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教えるってこうやるんです?

就活の選考が解禁されましたね。最近、社会の中では「即戦力」が求められているそうです。難易度の低い課題からスタートして、フィードバックを与えつつ、だんだん難易度をアップさせる……そんなふうにして「教える」ことは過去のものとなりつつあるようです。実は、人類学でも、「教える」ことは重要なテーマです。ヒトの社会でも、「教える」ことは規範や、知識を伝達するために重要な役割を果たしています。では、ヒト以外の動物でも、「教える」ことはあるのでしょうか?2000年代なかば頃までは、ヒト以外の動物が「教える」ことができるとする主張は、きちんとした証拠がありませんでした。しかし今回は、こうしたこれまでの説に異を唱える、ミーアキャットがどのように「教えて」いるかを調査した研究を紹介します(※1)。

研究の中身を紹介する前に、「教える」ことを定義することにしましょう。きちんと定義することができなければ、「教えて」いるのか、そうでないのか、判断することができません。ここでは、キャロ博士とハウザー博士による、以下の定義に依拠することにしましょう(※2)。(1)ある個体(A)が、別の未熟な個体(B)がいる場合にのみ行動を変化させる、(2)Aはなんらかのコストを負うか、即時的な利益を得ない、(3)Aの行動の結果、Bは知識や技術をより早く、あるいは効率的に学ぶことができる。いかがでしょう?なんとなく、適切に「教える」ことを定義できているように思えたでしょうか?

サソリを弱らせる
では、研究の紹介にうつります。ミーアキャットの群れは、お父さんとお母さんと、そのこどもたちから構成されます。そして、年長のこどもたちは、年少の弟妹が赤ちゃんのあいだ、その世話をするのです。たとえば、赤ん坊の求めに応じて、餌をあげたりします。ミーアキャットは雑食性で、食事メニューのなかには、年少のこどもにとっては扱いが難しかったり、危険なものも含まれています。とくに危険なものにサソリがあります(※3)。そのため、兄や姉が年少の子供にサソリを餌として与えるときに、殺したり、針を噛みちぎったりして弱らせるなどすることがあります。ソーントン博士らは、サソリを餌として与える場合、たとえば甲虫のような他の餌と比べて、無傷のまま与えられる確率が低いことを報告しています。

ソーントン博士らが発見したのは、兄や姉が、弟や妹の成長に応じて、サソリを殺したり、針を噛みちぎったりして弱らせる割合を調節していることです。サソリを無傷で与える確率は、赤ん坊の年齢とともに増加します。たとえば、生後30日から90日の間に、無傷のままのサソリを与える割合は、10〜20%ほど増加します。

さらに、兄姉は弟妹が餌を食べるときに傍で見守っており、もし弟妹が生きた餌を扱うのに失敗すると、兄姉は鼻や足で獲物を小突きます。そばで見守る頻度や小突く確率も、弟妹の年齢とともに減少していました。

著者らは、3日間、生きたサソリを与えられた個体と、死んだサソリを与えられた個体、そして、ゆでたまごを与えられた個体の、サソリを扱う技術を調べました。4日目に、各個体に生きたサソリを与え、サソリを逃さないかどうかを調べます。結果は予想通り、ゆで卵、死んだサソリ、生きたサソリの順に、サソリを逃した回数は減少していました。このことは、餌としてサソリを扱う技術が向上したといえそうです。

ミーアキャットは「教える」ことができる
このことは、ミーアキャットが弟や妹の年齢を認識していること、そして、年齢に合わせて行動を調整していることを示唆しています(「教える」ことの定義1)。また、生きた獲物を与えることで、例えば見守っていないといけないといったようなコストも負っていることが考えられます(「教える」ことの定義2)。加えて、生きたサソリを与えることで、弟や妹の技術が向上しています(「教える」ことの定義3)。つまり、ミーアキャットの一連の行動は、「教える」ことの定義を満たしているといえるでしょう。つまり、どうやらミーアキャットは、弟や妹に、扱う獲物の難易度を徐々にあげてやることで、技術の習得を促しているいるようです。

さらに著者らは、ヒト以外の動物が「教えること」ができないとする主張は、事実というよりは、きちんとした証拠をそろえることの難しさから来ているのではないかと主張しています。実は他の動物でも「教える」ことが報告されています。その話はまたいずれ……。

(執筆者:tiancun)

※1 Thornton, A., & McAuliffe, K. (2006). Teaching in wild meerkats. Science, 313(5784), 227-229.

※2 Caro, T. M., & Hauser, M. D. (1992). Is there teaching in nonhuman animals?. The Quarterly Review of Biology, 67(2), 151-174.

※3 食事全体に占めるサソリの割合は5%弱のようです。


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