【ホラー小説】 忌み地 結花子60 【心霊】
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【ホラー小説】 忌み地 結花子60 【心霊】

あおさとる


 結花子は急いで自分の荷物をまとめ、谷地の家を出ようとしたときに、突然スマホが鳴った。その音に驚いて、慌ててスマホの表示を見ると、壱央からの電話だった。

 なぜこのタイミングで彼から電話があるのだろう。今まで無視してきたのに突然なんだろう。訝しく思いながら電話に出ると、壱央の声が聞こえた。

「井野さん。今まで電話に出られなくてすみません。今ご自宅ですか?」
「はい、家にいますけど……。今までどこにいたんですか? 私、何度も電話をしたのに」
 思わず、結花子は壱央を詰った。

「すみません。宮古島に帰って祖母について修行してたんです」
「修行を?」
「あなたの家にかかった呪詛やあなたにかけられた呪詛を解くための修行です」

 それを聞いて、結花子は安堵してほっと息をついた。一人で戦わねばならないと覚悟していたが、正直不安でならなかった。

「壱央さんに言われたとおり床下を調べたんです。そしたら赤ちゃんの骨がたくさん埋まってる井戸を見つけたんです。井戸はちゃんと魂抜きをして埋めたのに、何も変わらなかった。前より酷くなってるんです。壱央さんは今どこにいるんですか」
「列車に乗ってます。そちらに着くのは夕方になると思います。でもそれより早くその家から逃げてほしいんです」
「どうして」

 まさに逃げようとしているのを見透かされたように思った。

「祖母が言うには、井野家には二つの呪詛がかけられてるんです。その家にいたらあなたもおなかの子も危ないんです」
「私、家を出る支度をしたところなんです。でもどこに逃げたらいいかわからなくて」

 結花子は雪見障子の向こうにある仏間から、今にも人形たちが迫ってくるのではないか、と恐れながら答えた。

「駅で待ってくれてたら迎えに行きますから、一緒に都心まで行きましょう」
「わかりました。でも、人形はどうしたらいいですか? 捨てても戻ってくるし、どこにいても現れるんです」

 結花子は必死に現状を訴えた。人形をそのままにしておけばきっと追いかけてくる気がしたのだ。

「燃やしてください。燃やして呪詛の容れ物を奪いましょう。その呪詛は仏間から出ることが出来ないはずです。それよりももう一つの呪詛が発動してないことを祈るばかりです」

 そう言われてみれば、女や赤ん坊たちが出るのは廊下までで、雪見障子より先に行けないようだった。

「もう一つの呪詛って何ですか」
「僕の見立てでは、意図して作った呪詛ではなくて偶然の産物としか。人形を燃やすことでそれが表面化するんじゃないかと」
「燃やせばいいんですね」
「僕が行くまでに燃やせますか」
「頑張ってみます。早く来てください」

 結花子は啓示を受けたように感じた。人形と関わっていまだに生きているのは壱央だけだ。その彼が自分のために修行をしてくれた。心強くて涙が出てくる。

 電話を切った後、玄関にスーツケースとボストンバッグを置き、庭に面したサッシを開いて、仏間へ行った。

 湿気た空気が充満していて、腐臭もいまだに消えない。暗がりの中に人形が鎮座して、ふすまを開けた結花子のほうを一斉に見たように感じたが、何も見なかったと自分に言い聞かせて、両手に持てるだけの人形を掴む。どこからともなく猫の鳴き声が聞こえ始めた。掴み上げた人形には重みがあり、力が抜けた子供のようにぐんにゃりとしている。その感触が視線などよりもずっと気味が悪かった。人形を庭にほうると、ドサリという鈍い音を立てた。それを繰り返して、四十一体の人形を全て庭へ移動させた。

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あおさとる
物書き。 主にホラー。 https://aosatoru.booth.pm 同人誌はこちら。