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スマホを貸してもらえませんか。

平日の夕方、僕は一人でカフェにいた。

遠くの方の席に20代後半くらいの女性がいたのだが、何度かこちらを見ているような気がした。彼女は僕の前を通り過ぎて、一度トイレに行った。

しばらくしてその人は目の前に立ち、こう言った。

「スマホを貸してもらえませんか」

自分のスマホを忘れたのだろうか。そう言えば他人にスマホを貸したことはないなあとボンヤリと思ったが、困っているのなら貸してもいいか。

「いいですよ」

彼女はスマホを受け取ると僕の前の席に座り、何か打ち込み始めた。電話をかけたいのかと思ったけど違うようだ。

「あの、スマホをなくしたんですか」

そう聞くと彼女は顔を上げて、違います。持ってます。と言い、器用に右手で文字を打ち続けながら、左手でポケットから自分のiPhoneを取り出して見せた。

カフェの店員が、彼女の席に放置されていたハーブティを僕のテーブルに持ってくる。彼女はまた文字を打ちながら左手でハーブティを飲んだ。

「ありがとうございました。終わりました」

と言ってニッコリした。何をしていたのか聞くと、不思議なことを話し始めた。ふたりとも飲み物がなくなっていたので店員を呼び、コーヒーとハーブティを追加で頼んだ。

彼女には、三年ほど付き合っていた彼氏がいたそうだ。その彼がどうやら会社の同僚女性と仲良くなり、つい最近別れたのだと言う。自分でも潮時だと思っていた時期にシンクロしたので何とも思っていないんだけど、何かモヤモヤする気持ちがあったので、彼の秘密を新しい彼女にぶちまけてやろうとした。

自分のPCやスマホからだとバレてしまうので、誰か無関係な人のアカウントを借りることを思いついた。交換殺人をテーマにしたテレビドラマを見て思いついたのだという。

「何を書いたのか教えて」

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。