セラムン二次創作小説『輝石の奇跡』
うさぎは毎日幸せだった。
愛する恋人がいて、大好きな仲間がいる。
これがどれ程素敵で素晴らしい事であるか。当たり前ではなく、奇跡。そう感じていた。
何故なら、前世からの仲間である亜美、レイ、まこと、美奈子には未だに彼氏どころか、好きな人は現れない。
美奈子は息をするように“恋がしたい”“彼氏が欲しい”と言う。しかし、実際はどれも本気になれないようで彼氏が出来ても長続きしない。
まことは、先輩の影を追い求めながら、それを上回る素敵な人に巡り会えないのか、特定の恋人は中々できずにいる。
亜美は、恋より勉強と戦いで遅れていた分を取り返すように、益々勉学に励んでいた。
レイの男嫌いは、最近益々酷くなっている。戦士としても強く、精神的にも自立している。男なんかお呼びじゃないようだ。
四人にも自身の様に女性としての幸せをする手に入れて欲しい。恋人を作って青春を謳歌するよう、うさぎは何度か言ったことがあった。
「私たちの幸せは、うさぎなの。うさぎを守る事が、私の存在意義」
だから男なんか邪魔なだけだと、四人揃っていつも同じ返答をする。
前世から側近として、どんな時もそばにいてくれた。しかしそれは、プリンセスだったから。今は違う。普通の女の子だ。
違うとすれば、前世の記憶を持ちながら戦士として敵と戦う使命を背負っている。
それがなければ、それさえなければ、普通の女の子として青春を謳歌していたはずで。
自分のせいで、また美奈子達は従者となり、戦う運命を背負ってしまった。
うさぎはずっとその事に対しての後ろめたさがしあった。
自分だけ幸せでいていいのかと。
うさぎは知っていた。分かっていた。
そんな四人には、それぞれずっと、古から心から慕うたった一人の人がいるという事を。
自分がエンディミオンに惹かれた様に、四人も又、それぞれに想い人がいた。
しかしそれは、叶わぬ恋。叶えてはいけない恋だった。主人が、禁断の恋に身を焦がしているのに、従者まで、そうなるわけにはいかず、心を押し殺していた。
セレニティは、お似合いだと思っていた。
四人も幸せになって欲しいと言う気持ちは、前世の時からあった。
結局は、彼らの裏切りで最期まで報われぬ恋で終わってしまった。
彼ら。そう、それは恋人だったエンディミオンの側近。
一番年上で、使命に。エンディミオンに誰より忠実。真面目なリーダー、クンツァイト。
誰より強く、腕っ節があり。誰に対しても分け隔てなく優しい、ネフライト。
笑顔が素敵で、忍耐力があり。真面目なのが長所であり、欠点であるジェダイト。
中性的な顔立ちで、男性にも女性にも慕われる。頭が誰よりも良いゾイサイト。
それぞれが、同じ志し。同じ想いに、同じ使命、同じ忠義があった。
だからこそ、惹かれあったのだろう。
前世では、神の絶対的な掟により結ばれる事は無かったが、普通の女の子として生まれ変わった今は違う。
エンディミオンといる時の自分の様に、想い人と護衛をしている時の四人は、本当に素敵な表情をしていた。
それを遠くからエンディミオンと“お似合いね”と無邪気に話していた事もあった。
エンディミオンも、あんな彼らを見た事がなく驚いていたが、幸せを思っていた。
そう、これはうさぎと衛、二人の願い。
四天王を蘇らせる。これは、二人の思い。
美奈子達には“余計な事するな!”と言われ、怒られるだろう。
クンツァイト達は、生き返る事を望まないだろう。
だけど、うさぎはそれでもみんなに幸せになって欲しかった。
流れ星に願ったこともあったし、月に祈ったりもした。銀水晶で生き返らせようと試みたこともあった。
でも、どれもダメだった。四天王は蘇ることは無かった。
クンツァイトが言っていた。
「以前、貴女がプリンセスとして覚醒した時、銀水晶の力で四天王が蘇りそうになっていたのですが、ダメでした。身体がもたなかったようです」
肉体を取り戻しはしたが、既に再生するには遅く、蘇ることは出来なかったと。
続けてジェダイトは言う。
「メタリア戦直後、月から地球を元に戻した時、私たちはマスターの懐の中。ご籠は受けられなかったようです」
残念そうに、そう教えてくれた。
そして、ゾイサイトが更に続ける。
「デス・バスターズとの戦いの後も、銀水晶で地球を再生していましたが、私たちが蘇ることは出来なかった」
そう聞いたうさぎは、残念に思っていた。自分の銀水晶の力では四天王を蘇らせられないのかと、非力な自分を呪った。
凡ゆる理由を考えた。
自分にはまだその力が無い。経験を積まなければいけないのかもしれない。
直接四天王の翡翠と対峙して祈らなければいけないのかもしれない。
そう考えたうさぎは、デッドムーンとの戦いの前に一度試した事があった。三度、いや、四度の経験で銀水晶も自身も強くなった。今ならいける!そう思ったのだ。
だが、結果はこの通り蘇ることは無かった。
そんな折、衛にもクリスタルがある事が発覚。
衛の分身の存在であるエリオスが、必死に探していた。
最終決戦でそれは見つかり、解放された。
その力を、衛の家に翡翠として眠っていた四天王も感じていたという。
「それは、今までには無いほど力が漲るようでした。銀水晶も癒されたけど、それとはまた別でパワーが溢れ出る感じ。上手く言葉では説明出来ませんが……」
ネフライトがそう言いながら四天王に視線を向け、同意を求める。クンツァイト達は、うんうんと頷いた。
再三の銀水晶での再生が阻まれた理由。
それは、うさぎが未熟だったからでも、銀水晶にその力がなかったわけでもなかった。きっと、彼らは衛が持つゴールデンクリスタルでなければいけないのだとうさぎは考えた。
彼らはずっと地球人だ。裏切りはしたものの、エンディミオンの忠実なる側近。
銀水晶では無く、ゴールデンクリスタルで無くてはならない。そこだけは譲れなかったのだろうと衛も又同じ様に考えていた。
その時が来たのだと、うさぎは考えた。
うさぎは、衛の事も気にかけていた。
自分の様に、気の置ける仲間が欲しいのではないかと。相談したり、笑い合える友達がいる楽しさを知って欲しいと思っていた。
「ねぇ、まもちゃん」
「ん、なんだい?」
衛の家で二人、まったりしている時だった。
うさぎは、意を決して衛に話すことにした。
「四天王、蘇らせない?」
「え?」
「まもちゃんのゴールデンクリスタルなら、きっと……」
「そう、かな?やっぱり……」
うさぎにそう言われた衛は、考え込む。
「いけるだろうか?」
「絶対!大丈夫だよ!寧ろ、まもちゃんにしか出来ないことよ!私も、サポートするわ」
「うさ……」
うさぎに背中を押された衛は、立ち上がる。
別の部屋へと行った衛は、四天王を大切に保管してある箱を持っていた。
その中には、ゴールデンクリスタルも一緒に保管されていた。
「その気になってくれたのね?」
「うさにそう言われちゃあ断れないさ」
「でも、いつかはって思っていたでしょ?」
「ああ、でもまだ早いかと思っていた」
「今日は満月だし、天気もいいし」
「それ、関係あるか?」
うさぎの動機に、衛は苦笑いをしながらもうさぎらしいと微笑ましく思った。
「関係あるよ!やっぱり天気が良くて月が出ていた方が出来る気がするもん!まもちゃんも、月を見たら元気出るでしょ?」
「ああ、まぁ……確かに」
うさぎにそう言われると、そんな気がするから不思議だ。
「ほら、ね?」
うさぎの笑顔を見て、衛はそれだけで力を分けてもらった気持ちになった。
うさぎは凄い!月は凄いと改めて偉大だと再確認する。
「ここで蘇らせる?」
うさぎは、不思議そうに問いかけた。
「いや、ここじゃあ色々弊害があるし、きっと迷惑がかかる」
「ん~、じゃあどこでやるの?」
衛の言う通り、力を解放するという事は、周りに強大な光が漏れてしまい麻布十番の住人を不安を与えかねない。
それ程、ゴールデンクリスタルの力は強大だった。
しかし、どこでやるのがいいのか。うさぎは思い浮かばなかったし、皆目見当もつかない。
「エリュシオンに行こうと思う」
「え?エリュシオン!?」
行き場所を聞いて、うさぎは驚きを隠せ無かった。
「ああ、エリュシオン以外には考えられない」
確かに、これ以上うってつけの場所は無い。
エリュシオンは、衛や四天王がかつて暮らしたゴールデンキングダムがあった場所でもある。
更には、ゴールデンクリスタルが無事衛から出てきたのもエリュシオンと言う地だ。
ゴールデンクリスタルの真の力を引き出せるのも、衛が力を発揮出来るのも、四天王を甦らせることも出来る。そう、衛は考えていた。
「そっか。うん、それなら大丈夫だね!」
「うさも一緒に行ってくれるか?」
「あったり前じゃん!行かないって選択肢なんか無いよ。手伝いたいし、見届けたい」
「ありがとう、うさ」
そうと決まれば早速と衛は、うさぎの手を取ろうとした。
「エリュシオン、久しぶりだな。エリオスもメナード達も、元気かなぁ?きっと、びっくりするよね?」
「驚くだろうな」
エリュシオンには、デッドムーンとの戦い以来だった。
衛は、エリオスにも会いたいと思っていた。元気な姿を見せたかった。
きっと、ギャラクシアとの戦いで、ゴールデンクリスタルを抜かれて消滅した事もエリオスは感じていた事だろう。
衛とエリオスは一心同体だ。何も無かったなんて事は、きっと無かったはずだ。
しかし、エリオスはエリュシオンを離れる事は許されない。祈りの間で衛の無事と、啓示を受ける事が彼の務め。
そんなエリオスに、元気な姿を見せていなかったが、何も行く理由が無いとタイミングを逃し続けていた。
「まもちゃん見たら、きっと喜ぶよ」
「だと言いな」
エリオスが心から喜ぶ顔を、衛は見た事がなくて不安になった。笑顔になってくれるだろうか、と。
「ちびうさじゃなくてガッカリ、とかあるかもしれないけど」
「うさ……」
てへ、と言って舌を出した。うさぎなりに衛を元気づけようとしているのが伝わり、ホッと力が抜ける。
「後、四天王にも会いたいだろうし」
「そうだね」
衛の全てを満たしてくれる。それがエリュシオンだった。
「それじゃあ行こうか、エリュシオンへ」
「うん!」
そう言うとうさぎは衛の左腕に抱きついた。
衛はゴールデンクリスタルだけを取り出し、四天王の翡翠が入っている箱を右脇に挟み込んだ。
「エリュシオンへ」
ゴールデンクリスタルを右手に持つと、衛はそう祈りを込めた。
すると光に包まれ、眩し過ぎて二人は目を閉じた。
その頃エリュシオンでは、いつもの様にエリオスが啓示の間で祈っていた。
「プリンス?」
衛のオーラを感じ取る。
祈る事を止め、啓示の間を後にする。
「エリオス~」
遠くの方で自分を呼ぶ声がした。
メナードとは違う、透き通った声。長い時間目を閉じて祈っていたこともあり、ボヤける視界に映ったのはツインテールのお団子頭。
元気な声からエリオスは、ある人物を思い浮かべる。
「小さな乙女……?」
距離を詰めると時間が経った事もあり、視界も戻って来た。ちびうさでは無く衛とうさぎの姿がそこにあった。
「プリンス、プリンセス!?」
案の定、驚く姿に衛とうさぎは視線を合わせて微笑んだ。
「ああ、プリンス……ご無事で」
「ああ、この通りだ。心配かけてすまなかったね」
「いえ、祈る事しか出来ずすみません」
「君が謝ることは無いよ。エリオスが祈ってくれていたおかげで、俺はこうして元気な姿でいられるんだ」
エリオスは、衛が元気でいる事に驚きを隠せないでいた。と同時に、元気な衛を見られて胸がいっぱいだった。
「もしかして、わざわざ元気な姿を見せに来て下さったのですか?」
「それもある」
「……他にも用が?」
「ああ、これさ」
「これは……?」
衛から翡翠が入った箱を見せられたが、分からないと言った様子だ。
「四天王だ」
「まさか、これらの翡翠はクンツァイト様、ネフライト様、ゾイサイト様にジェダイト様にございますか?」
「ああ。この翡翠に彼らの意思が宿っている」
「会わせに来て下さったのですか?」
「少し違うかな」
翡翠の四天王を前に、エリオスは何も分からず困惑していた。
「では、どう言う……」
「今日は、四天王をここでゴールデンクリスタルで蘇らせるためにここに来たんだ」
「四天王の皆様を蘇らせる!?」
衛の言葉にエリオスは更に驚く。
「ああ、出来るかは正直分からないが、やってみる価値はあると思う。試してみて良いか?」
「是非!でしたら啓示の間でやると、より良いかも知れません」
同調するとエリオスは、衛とうさぎに着いてくるよう言い、啓示の間に案内した。
「コチラにその翡翠をセットしてみて下さい」
「ああ、ありがとう」
エリオスに言われた通りに衛は、啓示の間で翡翠をセットする。
そして、ヒーリングの力を解放する。
すると四天王が亡霊となって現れる。
「マスター」
「ここは?」
「まさか?」
「ゴールデンキングダム?」
四天王は、次々と言葉を発する。驚いている様だ。
衛に跪きながら、周りの景色を見渡す。
「ああ、ゴールデンキングダムのあったエリュシオンだ。今からここでゴールデンクリスタルを使い、お前達を蘇らせる。文句は受け付けないぞ」
ここに四天王を連れてきた理由を説明する衛は、語気を強める。
そうしなければ、かなり文句を言われそうだったからだ。説明をしている間、四天王が怪訝な顔をしながら口を開こうとしていたのを衛は見逃さなかった。
「分かりました」
「貴方の望みとあれば」
「甘んじて受け入れましょう」
「仕方ありませんからね」
主である衛がそう望むのなら、四天王は逆らえない。石として、衛のそばにいられるだけで彼らは幸せだった。
しかし、蘇って欲しいと衛が願うのならば、その意思を尊重する他ない。
「では、始める」
「頑張って、まもちゃん!」
「プリンス……」
ゴールデンクリスタルの力を解放し始めると、再び蓮の花の形へと変化する。と、同時に激しく光り輝く。
その光を見てうさぎは、手を組み瞼を閉じて祈った。
“まもちゃん、四天王……どうか、どうかお願い!”
衛も必死に祈った。“四天王を元の肉体を取り戻し、蘇れ”と。
その姿を見た四天王も、心を一つにして祈った。“再びこの世に生命を”と。
その強い光は、やがて四天王を包み込んだ。
そして遂に、その時はやって来た。
それまで透けていて、幽霊の様な容姿だった四天王だったが、ハッキリと肉体を取り戻して堂々とそこに立っていた。
「これは……」
「驚いたわね……」
「本当に元に戻った」
「すげぇな」
四天王はそれぞれ、肉体を取り戻し、驚きの声を上げた。
「クンツァイト、ネフライト、ゾイサイト、そしてジェダイト!」
「マスター!!!!」
「良かった!良かったよぉ……うぇっ」
再びこの世に蘇った四天王と、衛の喜ぶ顔を見てうさぎは胸いっぱいになり、大粒の涙を流していた。
衛も、四天王も感無量だった。
「マスター、ありがとうございます」
「この生命、無駄にはしません」
「これからもお傍で、守り続けます」
「プリンセスも、ご心配おかけしました」
騎士の姿のままだからろうか。それともまた裏切ってしまった後ろめたさからか。四天王は従者の言葉で喋り続ける。
「硬っ苦しいのは無しだ。あの頃とは違う。俺はもう王子じゃない。お前達も普通の人だ。これからは友達でいたい。俺のことも、マスターでは無く衛と呼んでくれ」
対等でありたいと衛は強く願った。
「それともう一つ」
「何ですか?」
「自分達の幸せを掴んで欲しい」
「それは……」
「ヴィーナス達と、恋仲にあったのだろう?」
「想ってはいましたが、付き合っては……」
「いませんでしたね」
「もしまだ心の中に彼女達を思う気持ちがあるのなら」
「私からもお願い!」
「プリンセス……」
「私を言い訳にして、恋人を作ろうとしないの。普通の女の子として生まれたのに、そんなの寂しすぎるよ。きっと四人も、ずっと心に四天王がいるんだよ。私には分かる!」
衛の願いに、うさぎも同調して四天王を説得して力説する。
そんなうさぎに、四天王はニコリと笑いかけながら口々に言う。
「もし、本当に運命であるのならば、会うこともあるでしょう」
「またリーダーは、カッコつけてロマンティックな事言ってさ。本当は振られることが怖いんじゃね?」
「そう言うネフライトは一目散に会いに行くだろ?」
「ったりめーだろ!俺の辞書に“駆け引き”と言う文字は無い!」
「欲望に忠実で、本当羨ましいわ」
四天王はそれぞれ違った反応を口にする。
「皆さん、良かったですね。お幸せに」
「ああ」
「ありがとう」
「じゃあ、帰るな」
「元気でな」
「皆さんも、お元気で」
四天王はエリオスに挨拶と別れを告げる。
「うさ、くれぐれも美奈達には内緒だぞ?」
「分かってるって!私たちからのサプライズプレゼントだもん」
笑顔で答えるうさぎに、不安を覚える衛。
「じゃあ、エリオス。騒がしくしたが、帰るよ」
「プリンス、お元気で。また来てください」
こうして六人は、エリュシオンを後にしてそれぞれのいるべき場所へとゴールデンクリスタルの力で戻って行った。
次に戻って来たのは、元いた場所。衛のマンションだった。
「無事、戻ってこられたね」
衛の部屋にいる事を確認したうさぎは、笑顔でそう言った。その言葉に、衛も四天王も安堵した。
「本当に蘇ることが出来るなんてな……」
最初に死んだジェダイトが、信じられないとまだ驚いている。
「マスターのゴールデン・クリスタルの力が強大なのかもね。あ、プリンセスの銀水晶がダメって話じゃないのよ?」
「くすくすっ分かってますって!あなた達、本当にまもちゃんの事が大好きなのね」
ゾイサイトの言葉に気を悪くするどころか、うさぎは衛のゴールデン・クリスタルですんなり蘇った四天王にそう言った。
その言に、四天王は照れくさそうにしていた。
「この部屋とも、今日でお別れか……」
「長居してしまい、申し訳ありませんでした」
名残惜しそうに呟くネフライトとは対象に、クンツァイトは冷静に礼儀正しく長く居候していたことを詫びた。
「いや、謝ってくれるなクンツァイト。俺の勝手で石のお前達を傍においていたんだ。ずっと傍にいてくれて、心強かった」
「いえ、何も出来ず見ているだけで……」
「色々相談に乗って貰った」
彼らの存在で衛はどれだけ心が楽になった事だろう。非力だと悩んでいた時、親身になって支えてくれた。
肉体的には役不足だったとしても、精神的な面では救われていた。
「これからも相談に乗ります!」
「敵が来た時は、体を張って守る事も出来るぜ」
「気持ちは嬉しいが、無理はしないでくれ」
「あなたに貰ったこの命、あなたのものです」
「昔も、そして今も。この命尽きるまで、あなたに捧げます」
「いや、その命はそれぞれお前達のものだ。そんなに重く考えないでくれ」
「本当だよ!みんな重い」
「それに、衛って呼んでくれ。いつまでも固くて肩こりそうだ」
蘇っても従者としての癖が抜けず、まだ四天王はマスター呼びの敬語だった。ただ一人、ネフライトを除いては。
「しかし、この格好では……」
今纏っている格好は、前世と同じ軍服だ。その為、中々敬語が抜けない。
「まぁ、徐々にでいいよ」
衛は諦めることにした。
「ここから出て、次に会うときは敬語抜きにしますよ」
「そうか」
ジェダイトからそう言われ、衛は漸くホッと一安心した。
「では、これで私たちはお暇しようかと思います」
「今までありがとうございました」
「そして、これからも宜しくお願いします」
「プリンセスも、ありがとうございます」
「あ、私の事もうさぎって呼んで!」
「御意!!!!」
衛と同様、うさぎも堅苦しい呼び方を嫌がった。
四天王は、元気よく即答したが先程の衛とのやり取りを見聞きしているだけに、先行きに不安が募る。
「まっすぐ家に帰るのか?帰る家はあるか?」
「私たちも普通の人間として今の地球に転生していますので」
「そうか。そう聞いて安心したよ」
後先を考えず蘇らせた衛は、急に余計なお世話をしたのではないかと不安になった。
しかし、四天王の衛と同じ様に普通の人間として暮らしていた過去がある事を知り、安堵した。
「俺は早速、ジュピターに会いに行くかな?」
「本当に待てないやつなんだな。俺はどうするかな。マーズだと仙台坂上かな?」
「マーキュリーは本屋か図書館かしら?」
「ヴィーナスだと、ゲームセンターか……」
みな、思い思いの場所を思い浮かべる。
「みんな!マーズ達も名前があるの。マーズは火野レイ、マーキュリーは水野亜美、ジュピターは木野まことでヴィーナスは愛野美奈子よ」
「くれぐれも戦士名は呼ぶなよ?」
「肝に銘じておきます」
約束はしたものの、やはり不安になる。
「後、私が関与した事もくれぐれも秘密でどうか、一つ!!!」
「あなたのことは言いませんから、ご安心下さい」
「最も、感の鋭い方たちですから、すぐに察するかとは思いますが」
「善処はしたいと思います」
「それでもバレたら、その時は甘んじて素直に怒られて下さい」
「……はい、そーします」
「では、マスター」
「そして、プリンセス」
「今までお世話になりました」
「そして、これからも末永く」
『宜しくお願いします』
四天王は、最後まで丁寧に挨拶をして衛のマンションから誇らしく出て行った。
四天王がそれぞれの想い人と出会い、恋に落ちるのはまた別の話。
おわり