令和3年度 新制度入試は行えるのか(その4 「受験生を守る柔軟な対応を」)

 以前にも二度にわたりご見解をお寄せくださった浜松北高校の駒形一路先生から,来年度の入試についての論考を戴いたので紹介いたします。

 拙速な「9月入学」導入は回避されたが貴重な時間を費やした愚は悔やみきれない。
 6月8日(月)、安倍首相は衆院本会議でコロナ禍の影響を受ける来年度大学入試の対応策について、6月中に方針を示す旨述べたが、この時期からの入試時期・出題範囲の変更可能性に公然と異を唱える大学関係者も少なくない。
先立つ6月5日(金)の第8回大学入試のあり方に関する検討会議で、上記の安倍首相に沿う報告をした文科省大学振興課 西田課長に対し、会議委員である芝井敬司氏(関西大学学長)は「今後示される6月中の発表に、従来からの大きな変更があっては混乱を招く」と発言したが耳を疑うほかない。「2年前告知」のルールにも触れていたようだが、その解釈にも誤りがある。「2年前告知」は「入学志願者保護の観点」からのものであり(文部科学省・「高大接続改革に係る質問と回答3-4-4)、東北大学の倉元直樹教授の言を借りれば、「受験生保護の大原則」に則ったものだ。今回の芝井氏の発言にある混乱は、多くは大学の入試準備に伴う「混乱」を指し、その眼に現在の高校3年生は映っていない。3月以降、休校措置の只中にあった彼らに、いかに学びの場と時間を確保するかが喫緊の課題だ。入試時期・出題範囲の変更は、現高3生を「救済」する方向で進めるべきであり、彼らを送り出す高校、迎え入れる大学、双方が尽力しなければならない。
 旺文社『蛍雪時代2019年11月号』付録・入試日程カレンダーを見ると、今春実施された私大一般入試は、本来は2月1日以降のところ、センター試験本試験(1月18・19日)直後、早いところでは1月21日(火)から始まっている。この日以降、各大学学部はさまざまな方式を案出しては3月末まで間断なく試験日を設けている。来年度も恐らくは踏襲するだろうから、例えば地方試験方式の会場確保という1点のみをとっても、仮に「共通テストを1ヵ月程度遅らせる」などと提案されでもしたら大混乱を招くことは必至で、容易には受け容れ難かろう。しかし、繰り返しになるが、今回の事態はコロナ禍(政治?)によるもので、受験生の中心となる高校3年生に非はない。その彼らが「保護」されないような決定が、「大学」側の意向ばかりを反映してなされては、そうでなくても二転三転した新制度入試で大人に対する不信感を募らせている彼らがあまりに気の毒だ。
 文科省は、全国高等学校校長会を通じて、すべての高校を対象にアンケートを実施したと聞く。限られた時間のなかで実態を把握しようという動きは歓迎すべきだが、数の多寡だけで結論を導くことがないよう、回答の精査も求めたい。

 例えば、来春受験者を「救済」する具体的な特例措置として以下の各案を掲げる。
○共通テスト実施日を含めたすべての入試日程の延期 ○共通テスト追試験会場の増加○共通テスト追試験受験条件の緩和  ○共通テスト試験範囲の見直し
また、一般選抜だけでなく、総合型選抜・学校推薦型選抜それぞれへの定員振り分けの弾力化も含めた、入学定員の緩和にも配慮は必要だろう。感染拡大第2波以降への備えも視野に入れ、柔軟な対応は不可欠である。
 もはや昔ばなしの感はあるが、最終的には両者ともに見送りとなった英語4技能民間検定や記述式問題の扱いについて、日を追って不備を指摘する声が高まるにも関わらず、多くの大学学部はひとたび決定した選抜要項を改めようとしなかった。ここでも「2年前告知」は持ち出され、事実上受験生が「救済」されることが明白であっても、頑迷に方針を貫く大学学部が目立った。繰り返してはいけない。大学の組織の大きさを考えれば、意志決定に時間がかかるのはよくわかる。しかしながら、誰もが未経験の事態であるだけに、ある程度の幅を持たせつつ、柔軟に「受験生保護の大原則」が貫かれることを願ってやまない。

 先立つ拙稿に取材した記事も配信された「朝日新聞EduA」Web版。「コロナでどうなる大学入試」と題する特集のなかで、同志社大学入学センター・多久和英樹氏は語る。
 「何があっても各大学は対応すると思います。大学にとって入試は、学長直轄で運営する大きなことです。イレギュラーなことがあっても対応するのが大学の社会的な責務。
 受験生が学んできたことを評価するためにきちんと対応します。」(0601配信)多くの大学関係者にこの言葉が届き、「学び」を奪われた現高校3年生に、それを取り戻す機会が、より多く与えられることを望む。


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