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「Watashiは変われましたか」第10話

中学校の制服を着て泣いている沙羅のシーンを選択した。彼女は学校で何か嫌なことがあったのだろう、制服を着たまま机に突っ伏して泣いていた。彼女の涙は純粋な悲しみや絶望を物語っていた。学校へ行くのを嫌がった時、私はただの反抗期かと思い込んでいた。

アプリを通してこのシーンに入り込むと、沙羅の悲しみが目の前に広がった。彼女は口を強く噛み締めて涙を流していた。泣き声は聞こえないが、その姿から彼女の深い苦しみが伝わってきた。沙羅が机に突っ伏して泣いている姿を見ると、私の胸は締め付けられるような痛みでいっぱいになった。

「沙羅、どうしてこんなに辛い思いをしているの?」と心の中で問いかけるが、彼女の涙の理由がわからないまま、ただその光景を見つめることしかできなかった。

彼女が学校で何を経験していたのか、私は全く気づいていなかった。彼女が制服を着たまま泣いている姿を見て、胸が痛む思いがした。沙羅は学校でいじめにあっていたのだ。そのいじめは小学校の時に経験したものとは比べものにならない壮絶なものだった。その事実を知ると、私の心に強い後悔と悲しみが込み上げてきた。

学校では、沙羅は同級生からの冷たい言葉や行動に耐えていた。彼女がどれほどの重荷を背負っていたのか、想像するだけで胸が締め付けられる思いがした。沙羅が学校へ行くのを嫌がる度に、私は「頑張れるでしょう」と言い続けた。それが彼女にとってどれほどの重圧だったのか、今になって気づく。

沙羅の口を強く噛み締める姿が目に焼き付く。泣き声は聞こえないが、その沈黙が余計に彼女の深い苦しみを物語っていた。沙羅が学校へ行きたくない理由を語らず、ただ「行きたくないんだ」と強く訴えていたことを思い出すと、私の心は痛む思いでいっぱいになった。

「あなたがこんなに辛い思いをしているのに、私は何も気づかなかった」と心の中でつぶやいた。沙羅の苦しみを見て、私は後悔と自己嫌悪に苛まれた。私の無関心と無理解が、彼女の心にどれほどの重荷を与えたのかを痛感した。

彼女が学校で受けた具体的ないじめの数々が浮かぶ。

上履きがなくなることが頻繁にあり、時には上履きの中に画鋲が入っていることもあった。沙羅はそれに慣れてしまい、上履きを履く前に中を確認して画鋲を落とすようになったが、そのうち上履きの底にいくつも画鋲が刺されるようになった。ある日、彼女はそれに気づかずに履いてしまい、白い靴下に血が滲み出る様子が目に浮かんだ。

教科書が破かれたり、落書きされたりして、彼女はそれを必死に隠そうとしていた。涙一つ見せないその強さが、逆にいじめをヒートアップさせてしまったのだ。

その瞬間、目の前に沙羅が階段から突き落とされるシーンが現れた。私は助けようと手を伸ばすが、私の手はすり抜けてしまう。沙羅は痛いはずなのに痛がる様子もなく、足を捻って肩を打ったようだった。それでも何もなかったかのように起き上がり、歩き出してカバンを拾い、下駄箱に向かう姿が見えた。彼女の強がりと孤独が痛々しく映った。

学校から帰ってきた沙羅が怪我をしていることがあった。初めは心配して病院に連れて行ったが、何度も同じように怪我をするうちに、私は「また怪我したの?」とめんどくさそうに言うようになってしまった。彼女がどうして怪我をしたのか、理由を尋ねることすらしなかった。

またも、私は一方的に自分の意見を言うだけで、沙羅の話や気持ちを聞こうとはしていなかった。彼女の気持ちを聞かずに、ただ自分の考えだけを押し付けてしまったことを後悔している。沙羅は悪くないのに、我慢に我慢を重ねていることに、私はまた気づけなかった。

画面には「CDラジカセ」の表示が現れた。アイコンが輝き、私はそのアイコンに指を伸ばし、画面をタップした。

沙羅は家に帰るといつもCDプレイヤーを動かしていた。音楽を聴いていた。その時の私には聴こえないが音楽が彼女の心を癒してくれていた。音楽を聴きながら静かに涙を流していたのだ。

「また私は沙羅の声に耳を傾けられなかったね」と心の中でつぶやいた。彼女が伝えたかった心の内に寄り添うことができたなら、こんなに泣かせることはなかっただろう。彼女の我慢強さを見て、私は再び後悔と自己嫌悪に苛まれた。「繰り返してしまうのか」変えられない現実を目の当たりにしている。

その後、夕陽がさすベランダにもたれかかりながら音楽を聴いて涙する沙羅の横に座った。心のうちを聞こうとしなかったことを詫びた。沙羅の涙が止まるまでそっと座っていた。

「ごめんね」と謝ることしか言葉が出てこない。

何か言おうと思っても言葉が出てこない。沙羅が歌い始めた。きっと自分へのエールのような気がした。今なら、彼女が何を思って歌っていたのか聞いて知ることができたのに。

その瞬間、CDラジカセが柔らかく光り始めた。優しく光を放ち、CDラジカセが浮かび沙羅の歌と共に夕焼けの空に消えていくのが見えた。私はその光を見つめながら、彼女の心の中にいつまでも幸せな時間が続くことを願った。

一瞬、沙羅がはにかんだ笑顔を見せた。同時に夕焼け空の輝きが増し、画面には再び「このシーンをクリアしました。ロックが解除されました。次のシーンに進みますか?」というメッセージが表示された。

私は迷った。次のシーンに進むことが怖かった。これ以上、沙羅の痛みや悲しみを知ることに耐えられるのか、不安が胸をよぎった。沙羅の心の奥深くに踏み込むことで、彼女の過去の辛さを掘り起こすことになるのではないか。

「でも、沙羅の心の中に隠された真実を知ることができれば、彼女をもっと理解し、支えることができるはず」と、私は自分に言い聞かせた。彼女の痛みに寄り添うためには、この先へ進むしかないと決めた。

心の中で沙羅の心に寄り添う決意を新たにし、次のシーンに進むことにした。

#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門



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