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クローンヤクザは少し明るい海の夢を見るか?

数ある忍殺の名エピソードの中で是非ニュービーの方に読んで頂きたいのが第二部キョート殺伐都市より『ブレードヤクザ・ヴェイカント・ヴェンジェンス』である。

貴方は『クローンヤクザ』とはどの様な存在であるとお考えであろうか?

「クローンヤクザなんてただのやられ役でしょ?」

「一般人よりは強いけど、ニンジャスレイヤーをはじめとする主要キャラクターたちの足止め程度しか出来ない」

「無駄に良い声で鳴く雑魚」

確かにその通りである。

ご存じない方へ端的に説明すると、クローンヤクザとは暗黒メガコーポとして名高いヨロシサン製薬が取り扱うクローン兵器である。

主に企業の警備やヤクザの私兵などに起用され、そしてニンジャの登場と共に十把一絡げで殺戮されてしまう噛ませ犬のような描写が劇中では多く見られる。

2015年に放送されたフロムアニメイシヨンでも毎度雑多に殺され、クローンであるが故にいくらでも替えの利く消耗品であるという認識がされても仕方ないであろう。

しかしそういった所感をお持ちの方に『我々はそろそろ、真剣にクローンヤクザについて考えるべきではないか』と鋭い切り口で問い掛けてくるのがこのエピソードである。

まずタイトルをご覧頂きたい。

SFに詳しい方が一目見れば感じる筈だ。サイバーパンクの金字塔『ブレードランナー』を彷彿させると。

何を隠そう当エピソードではSFに於いて最早王道といえる『自我に目覚めた人造生体兵器』を題材に重厚且つ丁寧に描写されているのだ。

だがこの小説を少しでもご存知の方は訝しまれることであろう。

『こんなトンチキな設定で狂った表現ばかりしているニンジャスレイヤーでそんな話が出来るのか?』と。

断言しよう。出来るのだ。


『俺は何者でもない。俺は亡霊。意味を探す。意味を』


これはを赤い血も流れていない奴隷人間が挑む無謀なる遡行である。


舞台はキョート共和国。長い歴史が連綿と紡がれてきた古都の闇に、ある猟奇的事件が横行していた。

ヨロシサン製薬に関係する人間ばかりを狙い、四肢はおろか指という指を全て切り落として惨殺する酸鼻きわまるものである。

政府より強大な力を持ち『万魔殿ヨロシサン』と畏怖される悪徳大企業に楯突くが如き所業だ。

これは私怨の復讐か。はたまた狂人の蛮行か。


『貴様をケジメする』


血風を巻き上げ肉塊を撒き散らす。残忍非道に殺して廻る嵐が今宵も吹き荒れる。

だが万魔殿の構築した無慈悲なるシステムはこの程度の衝撃に小揺るぎもしない。そして底知れないヨロシサンの闇の一端が動き出す。


『ヨロシサンは貴方が考えるより老獪です』


明かされる真実。蠢く陰謀。己の起源。

造物主と被造物。征服者と奴隷。赤黒の死神と濃紺の竜巻。相対する二人。

そして夢。

ただひたすらに畜生道を突き進み、血と血のけずりあいの果てに『彼』が辿り着いた場所とは。

どうか最後まで見届けて欲しい。


徹頭徹尾ハードボイルド&シリアス。寄せては返す狂熱と静寂は貴方を魅了してやまないだろう。

そして読み終わった後、きっとクローンヤクザに対する見方、延いては『ニンジャスレイヤー』という小説への偏見が取り払われ、

『こいつはマジだ。この小説は本当にサイバーパンクなニンジャ活劇なのだ』

と納得する筈だ。


『ブレードヤクザ・ヴェイカント・ヴェンジェンス』 1 2 3 4 5 6・エピローグ


如何であっただろうか?魅力的なキャラクターやストーリーに沿って『ニンジャスレイヤー』へ入っていくのが一般的なセオリーではあるが、設定から没入していくのもたまには悪くはない。

また現在twitterの忍殺アカウント(@NJSLYR)では大絶賛第四部が更新されている。そこには自我を獲得し覚醒したセクサロイド、『ウキヨ』が登場し『己とは何者なのか?』『自身の存在理由とは?』『魂とは何か?』という題材を引き継ぎ展開されているのでSF好きは今からでも遅くない。是非この世界へ飛び込んでくることを強く推奨する。

そして私は彼の登場に期待を寄せ、備え続けよう。

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