見出し画像

後悔


Pが空港に着いた時、どことなくそんなに嬉しそうな顔をしていなかったのが気になった。

「疲れているの?大丈夫?無理させちゃった?」

「いや、大丈夫だよ。飛行機の中がちょっと寒かっただけだよ。」

彼と私の実家に行き、母と食事をした。

母には事前に彼の好きのものや苦手なものは伝えてあったのに、食事は思いっきり彼の嫌いなものが出されていた。

ちょっとびっくりして「どうしてこれにしたの?」と聞いたら、忘れてた…というだけだった。

彼は「大丈夫。食べれるよ。」と言って頑張って食べてくれたが、私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

更に、私がお風呂に入っている間に、母と彼が話していたが、その夜彼は何も言わないで元気が無かったのが気になっていた。

後から彼に聞いたら、母が彼に何かを言ったらしく「なんか、僕がきみにふさわしくない、と思われているのかな…」と言っていた。

母を問い詰めたら、彼に「なぜか」優秀な親戚自慢をしていたらしい。

「なぜ,そんなことを?」と聞いても、話したかったから、と言うだけだった。

私の実家滞在の2日間は、彼をがっかりさせたんだと思う。

そして、予約しておいたホテルに移動したが、二人きりになってやっとちょっとホッとしたらしく少し表情が和らいだ。

その後は、二人で食事に出たり観光したりしていたが、一日だけ急に職場から私が呼ばれ、急遽出勤しなければならなくなった。

「いいんだよ。ホテルにいるから心配しないで。」

と言われ、彼を残して仕事に行く事になってしまった。

戻ってくると、彼は少し考え込んでいる様子だった。


あっという間にPが帰る日になってしまった。

私は彼を空港まで送っていこうとしたが、彼は忙しい私を心配して「ここでいい」と駅で別れることになった。

「ほんとにいろいろ、至らなくてごめん...。」

「いいんだよ。また今度、ゆっくり会おう。」

そう言って、彼は帰っていった。


実は昔、母にKを会わせた時も、似たようなことがあった。

Kは大人なので「まあ、俺が年食ってるしな。お母さんも不満なのわかるよ。」と言っていたが、やっぱりいい気はしていなかったようだったし、その後のKの落ち込みは結構だったのを思い出した。

Pは外国人の上に、好きな人の親からそんな対応をされたら、嫌な気持ちになるに決まっている。

Pのご両親はあんなに優しく私を迎えてくれたのに、と思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

母は、私の彼氏に会いたがったり、会う前は楽しみにしているように話すが、実際に会った時にはいつも態度が違った。びっくりするぐらい素っ気なく、むしろ意地悪なぐらいで、その前に話していたのが嘘のように。

最初は緊張しているからかな?と思いたかったが、多分、相手が誰でも私が離れていくのが嫌なんだろう、と後から気付いた。

でも、それでいて「孫が見たい」とかで私に結婚をしきりに勧めるという、かなり理不尽な要求をするのだ。

これ以降、これまで以上に私は母に恋愛や自分の話は一切しなくなり、この後の恋人は誰も紹介しなくなった。


この旅行の後も、Pとは毎日話していた。

Pは日本での生活を楽しむ反面、いろんなストレスを抱え始めていた。

ストーカーが出てきたのだ。

Pの住んでいる場所はちょっとローカルで、「典型的な外国人」の彼は外国人なだけで、ストーカーが付いたらしい。。。それも二人も。

1人は人妻らしく、スーパーで何度も声をかけられていたそうだ。

ある日「家まで荷物を持ってくれないか」と言われ荷物を運んであげたら、家に連れ込まれて押し倒され襲われそうになったんだそうだ。。。

もう一人は20代の女の子で、ひたすら彼の後をつけていたらしい。

話しかけるわけでもなく、下宿の玄関で待ち伏せしていたりと、すごく気味が悪かったんだそうだ。

彼はそれが理由で、下宿を引きはらい、知り合った武道の先生の家に引っ越ししている。(その先生が心配して、学校の送り迎えもしていたそうだ。)

この頃は、年齢に関係なく私以外の日本人の女の子に対して訳のわからない恐怖を彼が感じているように思えた。

そんなこともあり、「Mと早く一緒に住みたい。」といつも言っていた。

私は彼のことが心配になったのと、実家でのことが申し訳ない気持ちでいっぱいだったので、とうとう仕事を辞めて彼のいる所に行く事に決心した。

会社に退職の話をしたところ、残念がられ引き留められたが、なんとか円満に辞めさせてもらえる話になった。引継ぎ期間は1か月になった。

そして、彼の場所での仕事を探し始めた。

まずはスーツケースで行って、仕事や住む所を決めてから、本格的に引っ越ししようと考えた。

Pにその話をしたら、ビックリしていたが「嬉しい。待っている。」と言われた。


職場やクライアントに送別会などを何度もしてもらい、ありがたかった。

と、同時に折角好きな仕事についてたのに…とちょっと残念な気持ちもあった。

ところが退職1週間前から、急にPとの連絡が取れなくなった。

メールをしても、電話をしても返答が無かったので心配になった。

仕事の帰りの、地下鉄を待つ時にやっと、Pが電話に出た。

「大丈夫?具合でも悪くなっているんじゃないかとすごく心配したよ。」

「・・・ごめん。メールを送ったから読んでくれる?」

それだけ言って、電話が切れた。

何が何だかわからなかった。


家に着いてパソコンを開いて、メールをチェックした。

・・・Pから「ごめん。別れよう。」という内容のメールだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?