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全文無料公開中【森と湖とサウナの国の】サッキヤルヴェンポルッカ【失われしサッキヤルヴィの地】

「アコーディオンの音色は人を幸せにする」東京在住のアコーディオン奏者安西はぢめです。今日のアコーディオン名曲解説のテーマは北欧の「フィンランド」からです。

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「フィンランド」は、森と湖とサウナとムーミンの国として日本人にとても人気が高く、クラシックファンならシベリウスがすぐに思い浮かぶでしょうし、そのゆとりあるとされる北欧ライフスタイルに憧れたり(映画「かもめ食堂」を挙げる人が今も多いですよね)、その風土で生み出される家具や食器などの素朴なデザインを好む人も多く、特に近年はフィンランドの言葉や音楽にまで興味を持つ人も少なくないようです。中でも幾つか知られている曲の一つに「サッキヤルヴェンポルッカ」があります。これは「ガールズパンツァー(通称ガルパン)」というアニメに挿入され、知名度が上がったそうで、劇中ではカンテレという民族楽器で演奏されています。今日はこれからその「サッキヤルヴェンポルッカ」などのお話しなどをしていきたいと思います。

【まずは今日のテーマ「サッキヤルヴェンポルッカ」をお聴きください】

この曲はお聴きの通り、短調のポルカでいかにも日本人好みの「哀愁切々」と言った情緒が漂う曲です。先に述べた通り知名度も高いこともあり、私がアップロードして来た中でも安定して再生回数が多い人気ある動画です。


ダイジェスト「ポルッカ」解説

因みにタイトルにも入っている演奏スタイルのポルッカ(ポルカ、Polka, Polkka, Polca etc)は、大雑把にいうと二拍子の快活な曲調のこと。中央ヨーロッパ(一説に19世紀のチェコ)発祥で後にウィーンで流行をみせ(シュトラウスのポルカなど、きっと一度は耳にしているのではないでしょうか)、さらにスロヴェニアやバイエルンにも到達し定着します。やがて、ウィル・グラーエ楽団演奏の「ビア樽ポルカ」などがアメリカに紹介され、50年代から60年代にかけてヨーロッパ系の移民が多いエリアを中心にアメリカでも独自のスタイルのポルカ音楽が発生・大流行します。オハイオ州クリーブランドのスロヴェニア移民が中心に興したクリーブランドスタイルや、シカゴのチェコ系移民の間で行われているポルカ音楽、またポーランド系のコミュニティーで演奏されるスタイルではそれぞれにレパートリやテンポ、楽器の編成などにかなり差異があるので、それらについてもいづれ記事をアップしようと下書きを進めています。特にポーランド系はケムニッツァーコンサーチーナという楽器が主奏楽器になるので、慣れれば絵面を見ただけでポーランド系と分かります。

また隣国カナダにもクリーブランドスタイルの影響を受けたポルカ音楽はありますし、テックスメックスなどメキシコ音楽とアメリカ音楽のハイブリッドにも重要な曲調としてポルカはあります。そして、日本でも人気の高いアイルランド音楽や、フランスのダンス・アコーディオン音楽「ミュゼット」でもポルカは良く演奏されますし、またブラジルのショーロにもポルカというリズムで刻まれる曲がありますが、それぞれ様式と趣が異なっていますから興味がある方はぜひ聴き比べてみてください。こと左様に世界中を席巻した「ポルカ」ですがおよそ4分の2拍子で書かれることが多い…くらいしか共通点はなく、曲の構成や速度、強拍などは一貫性がありません。使う楽器の演奏特性や踊りのステップの都合などで、行った先それぞれに土着化したのでしょうね(個人的推測です)そんな訳で、ご多分に漏れず北欧各国にもポルカは伝わり、各地のスタイルで演奏されることとなった訳です。

「サッキヤルヴィのポルッカ」

実は弾けるようになってからも、この曲のいわれについて「サッキヤルヴィというところのポルカなんだろう」程度しか知らなかった私。改めて調べるとタイトルは「サッキヤルヴィのポルカ」という意味で、私の予想は当たらずも遠からず。しかしながら、ここから先を少し突っ込んで行くと事情が変わって来るのです。元々フィンランド領だった「サッキヤルヴィ」という場所は、第二次世界大戦中の1940年以降ソビエト・ロシアの実効支配下になり、現在も「レニングラード州コンドラチェヴォ」という行政区に区分されているそうです。面積にして492.58km2。日本では福岡県北九州市が492.0km2でほぼ同じですね。この「失われし土地」を想い歌った曲がこの「サッキヤルヴェンポルッカ」という訳です。歌詞を伴った演奏を聴くと、その内容が切々とした「望郷」なので合点が行くと思います。

さて、少し個人的な経験談を。動画の字幕にも入れましたが、とあるフィンランドからのお客様を迎えてのパーティーでBGMを任された私が、本国でも日本でも人気の曲と聞いているし、アコーディオンらしくて聴き映えもすると思って覚えて行ったところ、当日直前になって先ほど述べたような事情が分かり、フィンランドの方が演奏するとかリクエストだったならともかく、来賓の立場やお考えが分からない以上「外国人」である私が政治的トピックに発展しかねないテーマを提供する事態は避けようと思って演奏しなかったという意味で「思い出の曲」です。それ以来私は作曲者やタイトル・歌詞に至るまで、より深くチェックする「クセ」がつきました。その積み重ねが今の「BGMエキスパート」の信頼につながっていると思います。特に祝儀不祝儀では失敗の取り返しがつきませんので気をつけたいところです(お家で、楽しみのために弾く方はいちいちそこまで心配しないで、好きな曲を楽しんで弾けば良いと思っています。ただ、曲の背景を知ると理解が深まって、また違った表現になり、一層面白味が増すとは思います!)

【参考・フィンランドの基礎知識】

余談・フィンランドのお箏「カンテレ」

さて、アニメ「ガルパン」の中では「カンテレ」というフィンランドの民族楽器で演奏されるとあって、検索するとカンテレで演奏に挑戦している日本人の動画もよく目にしますので、カンテレにも少し触れておきましょう。カンテレには大小様々ありますが、いずれもツィター属の楽器(日本の箏とも同属)で、日本人のプロ奏者もおり、愛好家も増えていたりしますね日本人と相性が良いのかもしれません。

【次の動画は楽器と文化背景についての説明と実演が収められています(英語)】

繰り返しになりますが、この動画の解説にあるようにカンテレには大小様々なバリエーションがあって、伝統的なものだと5弦のものからあります。今は弦の数が多いものや、レバーがついて曲によって音を変えることができる大型の楽器まであり、一大「ファミリー」を形成しています。アニメ「ガールズパンツァー」という作品の中でもカンテレで弾いている描写が出て来ますが11弦のもののようです。伝統的なスタイルでは即興で奏でるというのが特徴で、「始まりもなければ終わりもない」と動画の中でも解説されている通りいわゆる西洋音楽的な意味での曲の体裁とは違うものだったようです。

話しをアコーディオンに戻します

この曲はアコーディオンナンバーとしても人気が高く、数々の演奏を耳にすることができますので、聴き比べて好みを探してみてはいかがでしょうか。個人的に特に力強い演奏の印象が強くて定期的に見たくなるのはこの二重奏です。ぜひ息の合ったアンサンブルをご覧にください。

【アコーディオンを弾く方へ】→北欧にはC配列ともB配列とも違う独自のボタン配列の楽器があるそうです、この動画を見る限り恐らく「それ」だと思われます。

【参考レイアウト】基本的にC配列と音の展開の仕方は同じですが、3列目にCがあるのが特徴です

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それにしても、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク…これら北欧の国々はどこもアコーディオンが大変に盛んです。他の多くのヨーロッパ諸国にも共通していますが、今よりずっと娯楽が少なかった時代に長い冬を過ごすのに人々は音楽を渇望していたのですね。社交の場、出会いの場としてホームパーティーやダンスパーティーも開かれたことでしょう。その時にアコーディオンが弾ける人間がいたらその場がどれだけ華やいだことか、今の時代には想像ができないくらい重要だったことと思います。

そんなアコーディオンが盛んな国々からの移民たちの中からスターが出て、後にアメリカのアコーディオン文化を大きく花開かせる訳ですから、それは音楽史的にもとても興味深く重要なことのように思うことがままあります。例えば Lawrence Welkと共に一世を風靡した Myron Florenはノルウェー移民1世です。

終わりに

ここまでお読みくださった方が曲に興味があったのか、アコーディオンに興味があったのか、はたまた純粋にフィンランドが好きな方なのか分かりませんが、いかがだったでしょうか。もしフィンランドが好きな方がたまたまここを通りかかっているならば、ぜひこれからはアコーディオンにも注目してフィンランド事情をご覧になって、我々が知らないアコーディオン事情を発信して下さればとても嬉しいです。

かつて学生時代以来、何遍も何遍も楽しく読んだ稲垣晴美さんの留学記「フィンランド語は猫の言葉」で知って以来、フィンランドは私にとって未知の国のままでした。買ったまま何年も読み始める気配すら起こさない内に本棚でホコリをかぶっている民族叙事詩「カレワラ」や(トップの写真参照)、最近かつてないほど人気が高いサウナのことや(2020年世界文化遺産に指定された「サウナ」。フィンランドにサウナは約200万ヶ所もあって国民全員が入っても余裕があるというのは本当でしょうか?フィンランド人にとってサウナは神聖な場所であり「教会のように振る舞う」という格言があるそうですね。これは「猫の言葉」にも確か書いてあったなぁ。集合住宅の共同サウナを使うくだりに)、フィンランド語のことやサーミ人の事など、今とても気になります。そして書けば書くほど思ったより自分がフィンランドに興味を持っている事が浮き彫りになって来ました。いつか「現地調査」してフィヨルドを見物したり、運良くオーロラなんか見られちゃったりしたら凄いなあと妄想が広がり過ぎたので本日はここまで。

最後までお読みくださり、どうもありがとうございました!イイね、コメント、サポート大歓迎です。どうぞ素敵な毎日を!ボタンアコーディオン安西はぢめ

・記事は正確を期するため、断りなく追加加筆や内容の訂正をする場合があります。


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