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ハプニング


ある時、イギリスでお世話になったLが結婚するという連絡が来て、私も結婚式に招待してもらった。

ちょっとした休暇を自分で作って、結婚式に出席後に、ヨーロッパを少し回ってみようと計画を立てた。


イギリスに着いて、懐かしいLの家に行った。

もう何年も会っていなかったのに、おしゃべりを始めるとあっという間にあの頃に戻った。

実はLも「このまま一人で生きて行くかも」と思っていたので家を買い、留学生に部屋を貸したりして将来設計を立てていたのは、以前から聞いて知っていた。

でも、私が出て行ってから半年後ぐらいのある日、彼と電撃的な出会いがあって、結婚することに決めたんだそうだ。

「本当に、人生は何が起こるか分からないのね。」

すごく実感のこもった言葉だった。


幸せそうなLの、本当にお姫様のような花嫁姿を見てから、私はヨーロッパ周遊の旅行に出た。

旅行の期限は10日間。

前日にどこまで行くかを決めて、適当にホテルをネット予約するという、行き当たりばったりの自由日程。

途中に、連絡の取れたホテル時代の友人とも会う予定を入れた。

ドーバー海峡を渡って、フランス、ベルギー、ドイツからオーストリアに入ってイタリアに抜け、スイスを経由してフランス入りして、またイギリスに戻って飛行機で帰国、という道順にした。

パリの友人と駅でお茶だけ飲んで、すぐベルギー行きの列車に飛び乗った。

ベルギーではホテル予約のためのネットカフェ探しにかなり時間を取られたが、素敵な街並みを楽しんだ。

途中、同じく旅行中のフランス人の女子集団と仲良くなり、グループに入れてもらってちょっとした観光案内をして貰えた。

ドイツで、ホテル時代に仲の良かった同僚に会い2泊ほどし、ウィーンに移動してオペラハウスで「アイーダ」を見た。


ウィーンからイタリアに向かう電車は、寝台車にしてみた。

他の路線と違って、イタリアは若い車掌さんが多いようだった。

同じ寝台車であった、私と同じような気ままな一人旅をしている韓国人の女の子と意気投合し、私は予定を変更してローマまで行く事にした。

彼女と別れがたくてローマに1泊して、私がスイスに向かう電車に乗る時は、彼女が荷物を運ぶのを手伝ってくれて見送りに来てくれた。

「お互いに気を付けて旅をしようね。帰国したら連絡し合おう!」

と言って泣きながらお別れした。彼女とはその後、しばらくメールで文通していた。


私の予約したスイス行きの寝台車の座席は、体格のいいイタリア人家族が既に4人座っている段階で、6人座れるはずの座席がいっぱいだった。

座れない私ともう一人の男性は、通路に寄りかかるしかなかった。

電車が発車してから、20代後半ぐらいの若いイタリア人車掌が来た。

昔、フィギュアスケートで三銃士を舞った選手に似た美男子だな、と思った。

「廊下に座るのは禁止されている。」と言うが、一緒に座りあぶれている男性と、「席に座れないのだ」と様子を見せてもなかなか納得してくれない。

美男子の車掌は笑顔の無い強面で、珍しくイタリア人らしい冗談も言わず、ひたすら「とにかく詰めて座れ。」の一点張りだった。

最終的に、その車掌は既に座っている体格のいい二人の女性の間に、男性の方を無理やりねじ込んで座らせた。男性は息を止めて細くなっていた。(笑)

そして、どうやっても座れない私に「荷物を持って、ついて来い。」と命令した。

誘導されたのは、なんとゆったりとした豪華なコンパートメントだった。

私が寝台車を取った段階では、既にコンパートメントは売り切れていたのに?と不思議に思っていたら、車掌は「ここにいてもいい。これは自分のコンパートメントだ。」と言われた。

お客さん(私)に提供してくれるのかな?親切だな?と思ったら、「後で」と、含みのある笑顔で私の頬にキスをして去っていった。

変なところでイタリア人だ。(苦笑)

ずっと通路の空気椅子状態で疲れていた私は、とりあえず席に座り足を延ばした。

その後は30分ごとにその車掌が来て、さっきとは打って変わって自己紹介をしたり親切そうにおしゃべりしていく。

それだけでなく、チョコレートやお菓子、ワインなどを持ってきて、私に食べさせたり飲ませたりして、私の手を握って頬にキスしてから、去っていく。

「・・・いくら何でも、サービス良すぎない?そして車掌にしては、一人の乗客に対して接触多過ぎない?」

少し不安を感じ始めていた。



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