対決
次に目を覚ましたのは、夜の21時だった。
シャワーを浴びて顔を洗い、服を着た。
それでも顔の腫れは引いてなかった。
母に電話をして、できるだけ明るく話し「週末、待っているね。」と伝えた。
22時ごろになった時に、Kから電話があった。
「22時ぐらいから一応、君の家の前にいるから安心して。Mが下りてきたらすぐ向えるようにするから、心配し過ぎないように。俺の姿が見えるまでは、オートロックの内側にいなさい。」
「ありがとう。お世話かけます。」
心強かった。
23時の5分前ぐらいに、Tが下のオートロックで鳴らした。
「俺だけど。入れてくれる?」
「待って。今下に行くからそこで待っていて。」
窓から下を見ると、向かい側の路肩にKの車が見えた。
エレベーターを降り、玄関前にTが見えた。
Kに言われた通り、Kがこちらに向かってきているのを確認してから、オートロックのドアを開けて外に出た。
「なんで?どうして部屋に入れてくれないの?」
Tが笑顔で近寄ってきた。
昨日の恐怖で、少し体が後ろに動いた。
Kがものすごい勢いで近づいてきた。
「Tさんですね。私はMのバイト先の上司で、Kと申します。昨日あまりに様子がおかしかったので、彼女に理由を聞いたところ、問題があったと聞いて心配で、立ち会わせていただきます。」
Tは、ガタイの大きいKがいきなり現れてびっくりしたようで、私とKを交互に見た。
Kは私の顔を見てびっくりしていた。
「Mさん、顔のことは言わなかったじゃないか!大丈夫か?本当に警察に行かなくていいのか?」
警察、という言葉にTが反応した。
「警察?!別に、二人の問題ですから、あなたも警察も関係ないでしょ!」
「もう二人の問題ではないですね。Mさんのバイトを休む連絡があまりにおかしかったので、Mさんの親御さんからお預かりしている立場から、事情を聞かせてもらいました。彼女が別れたいと伝えた後に、彼女が嫌がるのを無理やり乱暴したそうですね。これは、警察案件です。」
「・・・」
「Mさんはまだ大学生ですよ?今日は体調不良で大学にも行っていないと聞きました。お付き合いはお二人の自由ですが、別れを切り出されて、無理矢理乱暴するのは社会人としてどうかと思います。近々、彼女の親御さんがいらっしゃるので、もしこの場で揉めるようであれば、私が親御さんに説明して彼女が病院と警察に行くのに付き添います。」
「・・・」
「Mさんは、あなたとお別れしたいそうです。了解されますか?もう、彼女に近づかないと、約束できますか?」
「・・・」
「私から、Mさんの親御さんに今お話ししたほうがいいですか?」
「・・・いいえ、別れます。」
Tは、私とKとをにらんで、足早に立ち去って行った。
Kが大柄で強面なのを心底感謝した。
「Kさん、ありがとうございました。本当に助かりました。」
私はKに深々と頭を下げてお礼を言った。
「いいよ。でも、その顔大丈夫かい?」
「そんなにひどい?」
「・・・結構ね。とにかく、今日はゆっくり休みなさい。病院に行くなら本当に付き添うから。ホントに大丈夫?」
「大丈夫です。もう少し冷やせば、多分治ります。」
「でも、万が一のことを考えて、とにかくカギとドアチェーンは絶対忘れないように。そして当分は誰が来ても絶対ドアを開けないこと。」
Kは「あ、ちょっと待っていて」といって、車の方に走っていった。
戻ってきて、私に買い物袋を渡した。
「多分、食べれてないと思って。これね、温めて飲むといいよ。」
袋に入っていたのは、牛乳1パックとちょっと高めのココアパウダー、そして小さな小瓶のブランデーに、桃缶1つとミカン一袋が入っていた。
「あと、今週末お母さんが来た時に、引っ越ししたいと言ってみたら?なにかあってからでは遅いから、ここからは出来るだけ早く引っ越したほうがいいよ。」
その通りだと思った。
玄関先でお礼を言ってKと別れた。
部屋に戻って、ココアを作った。
いい香りがして、守られている気持ちになった。
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