黒子のバスケ最終回を受けて思い出す、黒バスキセキの同人ブーム

藤巻忠俊「黒子のバスケ」(以降、黒バス)が9月1日発売の「週刊少年ジャンプ」で最終回を迎えた。全275話。「SLAM DUNK」以降空白だった「ジャンプのバスケ漫画」は、連載6年でしっかりと完結した(※黒バス以前にもバスケ漫画はあったが、長期連載にはならなかった)。

嗚呼、黒バス。

嗚呼……黒バス!

黒バスといえば、「光」と「影」という腐女子一本釣りワードを繰り広げ、設定を満載にした男子高校生たちが大量に登場し、「女子人気が高い」と言われている作品。黒バスの同人誌を一冊でも買ったことのある女子はかなり多いと思われます。

では、黒バス連載開始時の2008年。腐女子たちの反応はどうだったのか? さぞ瞬間的に食いついたのかと思いきや…意外とそっけない態度だったのです。

2008年といえば、「ヘタリア」同人の最盛期。米英派と英日派が日々ぶつかりあい、毎日のように学級会を繰り広げていました。また、「ガンダム00」への期待(これはアニメの展開によって恐ろしい勢いで収束するのですが)、若干小規模なところだと「マクロスF」のミハアル(これもアニメの展開によってガクンと収束する/マクロスFは男女カップリングであるアルシェリも意外と同人で流行しました)など、「ジャンプ」以外のジャンルが流行していたのです。

対して、「ジャンプ」はというと、安定・ゆるやかな衰退期。「ONE PIECE」「NARUTO」などは完全な老舗ジャンルになり、「リボーン」「銀魂」などのジャンル人気もゆるやかなものとなっていました。ちなみに「魔人探偵脳噛ネウロ」は個人的にめちゃくちゃアツかったんですが、まあ同人ジャンルとしては大ヒットではありませんでしたな。

そんな状況下、「ヘタリア」ブーム(当時ヘタリアは書店通販がジャンルの暗黙の了解でNGで、イベントでの過熱っぷりがすさまじかった)に乗り遅れてしまった腐女子たちは、ハマれるジャンルを全力で求めていたような印象があります。

黒バスは、「これはなかなかBL的に素敵なのでは…?」という空気はありましたが、いかんせん作品自体の雲行きを不安視する声が大きかったのです。この作品が初連載となる無名の作者、金字塔をもつ「バスケ漫画」というジャンル、若干不安な画力……ジャンプに「10週打ち切り」というシステムがある以上、「連載が安定するまでは様子見」という腐女子が多数を占めていました。

(もちろん全員様子見していたわけではなく、連載開始から数日ですでに火神×黒子のサイトは多数つくられてました)

同人的にひとハネしたのは、キセキの世代のひとり「黄瀬涼太」の登場。イケメンモデル、ちょっとチャラそう、コピーというトンデモ能力、そして初登場時の「黒子っちください」発言が「なにこいつBLじゃん?」というムーブメントを起こしました。

火神と黒子という関係性ではなく、黄瀬と黒子という「昔の男」的要素、くわえて三角関係要素も生まれたことは、同人的に非常に大きかった。

キャラクターの関係性の多様さ、つまりはカップリング可能性の多様さは、大規模同人の流行にとって大きな要素です。それだけいろいろな萌えを作品にできますし、話もワンパターンになりにくい。「ヘタリア」のブームの一因は、キャラクターが多かったこと(に加えて、そのキャラクターの性格や他キャラクターとのカラミを「史実」をネタ元にして設定・捻出しやすかったこと)にあるといわれています。

(※カップリングされるキャラが一強でも流行ったジャンルはもちろんいくらでもあり、たとえば「コードギアス」や「鋼の錬金術師」、「TIGER&BUNNY」などのタイトルを挙げることはできます)

黒バスは、キセキの世代の数だけ高校があり、その数だけチームメンバーがいます。中心となるキセキのメンバーが設定ぶちこみまくり(※褒めてます)のキャラクターのため、キセキ×黒子、キセキ×キセキの高校のメンバーという基本ラインに加え、多様なカップリングを生み出すことができます。

本誌の連載も緑間登場のあたりからは安定してきて(読者も「あ、こういうバスケ漫画なんだ」と認識するようになってきた)流行の下地的にはばっちりの状態でした。

しかし、同人ジャンル的にはいまいち爆発的にヒットせず。急激に盛り上がったのは2012年のアニメ化。実はあまりアニメに期待はされていなかったのですが、思いのほか出来がよかったのも幸いし、一気に女子中学生のファン(腐女子含め)が激増しました。

なぜこんなにいきなり同人人気が出たのか? ちょっとアホっぽい発言が記憶に残っています。

「アニメで色がついたら、ぐっとわかりやすくなった」

アニメの2話で黄瀬が登場し、当然のように黄瀬に食いつく腐女子たち。黄黒は長いあいだ黒バスカップリング人気の中でトップを走っていたのではないでしょうか?

黒バス脅迫事件のために同人イベントが中止になったのは、ある意味では同人ジャンルとしての黒バス人気を持続させました。爆発的に成長したジャンルは、それと同じスピードで急激に人気が落ちることもままあるのですが、黒バスは「ほしい本を思うように買えない」というフラストレーションが、かえって飢餓感や結束力を上げていたように思います。当時イベントはほとんど中止になりましたが、そのぶん書店委託や通販は盛況でした(委託できない人もいるし、イベントで本が売れるならそれがいちばんではあったのですが)。

もともとファンの年齢層が低いことを危惧されていたジャンルではありましたが、イベントがないことでトラブル報告も少なかったです。代わりにアニメイトでのトラブルは多々見られましたが。

そうしているあいだに、キセキ(&火神)×黒子だけではなく、黄瀬×笠松や緑間×高尾(逆もあり)などのカップリング人気も伸びてきて、ジャンルとしてはほぼ安定した状態になったといえます。連載終了にともない、勢いの減少は避けられませんが、アニメ3期やジャンプNEXTでのスピンオフ(?)などで、まだまだ黒バスから人がいなくなることはないでしょう。黒バスが育てた腐女子も成長し、読み手から書き手に進化を遂げる人も多そうです。

黒バスは、同人的にヒットする要因をもともと持っていたものの、「キセキ」のラインで完璧に成就し、成長したジャンルだと思います。藤巻先生、おつかれさまでした。

黒バスジャンルでやたら見られた「セクピスパロ」「オメガバース」あたりについても書きたいのですが、また違う機会に。推しカップリングは緑高です。

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