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オンライン診療とプライマリ・ケア|吉田 伸先生(飯塚病院 総合診療科)

電話・スマートフォン・PCなどのデバイスを活用し、遠隔で患者さんを診るオンライン診療。新型コロナウイルス感染症の流行とともに、オンライン診療はここ数年急速に普及しました。そして現在、第4の診療形態としての新たな可能性を秘めています。

今回は、日本プライマリ・ケア連合学会 ICT診療委員会委員長として、オンライン診療の発展に寄与されている飯塚病院 吉田先生の講義です。オンライン診療の現状と今後の展望について、さまざまな角度でお話してくださいました。

【講師】吉田 伸先生
飯塚/頴田病院 総合診療専門研修プログラム副責任者。頴田病院家庭医療外来センター長。2020年より日本プライマリ・ケア連合学会 ICT診療委員会委員長を務め、オンライン診療ガイドの編集や学会提言の策定等を行う。趣味はお祭りに参加すること。

歴史と共に振り返る、オンライン診療を取り巻く状況

オンライン診療は医療アクセスの改善を目的として、1997年に厚労省が見解を示したことがはじまりです。当時のオンライン診療の主な対象は、離島やへき地、障害などにより通院ができない方など限定的なものでした。そこから約20年後の2018年、オンライン診療の適切な実施に関する指針が厚労省より発出され、これが平時のオンライン診療における基礎となっています。

そしてオンライン診療の大きなターニングポイントとなったのが、新型コロナウイルス感染症です。2020年4月10日、オンライン診療における時限措置が発令され、新型コロナウイルス感染症の拡大に際して電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的な取り扱いが定められました。時限措置における診療では、初診の患者さんもビデオ通話あるいは電話での診療が可能となりました。また、オンライン診療ガイドの研修受講も必須ではなくなるなど、一定の緩和措置がなされました。一方、初診から麻薬・向精神薬を処方することの禁止、診療情報がない場合の処方は7日まで、薬物管理指導料の処方は不可といった制限も設けています。

なお、厚労省のオンライン診療に関するホームページでは、オンライン診療を適切に実施するための関係情報がまとめられているので、ご覧になってみて下さい。

そして同時期、オンライン診療の開発・普及を目的とした日本プライマリ・ケア連合学会 ICT診療委員会も新設されました。オンライン診療は、新型コロナウイルス感染症予防対策としての時限措置にとらわれがちですが、このICT診療委員会は「第4の診療形態」として広く認知・活用されていくことをスローガンに活動をしています。

日本プライマリ・ケア連合学会 ホームページでは、オンライン診療における患者さんへの適切なコミュニケーションの取り方や診断方法等をわかりやすい動画でご紹介しているので、ぜひご覧ください。

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新型コロナウイルスの流行とオンライン診療の実態

ここで新型コロナウイルス感染症の流行とともに、オンライン診療の実施状況を振り返ります。

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上記の図をみると、2020年度におけるオンライン診療の登録医療機関数はそれまで1%だったものが、新型コロナウイルス感染症流行と共に15%まで増えています。しかし、その後は横ばいにもなっているのもわかります。

右側は、初診からのオンライン診療報告数を示すグラフですが、実施した施設自体はなんと全体の1%以下。つまり、ほとんどの施設が再診からオンライン診療を実施していることになります。件数でいうと、1ヶ月で全国7,000件前後で、医療機関当たりでは月に10数件程度となります。週で計算すると1,2回程度しか実施していないことになります。

時限措置において、初診の患者さんもビデオ通話あるいは電話での診療が可能となったものの、実情ではほとんどの病院が初診からはオンライン診療の実施が出来ていないことがわかります。

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こうしたオンライン診療の実態を受けて、厚労省は初診電話・オンライン診療の注意喚起を発令しました。

【厚労省 初診電話・オンライン診療の注意喚起】
・「初診」の定義(新規症状・疾患+当該医療機関にはじめての受診)
・処方制限違反(睡眠薬、コデイン10%、8日以上処方)
・適応外処方(瘦身目的のGLP-1阻害薬)
・遠方からの診療(対面診療の案内が困難)

また厚労省のほかに、日本医学会連合からも重要な提言が出されているので、そちらもご紹介します。

【日本医学会連合 オンライン診療初診に関する提言】
・かかりつけの医師が、背景のわかっている患者に対して行う場合のみ、オンライン初診を行う
・オンライン初診が適さない状態(診療のために検査が必要、投薬以外の治療を開始すべき状態)
・専門外医師による初診は、緊急性と対面による情報量や対応の違いの観点からすべき

今回のオンライン診療のように新たな医療体制が生まれた際に重要なことは、出来ないこと(ネガティブリスト)を明らかにすることです。まずはやってはいけないことを明確にした上で、現場での創意工夫を元に、新たな問題が生じればまたネガティブリストに追加するなど、臨機応変に対応していくことが大切です。

なお、本講義が配信された2021年9月は、新型コロナウイルス感染症第5波が急激な拡大を遂げている真っ只中でした。そのため厚労省は新たに例外的な発令を出しました。その内容は、保健所が患者さんの対応を出来ない場合、現場の判断で陽性検査や必要に応じて治療を行っていいということ。また、新型コロナウイルス診察時のボーナスをオンライン診療時にも適用する等です。東京都医師会でも、オンライン診療における24時間見守り体制の導入をするなど、刻一刻と変わる状況に応じてそれぞれ柔軟な対応策を打ち出しています。

新型コロナウイルスにより時限措置が優勢を保つ現状において、オンライン診療の可能性は今後ますます広がりを見せていくでしょう。

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オンライン診療の今後の展望と課題

ここまでの流れを踏まえ、吉田先生からオンライン診療の今後の展望に関するお話がありました。

まず、オンライン診療そのものの開発をしていく必要性があるということ。診察技法はもちろん、コミュニケーションの仕方も工夫する必要があります。また、今まで医療にアクセス出来なかった方にどう診療を届けるかということや、スマホアプリと連動するなど様々な可能性が考えられます。

そして、オンライン診療はシステム登録や家族受診を通して、かかりつけ医機能の強化にもなります。そのためにも、デバイス開発やセキュリティ強化、データ収集、臨床研究等が必要となってくるでしょう。以下は、オンライン診療の適応対象における今後の展望です。

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<初診>
・診察によりオンライン完結か対面推奨か判断
・かぜ診療の訓練
<再診>
・慢性疾患の相談は時に自宅や職場から
・検査結果はオンラインで説明
<D to P With N or D>
・訪問看護師とかかりつけ医をつなぐ
・かかりつけ医と遠方の専門医をつなぐ

なお、従来の診療形態は主に外来診療、病棟診療、在宅医療ですが、オンライン診療が第4の診療形態として加わることが今後見込まれるでしょう。これら4つの診療形態のなかで、患者さんがより適切な治療を選択できるよう、それぞれの連携を強化する必要があります。

そして、多様な診療の場に対応できる医師集団の育成もまた大切です。医師目線でいうと、診療形態は大きく6つ(外来・救急・急性期病棟・亜急性期病棟・在宅・オンライン)に細分化されますが、それぞれの形態をきちんと学び、自分には何ができるのかを考察することが医師にとって重要です。

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日本のオンライン診療とプライマリ・ケアの発展

新型コロナウイルスの時限措置として初診にまで適応が広がったオンライン診療。今後はコロナに限らず、トリアージ、診察技法、対面診療との連携をより強化する必要があります。そして、プライマリ・ケアの発展を見据えるためにも、適切なデータ収集や研究実施、専門教育などの学術活動が必要でしょう。

なお、吉田先生の病院では、3つの診療形態(外来・病棟・在宅)をすでに確立している状態ですが、ここに第4の診療形態としてオンライン診療の積極的な導入をすすめ、先行事例を作ることを目標とされているそうです。また、今回日本プライマリ・ケア連合学会でのオンライン診療ガイド作成で感じたのは、オンラインのコミュニケーションは対面を凌駕する瞬間もあるということ。そのため、今後はオンラインと対面を上手く診療方法として組み合わせ、患者さんと医療をより適切に繋げられる未来を目指したいとのことでした。

【Antaa Channel】
本記事は、2021年9月15日にAntaa Channelで配信された動画「オンライン診療とプライマリ・ケア」をまとめたものです。Antaa Channelでは、現役医師が教える”明日から医療の現場に役立つ解説動画”を配信しており、22年4月時点で300本以上の動画を視聴することができます。 >>登録はこちら