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【ちょこっとアドバイス4】青い山脈【避けて通れぬ昭和の名曲】

はじめに

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さて、アコーディオンという楽器を弾く方の多くは、高齢者のお集まりや医療施設の慰問に誘われたり、また実際に行って演奏したという方は多いと思います。或いは「歌声喫茶(後述)」の伴奏として声がかかる事があると思います。その時にも不動の人気を誇るのがこちら「青い山脈」です。昭和24年(1949年)、服部良一先生作曲の大ヒット。長年に亘り世代を問わず愛唱されていて、実に発売から40年も経っているのに、1989年NHK「昭和の歌・心に残る歌200」でも一位を獲得しているそうです。それだけ普遍性がある曲と言えるでしょう。2021年現在も、日本でアコーディオンを弾く人には、世代を問わずちょくちょくリクエストが舞い込む曲なのではないかと思います。ですから、いつどこでも楽譜を見ないで弾けるように暗譜(あんぷ・曲を覚えること)してレパートリーに入れておくべき大切な曲だと思います。

注)歌声喫茶:歌声喫茶」または単に「歌声(うたごえ)」とは、客全体が一緒に歌うことを前提に用意された歌集を手にリーダーと呼ばれる歌手が進行しながら場を共有する合唱形態。歌のジャンルは多岐に亘り、シャンソン、ロシア民謡(厳密な意味では流行歌など「民謡」以外も含まれる)、唱歌や叙情歌など。本来はそれを執り行うお店を「歌声+喫茶」と呼んだが、屋外で行われるものや、近年では特に茶菓が供されないイベントも慣習的に「歌声喫茶」と呼んでいる。昭和20年代後半から昭和40年代頃、およそカラオケの出現まで流行った。その頃青春時代を送った人々を対象に高齢者のレクリエーションとしても人気が高く、安西も高齢者施設のみでなく、地方自治体やホテルイベントなど、数々の「うたごえ」の伴奏をお引き受けして来た経験があります。

【名古屋の歌声喫茶「コーラス」と、新宿の老舗「ともしび」の歌集(安西はぢめ蔵)】

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【ご存知、昭和を代表する名曲「青い山脈」】

https://youtu.be/5bhx4zL4KA8?si=DBoUDqGEPhITDKJm

特に高齢者の施設では参加者となる入居者の皆さんが若かった頃の流行歌を日常的に一緒に歌ったり、聴かせたりしてケアの一環に取り入れていたりします。こういった催しにゲストとしてお邪魔することになった場合、こちらがプログラムを考えるのとは別に、普段から皆さんで楽しんでいる色々な曲をリクエストされたりという事が良くあります。そこに「青い山脈」が含まれていない事はほぼありません。あるとしたら「わざと外してある」以外には考えられないというくらいの大定番です。

改めて考えてみると、いわゆる「懐メロ」と一括りにするのは一歩間違うととても乱暴な事で、70代の方と80代の方では場合によっては20歳近い年の差が生まれますし、そこにもう少し若い方や90代の方がいたら、お一人お一人の「青春のメロディ」には30年近い開きが出て来るかも知れません。その中にあって、万に一つのハズレもなく会場が一丸となれる曲の一つがこの「青い山脈」なのです。すごい曲です。素晴らしいことです。ですからいつでも出せるように頭の中に入れておくべきだと力説している訳です。

【短調は悲しい曲なのか】

さて、この曲を取り上げる時によく私が話題にするのは「短調で書かれた曲は悲しい曲なのか」という事です。特に学校教育の現場でよく耳にするのですが「短調(マイナー)は暗い悲しい曲調」「長調(メジャー)は明るくて楽しい感じ」などと説明されがちです。でもこの曲はイ短調(Aマイナー)であるものの、歌い出しの歌詞は「若く明るい歌声に…」です。西条八十氏の作詞が光る、青春の躍動感が溢れる始まりです。希望に満ちた明るい曲です。「空の果て 若い我らの夢を呼ぶ」なのです。マイナー調でありながらフォークダンスでお馴染みの「マイムマイム」も水が出た喜びを井戸の周りでクルクル回りながら踊る曲ですし、逆に「アロハ・オエ」という優しいハワイアンは何とも切ないお別れの曲です(この曲の成立背景には幾つか説がありますが、いずれも別れを題材にしていることには変わりがないようです。余談ですが、後にイエスキリストの再臨を願う歌詞がついて「けがれとあらそいは(Until Thou comest again)」というタイトルで讃美歌にも取り入れられています)

以上お分かりのように「マイナー≠暗い・悲しい」「メジャー≠明るい楽しい」とは限らないという訳です。「青い山脈」はその典型的で具体的な例なので皆さんもぜひ色々とご存知の曲やレパートリーで身近な例を考えてみてください。

【重要ポイント。元のイントロを弾くべき??】


曲を弾く時には、たとえ楽譜には書いてなくても「イントロ(前奏)」を弾き、1番、2番…場合により間奏を挟んで3番…と弾き進めて行き「エンディング(後奏)」を弾くというのが曲の体裁です。イントロには色々な作り方がありますが、ジャズを始め多くのポピュラー音楽で使う方法の一つは「曲の終わりの8小節なり4小節を弾く」というものです。これは手軽でありながら外れのない「王道」です。つまり曲のオシリの部分は頭に戻るのが自然になっている事が多いからです(これを通称「オケツ取り」と言います)。特に大人数で一緒に歌うような時には分かりやすいこともあり、重宝します。童謡や唱歌などはこの方法がとても有効だと思います(以前YouTubeに解説を上げた事がありますのでご参照ください)

けれども、「定番モノ」ともいうべき元々のイントロが「弾かれるべき曲」というのが一定数存在します。これは特に昭和の歌謡曲に顕著かも知れません。「憧れのハワイ航路」「りんごの歌」「高校三年生」「函館の女」「アンコ椿は恋の花」などはもちろんのこと、ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」、ピンクレディーの「UFO」や沢田研二さんの「勝手にしやがれ」、ジュディ・オングさんの「魅せられて」久保田早紀さんの「異邦人」吉幾三さんの「雪国」など、印象的なイントロと共に人々に覚えられている名曲は枚挙に暇がないくらいです。イントロが始まった途端に聴衆が一体となって、ひと盛り上がりして本編の歌が始まるというムード作りにも最強なので「懐メロ」を弾く時には「オリジナルのイントロを弾くべき曲か、オケツ取りでOKなのか」を伴奏者がキチンと知っておく必要があるのではないかと思っています。加えて「名調子」の司会者さんやリーダーさんがいる時には、イントロ部分をたっぷり使って様々な曲紹介や歌手の迎え入れなどが行われるのは歌番組でご承知の通りです。演出的にもイントロは非常に重要な所以です。

残念な事に、そもそも日本の曲に限らず海外のアコーディオン曲についても、元の演奏を聴く習慣がない人がとてもたくさんいます。今は様々な入手方法がありますので、以前だったら限られたコレクターしか聴くことができなかった古い録音も安価に手に入ります。出版物には紙面の都合で省略版になっているケースも多いので「元のイントロどうする?」に端を発してオリジナルを発掘して考えたり工夫してみてはどうでしょう。

【青い山脈を弾くにあたって】

青い山脈」のオリジナルは藤山一郎さんと奈良三枝さんによるデュエットでした。一般には、もっぱら藤山一郎さんによる独唱のイメージが定着していて、デュエットの印象があまりないかも知れませんが再確認すると元の構成は、イントロ・1番(藤山)、間奏、2番(奈良)、再度イントロ部分を演奏、3番(藤山)、4番(2人)、再度間奏部分を演奏し、それがそのままエンディングという流れです。

同じく「蘇州夜曲」も霧島昇さんと渡辺はま子さんによるデュエット版があるので、以前歌声喫茶の時に男女でパート分けをした事がありますが、参加者にはあまりピンと来ず良い成果は上げられませんでした。なので元がデュエットだからと言って男女を分けるのは歌声喫茶ではあまり有効ではないかも知れません。特に歌声喫茶は、たくさんの人が同時に歌いますし、歌集に「間奏」などと書いてあっても、歌詞をすっかり覚えていて先へ先へ歌うクセのある人もいるので、特にリーダーが他にいないでアコーディオン一台で伴奏とリーダーを兼ねる時には混乱を招かないよう演奏前に「3番の後ろで間奏を弾きますからお休みしてくださいね」など念押しした上で、いざそこに差し掛かったら弾きながら「間奏弾きます!」と声をかけております。

そして、もう一点検討して欲しいのがテンポ設定についてです。この曲は調子が良いので来場者の手拍子に押されたり、演奏者が頭の中で出しているテンポ、思い込んでいるテンポがそもそも速くて、割とセカセカと弾かれてしまうケースが多いように思いますが、テンポ設定は割とゆっくりめにした方が本来のニュアンスを生かせると思います。もし難しくて弾けないところがある人ならば尚更のこと、あまりジャカジャカ突っ走らないで弾いてみてください。参考として♩=100前後がオリジナルに近くて且つ心地良いのではないかと思います。

アコーディオンソロで「蘇州夜曲」もどうぞ!

【番外】香港出身の二胡奏者ユーヨンさんとのデュエット「蘇州夜曲」もどうぞ!(高胡&古筝)

【アコーディオン用楽譜のご案内】

さて、アコーディオン愛好家が常に向き合う問題の一つが「アコーディオン用に編曲された楽譜の絶対数が少ない」ということだろうと思います。世の中に無数の曲がある中で、自分が弾きたい曲がアコーディオン用にアレンジされて出版されているとは限りませんし、運良く曲集が出たとしても、部数が伸びなければ増刷されることや、絶版後に再販される事はないでしょう。そのため、私の教室では生徒さんにメロディとコードさえあれば自分のアタマで考えて、自力で曲を弾けるようになって欲しいと指導していますが、それも急にできるようになる事ではないので、時間がかかりなかなか難しい場合があります。

けれども今なら、せきたさらい先生による編曲の「アコーディオンで奏でる世界の映画音楽」という曲集が手に入ります。その筆頭一曲目に「青い山脈」が取り上げてあります。

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せきた先生がご自身の生徒さんたちからのリクエストで教材用に編曲した楽譜という事もあり、難易度が高過ぎず、でもツボを押さえた編曲でお勧めです。懸案のイントロ部分や間奏のメロディもちゃんと書いてあります。「青い山脈」の楽譜をお探しだった方は、ぜひ手に取ってみてください。御茶ノ水の老舗「谷口楽器」さんの店頭はもちろん、ホームページからもお求め頂けます↓

【書影】

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いかがだったでしょうか。多くの人に知られ、愛されている曲だけに、ただ楽譜を弾くのではなく、多少なりとも予備情報を踏まえて取り組むと、また違った景色が見えて来るのではないかと思います。今回紙面の都合で作曲の経緯などには触れられませんでしたが、服部先生が電車内で浮かんだ曲想を数字譜で書留めたエピソードなどもなかなか面白いですよ。調べてみてはいかがでしょうか。さあ、また次のちょこっとアドバイスでお目にかかりましょう!

恐れ入りますが転用転載をお断りします】

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また、現在YouTube2つのチャンネルに演奏動画やレッスンなどをアップしており、みなさんに楽しんで頂いたり、アコーディオンの事を知って頂きたいと思って活動しています。この機会にぜひチャンネル登録もよろしくお願いします!!

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