから色々質問され、その度に“ちびちび”の一言で乗り切った。
“まもちゃん”
“私はセーラーコスモスで月野うさぎの未来の姿だよ”
“ずっとずっと大好きよ”
“コルドロンでずっと待ってるからね”
それらの言葉や伝えたい想いをグッと堪らえて、飲み込んで。正体を隠し、まもちゃんを堪能する。
そりゃあ、うさぎに罪悪感がないと言ったら嘘になる。だけど、今だけは私の、私だけの彦星様でいて欲しい。
「じゃあな、ちびちび」
「ちびちび〜」
交番に着くと、まもちゃんはお巡りさんに私を任せて笑顔でサヨナラを言って去って行った。
あたしはその後ろ姿をいつまでも見つめ続けた。
一目会えて愛情チャージして満足した私は、セーラーコスモスへと姿を戻して地球を旅立ち、いるべき場所へと戻って行った。
おわり