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時代の変化と日本国憲法への高市早苗の想い

今日は憲法の話をしようと思います。

憲法というのは国会から発議するものですので、「憲法第何条をこのように直すべきだ」ということは現職閣僚は言ってはいけないルールになっています。
時々予算委員会で岸田総理が憲法について問われて「自民党総裁として申し上げる」と仰っているのは、総理は自民党の総裁でもあるので、自民党の立場を時々お答えになることはございますが、私たちはそのようなわけにはいかない、というルールになっています。

その上で「どの条文をどう変えてほしい」という話は申し上げませんけれども、現行憲法の書きぶりの中で行政の現場で困ったと思うようなこと、役所の方でも判断に困って内閣法制局と色々相談するようなこともございますので、そういった話を今日はしてみたいなと思います。

まず、2024年6月4日に閣議決定しました統合イノベーション戦略、これは私が取りまとめをする任務になっておりましたけれども、最初に各役所からイノベーションですから、いろんなアイディア「こういうものを入れて欲しい・こういうものを入れて欲しい」というのが集まってくるわけです。
それを内閣府の職員がずっと整理しながらまとめていってくれるんですが、最初に私の手元に届いた原文が手元にございます。

AIの安全・安心の確保という下りです。
偽・誤情報への対策のところなんですが、生成AIを利用したものを含めネット上に流通拡散する偽・誤情報やSNS上の成りすまし型偽広告への対応等について、国際的な動向を踏まえつつ表現の自由をはじめとする様々な権利や利益に配慮しながら、技術・研究開発の推進、ファクトチェック推進、国際的な連携強化など制度面も含む総合的な対策を推進する旨が書かれています。
ここにある表現の自由というのは憲法第21条に規定をされています。
しかし私はここは変だろうと。
どう考えても成りすまし型偽広告は犯罪じゃないですか。
だからこれの対策を書くにあたって、表現の自由をはじめとする様々な権利・利益に配慮していたら何の手も打たれないだろうと思いまして、このくだりを消してくれないと私は了解しないと言いましたところ、このくだりは消えました。
ということでこれが1点。
つまり表現の自由をはじめとする様々な権利・利益に配慮しながらというところは消去した上で、6月4日に閣議決定をされました。

そして2024年6月19日、官房長官の記者会見がありました。
この日は参議院で本会議が開かれて「こども性暴力防止法案」が可決をし成立した日です。
その時に記者さんからの質問の中に「職業の選択の自由とのバランスを問う声もありますか」というお話がありました。
職業の選択の自由、これも憲法で保障されています。
この「こども性暴力防止法案」というのはどういうものかというと、学校や児童福祉施設などの学校設置者ですとか、学習塾などの民間の教育・保育等の事業者に児童に対する性暴力を防止する責務があるということを明確化した上で、性犯罪歴の確認の仕組みを創設するものです。
つまり過去に性犯罪歴がある方については、その教育などに携わらせないという形のものになるんです。
ここでも職業選択の自由、憲法との関係はどうなんだというご質問が記者さんからあったわけです。

官房長官は憲法上の職業の選択の自由との整理等も踏まえつつ、子どもを性暴力から守り安全を確保するために許容されるものとして検討してきた。
おそらく内閣法制局と相当進めながら、子どもを性暴力から守るためであれば性犯罪歴のある方を、例えば学校の教育現場のお仕事につけないということは憲法上許容されるだろう、こういう判断があったわけです。
行政の現場でもさまざまこのように現行憲法をどのように解釈するのか。
憲法というのは憲法の中にも書かれていますが、国の最高法規です。
悔しいけど憲法より上にあるのが国際条約・国際法になるんですが、日本の国内法をどんな法律を作るにしてもこの憲法に沿って作らなきゃいけない。
つまり苦労して法律を作っても、それが裁判所などで違憲・憲法違反だという判決が最高裁で出てしまったらその法律は無効になってしまう・使えないということになりますので、政府から法律案を出す場合、また議員立法を出す場合、例えば衆議院から議員立法を私が書いて出す場合も衆議院の法制局と十分に議論をします。
内閣から閣法・内閣提出法案を出す場合は内閣法制局と十分に検討をします。
一番大事なのが憲法との整合性が取れているかどうかということです。

私はこれまでずいぶん沢山の議員立法を書いてきました。
どうしてもできなかったこと、憲法の壁でできなかったことをいくつか紹介します。
これは平成18年に起草・私が書いた法律案なんですけれども、紛争当時国とかテロが多発している国とか、非常に命をすぐ失ってしまうような感染症が蔓延している国に渡航することを禁止するとか、そこから退避する命令が出せないかと考えまして、これはやるべきだと思って法律案を書きました。
ご承知の通り、現在は例えば「渡航を延期してください」という勧告はできるんです。
外務省の方から勧告を出したり、そこにいらっしゃる日本人の方々は「退避してくれたら嬉しい」という勧告はできるんですが、政府が命令をするというのはできない。
当時は例えば豚インフルエンザの水際措置として、政府が法人が発生国に渡航することを禁止すべきじゃないかというご意見もありました。
エボラ出血熱、これもこれといった治療法がないものですから、こういう場合にもそういう病気が蔓延している国に行くっていうのはやめてほしいと。
だけど勧告しかできないのでこれはなかなか難しい。
ただ私が平成18年にこの法律案を書こうと思ったきっかけは、2005年にイラクで法人人質事件が起きて、本当に気の毒なことでしたが殺害をされてしまった日本の若者がいるということがきっかけでした。
これを法律案に書いて何とか審査に持ち込みたいなと思ったんですが、憲法第22条、何人も外国に移住し、または国籍を離脱する自由を侵されない、憲法第22条第一項の方は、何人も公共の福祉に反しない限り、居住・移転及び職業選択の自由を有するとなっています。
ここに公共の福祉に反しない限りという一言があるので、そういった危険な国に行くことについて、居住移転ということについて思い留まっていただける法律案を書いてみたのですが、やはりこれは移転になる。
要は移動は自由だし国外に行くのも自由だし、これが日本の憲法なので、違憲立法になる可能性があるというご指摘をいただきました。

それから何か紛争が起きた時に、例えばマスコミの方だったり、それから日本人が人質になったという時には解放するために交渉に行く外交官などは渡航されることになります。
マスコミの方は現実を報道するため、そして国民の知る権利を守るためにやはり渡航されます。
それから外交官の方も渡航しなきゃいけないというようなことがあった時に、今度は憲法第14条に引っかかります。
全て国民は法の下に平等であるということです。
社会的身分によって差別されないと書いてますので、こういう職業の人は渡航してもいい、それ以外の職業の人は渡航しちゃいけないというのはなかなかできないということでした。
これはもう残念ながら違憲立法になるということで私が断念したものです。

それから平成23年にこれは成立をしたのですが、私が書いた森林法改正案というものがあります。
これは当時、外国資本が水源林を買収しているとか、それから山を買って思いっきり木を切っちゃって濫伐して、その後に植林もしない・植樹をしないでいなくなってしまう、こういったことが起こると土砂災害などの可能性も出てきますので、そういう意味で何とか水源林を守りたい、それから森林の伐採の後にはちゃんと植樹をしていただく。
それから、そこがものすごく日本人にとって大切な水源林である場合には、地方公共団体が判断したら、地方公共団体がその森林を買える、地方公共団体のものにする。
その場合にお金が必要ですから国がこれを支援する、という形の法律案を書きました。
これは何とか国会で通していただきましたが、当時民主党政権でもあり政府との協議の中でかなり改正をされ、相当骨抜きの状況になったまま今も改正森林法は生き続けています。
ただ議論した時に大変難しかったのは、憲法29条財産権はこれを侵してはならないというものでした。
やはり森林を持っていらっしゃる方の財産権というものは保障されなきゃいけない。
そうするといくら外国資本であっても「高いお金で買います」ということになると、これに対して国が「待った・ストップ」をかけるということは難しいだろうということで相当慎重な書きぶりの法律になっています。

2011年、つまり平成23年に私が起草をした法律案で、結論としては平成24年に衆議院に提出をすることができた法律案なんですが、刑法92条の改正案でした。
刑法92条では外国の国旗を損壊した場合、2年以下の懲役、または20万円以下の罰金と、最高刑が2年以下の懲役になっています。
ところが日本国の国旗を損壊した場合には何の罪にもならない、というのが現状です。
私は他国の法律も調べました。
G7の法律も中国の法律も韓国の法律も色々と調べましたら、どこの国も自分の国旗を損壊したときのほうが懲役刑が長いんです。
他国の国旗を損壊したときのほうが懲役刑は短い。
もしくは自国の国旗を損壊した場合は懲役だけど、他国の国旗の場合には全く無罪と、日本と真逆になっておりました。
私は国旗というものは外国の国旗であれ日本の国旗であれ大切に尊重されるべきものだと思いましたので、この時、外国国旗の損壊については2年以下の懲役と刑法で定められているので、日本国の国旗を損壊した場合にも同じ2年以下の懲役を最高刑とする刑法の改正案を書きました。
平成23年に書いて最初自民党の法務部会で審査していただき、また政調審議会で審査していただき、総務会で審査していただき、全会一致じゃないと提出はできませんので審査にかけたんですが、平成23年は法務部会が通ったんですが、次の政調の偉い人達が集まっている審査で1人だけ反対をされました。
彼が反対した理由というのは「高市さんが書いたような法律案を出すと自民党が右に寄ったと思われるんじゃないか」という理由でございまして、その年は1人でもそのプロセスで反対をされたら提出はできないということで断念をいたしました。
そこから1年間必死で歩きました。
1人ずつ1人ずつ衆議院・参議院の自民党国会議員を訪ねて、この法律案の意義、日本国の名誉を守るために必要な法律なんだということを説明してまいりまして、翌年全ての党内審査でOKが出まして、無事衆議院に提出をしました。
ところがその年に解散になってしまいまして、解散と同時に私の憲法改正案は廃案になりました。
以後、提出はできていません。

なぜかというと平成24年の年末の選挙で自民党は与党になりました。
与党になるということは、やはり政府与党一体ですから、内閣から提出する閣法を優先させる。
他所の党と内容的に揉めそうな議員立法は提出をしないでほしい、というルールに変わるわけです。
つまり主要な野党が概ね賛成してくれている議員立法なら提出していいけれども、主要な野党が反対する内容のものは出しちゃいけないということになりまして、再提出に向けて頑張ったのですが、他党にご説明に上がりましたところ、憲法21条表現の自由はこれを保障する、これに引っかかるんじゃないかと。
日本の国旗を破いたり汚したり焼いたり、これだって表現の自由じゃないかと違憲立法だと言われました。
私の反論としては、今の憲法92条で、外国の国旗を損壊したら最高刑2年の懲役ということ、これだって表現の自由を外交的な理由で制限しているわけですから、なんで日本の国旗にだけ表現の自由が該当して、外国の国旗に関しては表現の自由を制限できるのか、そのダブルスタンダードがよくわからないと反論はしたのですが、以後提出できることはありませんでした。
これも大変難しい話でした。

また先般お話ししましたけれども、サイバー攻撃対策、アクティブサイバーディフェンス、つまり能動的サイバー防御、これを可能とするための議員立法をするべき、もしくは内閣から法律を出すべきだということは平成31年に私が自民党のサイバーセキュリティ対策本部長として官邸に持ち込みました。
前にも申し上げましたが電気通信事業法・不正アクセス禁止法・刑法、それからアクティブサイバーディフェンスそのものを行う役所の設置法、これらの改正をしなければ能動的サイバー防御はできません。
つまり平素からサイバー空間を探索する怪しい動きをチェックする。
これは電気通信事業法で通信の秘密が厳格に定められているので、今のところなかなか難しい。
そして不正アクセス禁止法、これも相手の許可なく相手の設備に入れないわけですから、攻撃を仕掛けようとしている攻撃者のサーバーに侵入するといったようなこともできない。
刑法、これもウイルス作成罪・保有罪、これも相手に取られちゃった国家の重要情報をウイルスを仕込んで削除するというようなことも今の法律ではできないということで、そういったことも含めて政府に提言をいたしましたが、あの時も憲法21条通信の秘密はこれを侵してはならないと書いてあるので、なかなか電気通信事業法の改正は難しいだろうという判断だったんだろうと思います。
当時は安倍総理でしたが「野心的な提言だね」と言われ、なかなかこれは難しいという意味だと感じました。

2024年にようやく、これは河野デジタル担当大臣の所管ですので、デジタル庁を中心に何とかアクティブサイバーディフェンスを可能にする、そのための法整備をしようという流れがグッとできてきましたので、とても安心をしています。
これも長年検討されながら、結局は憲法21条との関係で政府側としても判断がつかなかった。
でも憲法ができた頃にはインターネットもなかった郵便の時代ですから、その頃とまた今状況が違うんだろうと思います。

さらにこれまで大変だなと思ったことはあったのですが、つまりこの公共の福祉との関係でどうにもならないこと、つまり公共の福祉をどう解釈するかということです。
これはさらに昔2008年頃に2年以上かけて書いた法律案だったんですが、うまくいかなかったです。
当時自殺サイトとか家出サイト、また売春サイト・殺人シーンのサイト、こういったものがすごくあって、子どもさんが家出サイトを見て家出をしちゃうとか自殺を一緒にしようということでお亡くなりになってしまうとか、そういうものがありましたので、そういった有害情報のサイトについては18歳未満の子どもさんが使われる携帯、またパソコンなどにフィルタリングをかけるということを義務付けようと考えまして法律案を書きました。
ただこれも憲法第21条の表現の自由、それから事前にそういう問題のあるサイトをチェックするというのは憲法第21条の2にあります検閲に当たるんじゃないかということ、そして憲法第21条の2にあります通信の秘密、これを侵すんじゃないかというようなことで、情報通信事業者、あと放送業界・新聞社などマスメディアからは大変な猛反対がありました。
私が一番ショックだったのは保護者団体からも「子どもにも知る権利がある」と言われた時でした。
これも結局なかなか難しい話になりまして、その後に憲法に触れないように相当文言を選び抜いた、ほぼ義務ではない内容の骨抜きといったら何ですが、そういった法律が一本存在しているという状況です。

つまり私が申し上げたいのは、日本国憲法というのは国民の皆様の自由や権利、これを保障しています。
今まで挙げてきた例というのは自由や権利にかかるものです。
だけれども、憲法第12条には、この憲法が国民に保障する自由及び権利は国民の普段の努力によってこれを保持しなければならない。
また国民はこれを乱用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うと書いています。
ですから公共の福祉というのは本当に解釈が難しいです。
自由や権利は保障されなきゃいけないんだけれども、人の命を守るようなことであったり、国の名誉を守るようなことであったり、子どもさんたちの安心を守るようなものであったり、そういった時に第12条の公共の福祉で読めるのかどうか、ここを一番衆議院の法制局も内閣府の法制局も悩まれるところで、議員立法をする立場の私たち国会議員も、そして今は政府の方にいますが、政府側として様々な文書を作る時にも、この公共の福祉の文言、これが適用されるのかどうかというのが非常に難しい問題になっています。

過去に平成24年4月、また自民党が当時野党でした。
ですから党本部には国会議員の数はとっても少なかったんですが、野党ですからほとんどいろんな団体からの要望や予算要望や税制要望もなく、たっぷりの時間が私たちにはありましたので、あの時に自民党の憲法改正草案、いわゆる前文から全ての条文をガラッと変えるトータル版を書き上げました。
今でも私が一番好きな案なんですが、その12条の改正案を最後に読みます。

憲法 第12条の改正案
この憲法が国民に保証する自由及び権利は国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない
 
国民はこれを濫用してはならず自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し常に公益・公共の秩序に反してはならない

このように当時は書かせていただきました。
憲法改正の一つ一つの条文については、今衆議院や参議院の憲法審査会で議論をされている。
緊急事態状況などについては、かなり各党の距離が縮まってきている、そういう状況であるということは聞いていますけれども、今、俎上に挙がっている条文の一つ一つについて私見を申し述べることは政府側の立場ではできませんので、それは申し上げませんけれども、行政の現場、そしてまた議員立法の現場で、その解釈によって「いろんなことへ悩んでいる」ということはお伝えしたく、今日はあえて憲法の話をしました。
すべての条文を皆様にもお読みいただいて、今の時代に合っているのか、今の科学技術の進歩もすごいですし、いろんなことを自由に皆様が考えていただけると嬉しいなと思っています。

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