【ホラー小説】 忌み地 結花子62 【心霊】
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【ホラー小説】 忌み地 結花子62 【心霊】

あおさとる


 結花子の脳裏で夢の断片が組み合わさる。

 夢の中で、孕み女の腹から取り出した赤ん坊が声を上げて泣く。死体から生まれた赤ん坊はどこへ行ったのか。

 走馬灯のように夢に夢が重なっていく。欠けていたピースが少しずつ嵌まっていくような気がした。

 最後に、結花子の脳裏をかすめたのは、腹を裂かれた孕み女はどこのピースを埋めるかけらなのだろうと言う疑問。

 結花子の手から火の付いたマッチが落ちる。気付いたときには人形が勢いよく燃えている最中だった。錦の着物や質素な麻の着物まで、様々な布地を炎の舌が舐めていく。桐塑に植え付けられた頭部の人毛が焼ける臭いとは違う、肉の焦げていく臭いが灯油の臭いに混じり鼻をつく。夢から覚めたような心地で、結花子は呆然と立っていた。

 辺りはすっかり暗くなっていた。それでも庭は人形たちの燃えさかる火に照らされて明るい。

「何してるんだ!」

 背後から聞こえた怒声に、結花子は飛び上がらんばかりに驚いた。夢心地の寝ぼけた状態から現実に引き戻された。

「俺たちの福の神が……」

 まだ二十時になっていないのに、目の前に夫が立っていた。わなわなと震えて動揺しているのが手に取るようにわかる。

「これは福の神なんかじゃない」

 結花子の言葉に、半泣きの夫が庭に靴下のまま降りてきて両手を炎に差し伸べた。

「何言ってる。人形で福の神を作るんだよ。ほら、これを見て。これを人形の中に詰めたら完成するんだ」

 そう言って、夫が上着のポケットに手を突っ込み、小さな赤く染まったかけらを摘まみ出した。夫の言っている意味が少しだけわかった。木彫りの人形の中に詰め込まれていた骨のかけらが何なのか。

「でも、この子の命が引き換えなんでしょ」

 夫が激しく頭を振る。
「違う、代わりがいるんだ。それを人形に。この子たちが教えてくれたんだよ」

 炎に巻かれて人形の頭がバチンと弾けて崩れていく。
「駄目だ、燃やしたら駄目だ!」

 夫が炎の渦巻く人形たちの山へ駆け寄っていった。火が付いているにもかかわらず、炎の中へ両手を伸ばして火を払おうとした。

 結花子はその様子をジッと見つめていたが、夫が炎に手を伸ばして燃えている人形を取ろうとしたときに、とんと夫を火の中に突き飛ばした。夫が人形に蹴躓けつまずき、転んだ。化繊で出来たスーツにあっという間に火が燃え移る。驚いた表情で夫が結花子を見上げた。

「この子の代わりって亜美の子供のことでしょ」

 その瞬間、夫が絶叫した。立ち上がろうとするも、人形に足を取られてまた転ぶ。絶叫しながら人形の残骸の上でバタバタと転がり続けた。

 それを結花子は無表情で眺めた。炎が全てを浄化するように燃えさかっている。炎に巻かれて夫が次第に動かなくなるのを静かに見ていた。

「どうしたの!」
 隣家の悦子が駆け寄ってきて、燃えている寿晶に気付き言葉をなくしたように手を口に当て、一呼吸置いてから叫び始めた。
「きゅ、救急車! 救急車呼んで!」

 悦子の夫も駆けつけてきて電話をしている。誰かが消化器を持って来て、燃え盛る炎に浴びせた。リン酸アンモニウムのツンとした臭気が庭中に広がる。

 周りが騒がしいのに、結花子はそれに気付いてない表情で焼けただれた夫に目を向けて眺めていた。

「井野さん、座って。気持ちを落ち着かせてね。今から病院に行くけど、一人で大丈夫?」
 結花子はゆっくりと顔を上げて、悦子を見やった。
「大丈夫です……」
「旦那さんもきっと大丈夫よ」
 優しく話しかけてくる悦子に連れられて救急車に乗り込んだ。

 人形の残骸の上で固まっている夫をストレッチャーに乗せて救急隊員が運び入れてきた。夫の口に酸素ボンベを付けられると、わずかに夫が動いた。ピクピク動いていたがやがてその動きは止んだ。

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あおさとる
物書き。 主にホラー。 https://aosatoru.booth.pm 同人誌はこちら。