【ホラー小説】 忌み地 壱央6 【心霊】
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【ホラー小説】 忌み地 壱央6 【心霊】

あおさとる


 壱央は用済みとなった数珠を箱に入れて、宮古島の祖母に返そうとスーツケースに詰めた。宮古島に明日帰るために、マンションの契約も今月までと連絡してある。退居まで一週間早いし、明後日、予定日だと聞いている結花子の出産を待っている時間ひまはない。

 数珠が切れたときに、壱央は直感でこれ以上結花子の側にいてはいけないと思った。彼女の側にいれば、残された呪詛が自分を襲うだろうと判断したのだ。結花子にそのことを告げないのは結花子自身がまだ子供の存在に守られていると思ったからだ。

 結花子から聞いた話の中に、初代当主の嘉平が、死んだ女の腹を裂いて赤ん坊を奪った、というのがあった。それは全て結花子が夢の中で得た情報だった。奪われた赤ん坊がどういう末路を辿ったのか、それはわからない。ただ、腹を裂かれた女が嘉平を呪うことで作られた呪詛なのだろうから、嘉平の一族に対する祟りである可能性が高い。

 病院に現れた女からは悪意しか伝わってこなかった。末代まで祟ってやるといった怒りや憎しみがにじみ出ていた。無差別に襲いそうな危険も感じられた。

 人形を始末しようとした人間はことごとく死んでしまった。多分、自分も例外ではない。それでも生き残るために、宮古島へ戻り、自分自身を守るための修行をすることになっている。家財道具などは全てまとめて処分し終えた。ここにあるのは寝袋と着替えと風呂で使うタオルやシャンプーだけだ。

 朝一の飛行機に乗って宮古島に戻るので、早めに風呂を済ませようと立ち上がった。タオルなどを持ってバスルームに入る。洗い物は実家に持ち帰って洗えばいいか、と考えてバスルームの外に脱いでおいた。

 体と頭を洗った後、前もって湯を張った風呂桶に体を沈めた。足を伸ばしてここ最近の疲れを洗い流す。

 結花子や自分を守るために気を張っていたせいで、余計に疲れが溜まった。

 結花子につきまとう呪詛は、あまりにも古く土地に根付いたものだったから、谷地という忌み地から離れれば問題ないはずだった。それなのに、谷地からずいぶん離れた病院にまで、呪詛は現れた。それだけが解せない。まさか、二つ目の伊助が作り上げた呪詛がまだ残っているとでも言うのか。

 湯を両手ですくって顔を洗っていた手を止めて首をかしげる。やけに水が生臭い。水道水と言うより、淀んだ川か池の水のようだ。しかし、目を開けて風呂桶を見てみるが、変わったところなどひとつもない。それとも風呂の湯ではなく、別の所から臭っているのだろうか。下水の臭いかもしれない。ずいぶんとこの部屋を留守にしていたから、掃除が行き届かず、臭ってしまっているのか。

 壱央は風呂から上がり、排水溝を覗いた。蓋と内蓋を外してみる。汚れてはいたが、特に気になるほどではなかった。臭いが強く鼻をついたり、全く臭わなくなったりと、出所を探すのに苦労した。どうも、他の水場から臭いがしているようだ。

 タオルを取って、腰に巻く。他に水場と言えば、トイレとキッチンだけだ。トイレを覗いたが、全く臭いはない。キッチンの排水溝も調べたが、こちらも綺麗だった。ここ数ヶ月、料理を作ってないのだから当たり前だ。部屋の水場が原因でないなら、臭いがこの部屋にまできていると言うことになる。換気扇から隣の臭いがこちらまで来ているのだろうか。だとしたら相当な悪臭になる。

 急いで服を着て、玄関の鉄扉を開け、外廊下に出てみた。涼しい風が吹きつけてくるだけで臭いまではわからない。

 壱央は首をかしげながら、部屋に戻った。

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あおさとる
物書き。 主にホラー。 https://aosatoru.booth.pm 同人誌はこちら。