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“たまに涙を流しながら食べることもあるんですけど…でもそのお肉が美味しければ、「よかった」って思う自分もいるんです。ボロボロだった状態からそこまで健康に育てられたことと、その牛と一緒に過ごせたっていう事実でもあるから”

12.山地竜馬・加奈 / 牛飼い

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大分県の山奥にある広大な土地で、自然放牧によって牛を飼う宝牧舎。

この牧場で迎え入れられる牛たちは、子供を産めなくなったと判断され、「廃用母牛」という名で最低価格で取引される・あるいは「産業ゴミ」として「捨てられる」牛たちです。
牛舎を持たない宝牧舎では、誰も使わなくなり荒れ果てた「耕作放棄地」を、牛の力を使って牧場にしています。

人や経済の役に立つかではなく、牛の幸せについて考え、健康的に育て、そして最後は自分たちが大切に育てた牛の命をいただくこの宝牧舎を営む山地ご夫婦にお話を聞きました。

■山地竜馬(ヤマチ タツマ)
宝牧舎株式会社社長。27歳の時にサラリーマンを辞め、鹿児島の小離島・口永良部島への移住をきっかけに牛飼いとなる。牛たちの体調管理や牧場の整備、経営に関わる全てを統括する。

■山地加奈(ヤマチ カナ)
タツさんとの結婚を機に看護師を辞め、牛飼いとなる。妊娠中の母牛や子牛の体調管理、雌牛の発情期を見極めるなど、牛たちの徹底した健康管理を行う。

●宝牧舎株式会社(ホウボクシャ)
大分県の別府と久住の山奥で、手放された「廃用母牛」を「自然放牧」で飼う。牛舎を持たない宝牧舎が牛を放牧する土地は、「耕作放棄地」と呼ばれる荒れたところで、そこを牛たちが歩き、糞尿することによって土が耕され、やがてまた牛たちが食べられる牧草が生えてくる自然の循環も生み出している。

Website: https://houbokusha.jp/concept

Instagram: @houbokusha

▶︎ 山地ご夫婦へのインタビュー後に書いた私の編集後記です。お肉の工場型生産の動画を観てから「動物性はもう食べない!」と思っていたのですが、一面だけで決めないで、多角から捉えようと思い、お2人にお話を聞かせていただきました。


_今の仕事を始めたきっかけは?
竜馬さん(以下、T): 27歳の時に、屋久島の隣にある島に移住をして、そこで出会ったのが牛の自然放牧だったんです。それで牛飼いになったんだけど、どうしてもこの黒毛和牛の世界の中で、ただの個人が家畜福祉に取り組むには限界がありました。

だったら、「いいね」「これってみんなで考えなきゃいけないことだよね」って他の人がサポートしてくれる形で仕事にしようと思ったんです。それが宝牧舎を立ち上げたきっかけです。

加奈さん(以下、K): 私は結婚したことがきっかけですね。
それまでは看護師をしていて、仕事とプライベートをはっきり分けた生活してたんです。
でも結婚してからは家に帰っても夫と仕事の話をするようになって、頭の中が24時間仕事っていうのに慣れるまで大変でした(笑)


_ 働く中で、あるいは生きてる中で大切にしているキーワードを教えてください
T: 離島ですね。島での暮らしが今の僕を作ってる。たぶん、普通の人からしたら、いろんなことが不便なんですよ。
雨が降ったら働けない、台風が来たら船が来ないから食べるものがない、火事になったら自分達で火を消そう、みたいな生活。
でもそれが自然なことだと、自分の中に根付いてます。

K: 私も自然がキーワードかもしれないです。
動物を相手にするのは、自然を相手にすることだから、天気ってすごい大事なんですよ。

今日が晴れなのか雨なのか、風は強いのか、前まで気にすることはほとんどなかったんですけど、この仕事を始めてからは空を眺めるようになったかな。
それが「仕事は仕事、生活は生活」っていう境目をなくしていった気がします。


_今の仕事を始めるのに不安はありましたか?また、それはいつ乗り越えましたか?
T: 僕はなかったです。一緒について来てくれる人の方が不安だと思います。

K: (笑) 結婚して、1年くらいは牛の世界のことが全く分からなかったので、夫がやってる自然放牧が普通のことだと思っていたんです。
だから、他の農家さんに「そのやり方は違うよ」って言われた時は焦りましたよね(笑)

放牧をすると、牛は引き締まった筋肉質の身体になるから、お肉にするっていう観点でいくと、牛舎に入れて太らせた方が、高く売れるんです。
私たちも、育てた牛を最後はお肉にして売っているから、他の人と同じやり方を何で夫はしないのか、それが分からない時は不安だらけでした。

でも、どういう時に牛がはしゃいでいるのかとか、牛の感情を自分の目で見られるようになったときに、大多数の人たちのやり方よりも、夫がこだわっている放牧で育てた方が、牛たちが嬉しそうにしていることが分かってきて…そこから不安はなくなっていきました。


_仕事をやり続ける原動力は?
T: 牛を死なせないことです。
僕たちは最終的に牛を屠畜することで収入を得ているんです。でも彼らが生きている間はどうやったら幸せに、健康的に生きられるかだけを考えて、環境を整え続けています。

やっぱり生き物なので死ぬわけですよね、いずれは。
でも僕らが屠畜場(牛をお肉にするところ)に連れて行く以外で、牛が死ぬっていうのは、自分達が育てる中でもっと出来ることがあったんじゃないのかと思います。
だから牛を死なせない。ただそれだけなんです。

K: 夫が言ったように、私たちが買い取る牛たちは、自分たちが面倒を見なかったら、確実に死んでしまうんです。他に誰も見てくれる人がいないっていう状況があるので、絶対に自分たちが見ないといけないという想いはモチベーションとしてありますね。


_育てた牛の命をいただくことに葛藤ってありますか
T:今はないですね。最初はもちろんありましたけど…

コユキという牛がいたんです。子供を産めなくなったお母さん牛。普通の市場だと、そういった牛は経済効果がないから安いお肉にされたり、廃用として処分される。
そのコユキを買い取ってずっと飼ってたんですけど、足が悪くなって、なかなか牧場を歩くのも大変になってきた時に、僕らが彼女をどうするかという選択肢が3つ出てきて。

1つはそのままの寿命で死なせる。
2つめは市場に連れていって、別の人に買い取ってもらう。
そして3つめは自分たちがお肉にして食べる、売るという選択。

初めは自然の中で息が止まるのを見届けたいと思ってたんです。だけど、本当にそれでいいのかなって。変な言い方になるけど、コユキにとってそれが幸せのかなって考えたんです。

というのも、自然に死んだり、誰かに引き取られて知らないところでお金になるよりも、僕らが僕らの手でお肉にして、販売して、人に美味しく食べてもらって、そのお金でまた廃用母牛を買い取ったり、彼らが幸せに生きられる環境を整え続ける資金にする。その循環の一部になるほうがコユキにとって幸せなんじゃないかという仮説を立てたんです。

もちろんこれは僕ら人間の主観でしかないけれど…尊い命として接してお肉にする、美味しく食べてもらう。それが自分の仕事だから、今は葛藤を抱えることはないですね。

K: 私は葛藤だらけですよ(笑)
やっぱり大切に育てた牛を屠畜場に連れて行って、お肉にする瞬間は本当に悲しいし、たまに涙を流しながら食べることもあるんですけど…でもそのお肉が美味しければ、「よかった」って思う自分もいるんです。
ボロボロだった状態からそこまで健康に育てられたことと、その牛と一緒に過ごせたという事実でもあるから。

だけど、病気で牛が死んでしまったときはもう葛藤だらけです。もっと自分達に出来ることがあったんじゃないかと思ってしまいます。
だからきちっと美味しいお肉にできるというのは、自分達が「この命としっかり向き合った」ことでもあるから、安堵の気持ちもあるんです。


_これからの日本や世界に必要だと思うことは?逆に不要だと思うことは?
T: 僕はやっぱり自然抜きの人間っていうのはないと思っているので、自然との付き合い方について考える必要があるんじゃないかなと思います。

不要なものは、やっぱり大量生産、大量消費、無駄遣い。何が無駄なのかは、人によって違うけど、「捨てる」ことが起こるならそれは無駄に分類されると思うし、それぞれが「無駄」なことをそもそも排除していけば環境は良くなると思います。

K: 私は便利すぎることがいらないなって思います。
これは10年以上前にオーストラリアでホームステイをしてから思うようになったことですが、そこでは18時になるとお店が閉まってしまうし、飲食店が開いてるのは週末だけだったんです。その生活がすごい新鮮で、最初は不便だなと思っていたんだけど、意外と困らないことにも気づいたんです。

日本に帰ってきてから思ったことは「なんでみんな夜寝る時間に動いてるんだろう」ということで…。コンビニとか24時間営業のレストランは便利なんだけど、必ずしも必要ではないんだなともう少し気づけてもいい気がします。

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_あなたにとって仕事とは?
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