第5話 辿り着いたエルサルバドル-03

「ひゃぁ!びっくりした!!」エルサルバドルは新調したMOSCHINOのバスタオルで身体を隠し、慌てて跳び起きた。
「おお、すまん。驚かしてしもうたかの。」
「いいえ、私としたことが油断していたわ。」龍馬は悪びれる様子もなく冷蔵庫から水が入ったペットボトルを取り出すと、ボトルのままグビッと一気に飲み干した。
「で、どうだった?ジョイナスは。」エルサルバドルはバスタオルで身体を隠しながら器用に着替えを済ましていく。しかし身体がやたらと大きいため既成品の物では十分に隠れきれておらず、チラチラと肌が見え隠れしている。龍馬は気にも留めなかった。


「いやぁー、これで5人目やけんど、ついに手がかり手に入ったぜよ!」
その言葉にエルサルバドルは一瞬動きを止めたが、落ち着き払った顔で龍馬をみた。「へぇ、あらそう。」
「今日出会ったおなごが、タイムスリップの情報を持ってるらしいき。それを聞き出せば、帰れるかもしれんぜよ!」興奮気味に話す龍馬の言葉を聞いて、エルサルバドルは噴き出して笑った。
「バカじゃないの!騙されてるのよアンタ。」
「な、どういうことじゃ。」
「今日会ったのって、ただの若い女でしょ?」
「おお。そうじゃ。」
「そんな女がタイムスリップの方法なんて、知ってるわけないじゃない。
どうせ交換条件かなんかがあるでしょ。」
「さすがご名答じゃ。ある人を探してほしい、そう言われたわ。」
「ほーらご覧なさい。そんなことだと思った。」エルサルバドルはバスローブに身を包み、バスタオルを翻すように勢いよくラウンジチェアに掛けてみせた。
「あのね、この時代は殺伐としてんのよ。前にも言ったけど、志だのなんだのでなんでもホイホイ信じてたら、アンタ酷い目に合うわよ。」
「そりゃあ、ワシもわかっとる。疑いたい気持ちもあるぜよ。しっかし、信じてみんことには何も始まらんき!こうなりゃあ藁にも埃にも、すがる思いぜよ!」龍馬は笑顔でそう言い放つと、
「ほいじゃの」と軽い挨拶をしてリビングに置かれた自分用のエアーベッドに潜り込んだ。


「…さすがは、坂本龍馬さんね。ステキよ、とても。」
エルサルバドルはあえて反論しようとしなかった。龍馬の気持ちは理解できるし、龍馬の言う通り、今はどんな情報でも信じるしかない。
ましてや今回は金銭を要求されているわけでもないようだし、経過を見守ることにした。エルサルバドルが部屋の照明をスマートフォンで調光すると、明かりが消え微かに窓から漏れる街頭の明かりだけが部屋を照らした。

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