トンビの思い出。

わたしはトンビが大好きだ。

大きな翼で悠々と空を旋回する姿。

止まっている姿もかっこいい。すっと背筋を伸ばしているような、余裕のあるような、なんとも貫禄のある佇まい。

いつまでも飽きずに見ることができる。

こんなにもトンビが好きなのは、子どもの頃の『ある出会い』からかも知れない。

車で15分程の距離ということと、両親とも(父は別の仕事の合間にだったが。)祖父母の農作業を手伝っていたという事もあり、幼少期は祖父母の家で多くの時間を過ごしていた。

当時の自分の年齢は忘れたが、ちょうどお昼時、(祖父母の)家の前で横たわる大きな鳥を見つけた。すぐに父を呼び、これはなんていう鳥で、どうしたんだろう?とわたし。

トンビが怪我をして飛べなくなっているんだろう。と父。

触っても良いか聞いたが、クチバシが鋭くて危ないからと止められた。ご飯をあげてもいいか聞いてみると、食べるかわかんないけどな、と言いながら生の魚を出してきてくれたのであげてみた。

食べた。

嬉しくなってたくさんあげたらトンビももりもり食べた。言いつけを破ってトンビに手を伸ばすわたし。(あっ!)と小声で驚く父、きっと止めようとしたんだろうが、時すでに遅し。

わたしの手はトンビの体の上。

茶色くて大きい、温かい体。呼吸で体が細かく上下運動している。

太陽真っ盛りのその時間、暑くないのかなぁというわたしの問いに父は少し考えこむような顔をしてからゆっくりトンビの体に両手を差し込む。

父の両手に静かに抱かれるトンビ。

それを見て静かに興奮するわたし。

一応、抱かせてとお願いをしてみるも、怪我をした大きな鳥をお前の小さな体じゃ支えられないと止められた。悲しくて悔しいが案の定な気持ちもあり、見守り隊に徹することとする。

日陰に新聞紙を敷き、トンビをそっと降ろして父は家の中へ入ってしまった。

あまりベタベタ触るなよと注意を受けたので、隣に座ってトンビを見つめる。

トンビもわたしを見つめていたが、しばらくして眠たくなったのか目をつむってしまった。

しばらくして戻ってきた父が言う。

「病院に連れて行くぞ。」

車で1時間ほどの動物病院に連れて行くためにテキパキと車内を整え、

新聞紙を敷いた後部座席にトンビとわたしを乗せる。念のためにとわたしの膝の上にも新聞紙を掛けられた。

この子大丈夫かなぁと心配するわたしに「あれだけの食欲があれば大丈夫だと思うけど、無理でもそれは仕方がない。」と素っ気ない事を言う父の運転は、トンビを気遣う優しい運転だったのを覚えている。

トンビも黙って座っている。

怪我をしているのに堂々としている。

とてもかっこ良い。

鳥の王様かも知れないと、その威厳に満ちた横顔にすっかり見惚れてしまった。

とある急カーブ、新聞紙の上で滑ってしまった彼(彼女?)はなんと、体勢を立て直しつつ、わたしの膝の上に乗ってきた。

ほわわわわ〜!!

その時の気持ちは一生忘れない。

彼(彼女?)が滑り落ちないように、ベタベタ触るなという父の忠告を守ろうと最小限の接触で支えつつ病院まで数十分。

その間、トンビは静かにわたしの膝に収まって目を閉じていた。あくまでも堂々と、威厳を保ちつつ。


無事に病院に引き取られ、その後どうなったかは父も知らないと言うが、きっと元気に自分の住む山へ帰ったんだろうと思う。あんなにもりもりと魚を食べていたんだから。


あの日の出会いから相当な時間が経ち、彼(彼女?)はもうすでにこの世にはいないだろうけれど、

上空を悠々と飛ぶトンビの姿を見る度に

うっとりしつつ、

元気かなぁ?と思ってしまう。

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