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報告(脳腫瘍 23)

 3月29日(火)、九段坂病院受診。
 退院したらすぐさま花粉症の症状が出たので、マスクをして出掛けた。
 虎の門病院で分けてもらったマスクは顔に密着して具合が良かったが、薬局で買った立体マスクは脇がスカスカで役に立たないので、セロテープで補修して使った。

 だいぶ暖かくなっていたが、桜には少し早かった。お堀端の桜並木は翌週が見頃だろう。
 九段坂病院を訪れる日は、いつも朝からなんとなく浮き浮きしている。中井先生に会えるのが嬉しい。

 九段坂病院で同室だったSさん(退院後もしばらく連絡を取り合っていた)にそう言ったら、彼女も同じように感じると言っていた。
 みんな中井先生のオーラに引きつけられるのかもしれない。

 相変わらず整形外来は混んでいた。
 手術の成功と空洞が消えたことを報告するのに、中井先生にはもちろんだが、N先生にも会えたらいいなと思っていた。
 が、N先生の外来は中井先生とは曜日が違うし、どこで勤務しているのかわからないから、会えるとは思わなかった。

 ところが、呼ばれて中の待ち合い室に入っていくと、中井先生の隣の診察室にN先生の名札が掛かっていた。
 なんたる偶然!
 いつもは別の先生なのに、臨時で代診しているのだろうか。
 椅子に座って待っていると、患者に話しているN先生の声が聞こえてきた。懐かしい。

 中井先生に呼ばれて診察室の中に入ると、先生は開口一番、
「運の強い人だねぇ」
 と、感に耐えないようにおっしゃった。
 虎の門病院から報告が届いていたようで、脊髄の空洞が消えたことをご存じだった。
 持っていったMRIで硬膜の水漏れをチェックすると、これももう大丈夫とのこと。

 私が開頭手術のときのエピソードを話し、中井先生は命の恩人だとお礼を言うと、先生はうんうんとうなずいて満更でもない様子。

 もしかしたら中井先生も、脳腫瘍の手術で何かしら後遺症が出るかもと思っていたかもしれない。
 だれもが、多かれ少なかれ手術の後遺症を心配したのではないだろうか。ただ1人、本人の私を除いては……。
 私自身は臼井先生のお話があった直後に一時落ち込んだだけで、その前も後も完全に手術の成功を信じていた。

「これでもう何もなくなったんだから、新しい人生を歩いていってください」
 中井先生に祝福されて、その通りだったら嬉しいのだが、実はまだ終わりではないので複雑な気分になる。
「それが、まだあるんですよ」
 右目の奥にも腫瘍が見つかったことを話すと、
「そういう体質なんだろう。そんなの放っておけばいいよ」
 と、軽く言われてしまった。
 いや~、今のところは放っておきますけどね……。

 それから腕の腫瘍が一段と大きくなって痛いことを話すと、だれかうまい人に取ってもらおうと言われた。
 九段坂病院の整形外科は脊椎専門なので、後日、専門医がいる別の病院に紹介されることになるのだが、それはまたいつか機会があったら書くことにする。

 ところで、N先生だが、私が中井先生の診察を受けているとき、診察室と診察室の境のパーテーションが途切れたところに立ってこっちを見た。
 N先生も私の声を聞きつけて、わざわざこちらを覗いてくれたのだと思う。
 手を振ったら振り返してくれた。

 直接話したかったが、私が診察を終わったときにもまだ診察中だったので、会わずに帰った。
 話はできなかったが、元気な姿を見せることができて良かった。N先生にもずいぶん心配してもらったから。


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