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「Watashiは変われましたか」第6話

たくさんの画面がある中で、私は見覚えのないシーンに気づいた。それは沙羅が泣いているシーンだった。年齢が多岐にわたっていくつも映し出され、映像は止まっている。彼女が泣いている場所には見覚えがあったが、それが私の知っている家や公園とは違って見えた。違和感があり、沙羅の涙は絶え間なく流れ、その姿を見ると胸が締め付けられるような思いがした。

画面には、各シーンに対応するアイコンが表示されていた。それぞれのアイコンは、シーンの内容を象徴するもので、視覚的にシーンの特徴を捉えていた。アイコンは鮮やかな色で彩られており、すぐに目を引くようになっていた。

例えば、電話の通訳をしている幼い沙羅のシーンには、ダイヤル式の黒電話のアイコンが描かれていた。黒電話は微かに輝き、受話器が外れているようなデザインで、彼女が一生懸命通訳をしている様子を象徴していた。

次に、私が手作りした人形を抱きしめて泣いている小学生の沙羅のシーンには、可愛らしい人形のアイコンがあった。人形は赤いリボンをつけた小さな女の子の形をしており、沙羅がどれだけその人形を大切にしていたかを思い起こさせた。

家のトイレにこもって泣いている沙羅のシーンには、ドアのアイコンが表示されていた。ドアは半開きで、中から薄暗い光が漏れ出ているように描かれ、彼女の孤独と閉じこもった心情を示していた。

中学校の制服を着て泣いている沙羅のシーンには、当時よく使っていたCDラジカセのアイコンが表示されていた。ラジカセの蓋が開けられカセットテープからテープが緩んでいて、彼女の不安や悩みが表現されていた。

高校の制服で泣いている沙羅のシーンには、ブランコのアイコンが描かれていた。月と一緒にブランコが一つ描かれ、彼女が学校でのストレスやプレッシャーに押しつぶされそうになっていたことを示していた。

化粧をした社会人の姿で泣いている沙羅のシーンには、リップスティックのアイコンがあった。リップスティックは蓋が外れており、彼女の外見に気を使いながらも内面の葛藤を表現していた。

黒電話のアイコン以外には鍵マークがついており、このシーンをクリアしないと次に進めないことを示していた。

黒電話のアイコンが唯一、鍵がかかっていない。「ここから見るということなの」


画面には文字と光が現れ、「この画面からスタートしますか?」と表示されていた。さらに、画面の隅には「ヒント」と書かれたボタンが優しく光っていた。興味を引かれ、私はそのボタンをタップした。すると、文字が浮かび上がった。

「泣いているシーンを選択して、沙羅の心の中に入ってください。各シーンには彼女の悩みや悲しみを解決するためのアイテムが隠されています。アイテムを見つけて、彼女の心を癒しましょう。」

胸が締め付けられる思いで、画面を見つめた。いつからだろう、沙羅が泣いたところを見たことがなくなったのは。思い出そうとしても、沙羅が泣いているところを思い出せない。画面の数々を見ていると、なぜ彼女が泣いているのか思い当たる節がない。

「沙羅、どうしてこんなに泣いていたの?」と心の中で問いかける。私が見落としてきた彼女の悲しみや孤独が、ここに映し出されているのだろうか。彼女が涙を見せなかったのは、私に心配をかけまいとする優しさだったのかもしれない。その思いに胸が締め付けられるような気持ちになった。

画面の文字が輝き、「スタートしますか?」と再度表示された。私は息を飲みながら、その問いかけに対する答えを考えた。胸の奥で激しく鼓動が鳴り響き、心の中で葛藤が渦巻いていた。

「本当にこれを始めるべきなのだろうか?」という不安が頭をよぎる。沙羅の涙を見つめるたびに、私の心は締め付けられるような痛みを感じた。彼女がこれまでどれだけの悲しみを抱えてきたのか、私は全てを知っているわけではなかった。その事実が、私の心に重くのしかかっていた。

「もし、このゲームを始めたら、彼女の痛みや悲しみを再び掘り起こすことになるのではないか」とも思った。しかし、同時に「沙羅の心の中に隠された真実を知ることができれば、彼女をもっと理解し、支えることができるのではないか」という希望も抱いていた。

これまで沙羅の涙を見ることが少なかった私は、彼女の強さに甘えていたのかもしれない。彼女が自分の痛みを隠して私に心配をかけまいとしていたことに気づくと、胸が痛む思いがした。その優しさに報いるためにも、彼女の心の奥底に潜む悲しみを知りたいという強い意志が芽生えた。

「でも、本当に私は彼女の痛みに立ち向かえるだろうか?」という疑念も浮かんだ。沙羅の心の中に踏み込むことが、私にとっても大きな挑戦であり、恐怖でもあった。彼女の涙の理由を知ることが、私自身の過去の過ちや見落としてきたことを直視することになるかもしれない。

その葛藤の中で、私は深く息を吸い込んだ。心の中で何度も問いかけ、自分の気持ちを整理しようとした。「沙羅のために、私はこれをやらなければならない」と、最終的に自分に言い聞かせた。彼女の痛みを理解し、支えるために、この物語を進める決意を固めた。

指をタップに伸ばす瞬間、手が震えるのを感じた。心の中で「大丈夫、私は沙羅のためにこれをやる」と何度も自分に言い聞かせた。画面をタップすることで、私は彼女の心の中に踏み込む勇気を奮い立たせた。その決意が固まった瞬間、画面が再び光に包まれ、扉が開かれた。

画面が明るくなり、私の目の前に新たな選択肢が現れた。黒電話以外のアイコンにはロックがかかっていた。黒電話のアイコンが大きくなり「このシーンから始めます」というメッセージが浮かび上がった。私は迷いながらも、一番初めのシーンをタップした。幼い沙羅が泣いているシーンが再生され、私はその場面に入っていった。

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


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