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訪問診療って実際どうですか?現役訪問医が語り合ってみた。

司会「今回は在宅医療をされている先生方をお招きしました。在宅医療をおこなう医療機関には、在宅療養支援診療所(在支診)と在宅療養支援病院(在支病)があります。A先生とB先生は在支診に、C先生は在支病にお勤めです。在宅医療とキャリアプランについてお話しいただきます。自己紹介をお願いします。」

循環器科A「卒後21年目、サブスペは循環器です。」

消化器科B「私は卒後15年目です。消化器内科研修を修了後、総合診療科に転科しました。在宅診療クリニックに転職したばかりで、在宅歴はまだ1年経過していません。」

腎臓内科C「私は卒後15年目です。透析、療養、外来、訪問診療を担当しています。」

■きっかけは三者三様

司会「在宅をはじめたきっかけは何ですか?」
循環器科A「僕はカテーテル治療を専門にしていましたが、それを一生やるのは能力的に困難と考え、新しい分野である訪問診療をやろうと思いました。」

消化器科B「きっかけは引っ越しです。新しいことにチャレンジしてみたいと考えたこと、開業するなら漠然と在宅診療クリニックがいいなという気持ちがあり、在支診を選択しました。」

腎臓内科C「子供が生まれて医局人事から降りたことです。透析クリニック、健康診断、施設医、訪問診療クリニック等色々経験しました。在宅をやってみて自分に合っていたので今に至ります。」

■在宅の魅力は患者さんの人生に寄り添えること。基幹病院とは違った苦労も。

司会「在宅医療の魅力は何ですか。」

循環器科A「意外と在宅でできることが多くて感動しました。魅力はじっくり、家族と患者さんの思いや考えを聞きながら真剣に取り組めることですかね。」

消化器科B「自宅にいるためか、患者さんの表情、本音のだし具合が病院とは違う気がします。医師は『病気』にフォーカスしてしまいがちですが、病気はあくまで患者さんの人生や生活の一部だということを在宅では強く感じます。」

司会「苦労されていることはありますか。」

循環器科A「自分で必死に勉強しないと新たなことから置いていかれること、独りよがりになりすぎる可能性がある点です。」

消化器科B「すぐに検査できない、すぐにコンサルトできないなど、病院とは勝手が違います。病院以上に、患者さんの状態を先読みすることが求められると思います。」

司会「オンコールや宿直はありますか。」

循環器科A「当直は週一で、コールは1日一回あるかないかって感じです。出動は月に一回くらいですかね。院長が、色々工夫して仕組みを作ってあるなと感心しています。」

消化器科B「週に平日1日、月に1回土日で当番があります。平日のコールは少なめですが、土日は多いと1日10回以上来ますね。」

腎臓内科C「私のところは、宿直なし、オンコールなしで夜間対応は外部の先生に外注しています。それがポイントでこの職場に決めました。」

■病院勤務と訪問医、両方経験して視野は広がる。

司会「病院勤務時代にやっておいた方がよいことは何でしょうか。」

循環器科A「1人の患者さんについて熱心に勉強し、積み重ねていくことですね。手技をやりたいと思いすぎると、一つひとつを雑にみてしまいがちになるので患者さんへの話、家族への話も含めて丁寧におこなうことが重要です。」

消化器科B「専門領域を深く学ぶことも大切ですが、それ以外についても、好奇心をもって広く学ぶことが大切だと思います。」

司会「病院勤務時代から意識が変わったことはありますか?」

消化器科B「医師は医療においてチームの一員に過ぎないということも、意識するようになりました。謙虚な姿勢で、さまざまな職種の人と協力することが大切だと思います。」

循環器科A「それぞれの立場で、いろんな事情があることをより意識するようになりました。正論で押さえ込むような態度を取らないように気を付けています。」

腎臓内科C「昔は自宅で数日経過をみられた重症患者が救急搬送されてくると『どうしてここまで引っ張った……。』と思っていました。その背景には、多くの患者さんが在宅で治療したり、看取られたりしている現実があるのです。当時は思うことがありましたが、今は色々と理解できます。」

■出身科に関わらず、大切なのは学ぶ姿勢。

司会「在宅に向いている診療科は何だと思いますか。」

腎臓内科C「慢性疾患を見ていると強いと思います。」

消化器科B「皮膚科、整形の先生も、重宝されますね。ただ、何科の医師であっても必ず専門外を診ることになりますので、どれだけ学ぶ姿勢があるかが大切だと思います。」

腎臓内科C「極論ですが、自分のしたい医療を突き詰めるというより、社会に求められることに柔軟に応えられるタイプの方に向いています。」

司会「専門医取得の要否についてはいかがお考えですか。」

循環器科A「僕は循環器専門医、総合内科専門医、心臓リハビリ指導士、脈管学会専門医を取りました。リハビリと脈管は返納しました。今年は在宅の専門医に挑戦する予定です。」

腎臓内科C「就職活動には専門医が大いに役立ったと感じています。総合内科専門医、透析専門医、腎臓内科専門医を取得した後の方がエージェントさんの紹介してくれる案件はよかったです。」

消化器科B「内科認定医のみなので、専門医取得について偉そうなことは言えません。私も今年は在宅専門医に挑戦しようかと考えています。」

■勤務医であり続けるも良い、開業にチャレンジするも良い。訪問医のキャリアプラン。

司会「勤務医として在宅医療をされた後はどのようなキャリアプランをお考えでしょうか。」

消化器科B「私には明確なキャリアプランはありません。まだ在宅を始めたばかりなので、まずは在宅医療専門医を目標にしたいです。」

循環器科A「僕は在宅を始めた時は開業など考えていませんでしたが、だんだん考えるようになりましたね。」

腎臓内科C「私は今の働き方がとても働きやすいので、子供の手が離れるまではこのままの予定です。」

■在宅に興味があれば、活躍のチャンスは必ずある。

司会「最後に読者の方へメッセージをお願いします。」

循環器科A「 在宅はすごく面白い分野です。初心を忘れずにやっていきたいと思います」

腎臓内科C「女性医師のキャリアプランって難しいですよね。困ったら医局派遣から出て、病院と直接交渉してみるのも手です。 必ずしも自分の勉強してきた分野に固執しなくてもよいでしょう。一方で、若手時代の経験は何にも代えがたいです。色々な経験を積んで、『代替不可な人材』になっておくとピンチを乗り切れます。こどもが小さいうちは周りに迷惑をかけてしまうことも多いですが、自分の手札が活きる場所を見出すことで救われる患者さんは必ずいます。前向きに頑張りましょう。」

消化器科B「在宅診療では、色々なバックグラウンドを持つ医師、メディカルスタッフがみんなで協力しながら、患者さんのためにと日々知恵をしぼっています。何科出身の医師であっても活躍できる場は必ずありますので、一度見学やバイトで現場をのぞいてみてください。」

司会「ありがとうございました。」

執筆:玲奈