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ソニア・リキエルと田中泰延:Anizine

『数年越しの花嫁』とでも言いたくなるくらい時間がかかったが、『ロバート・ツルッパゲとの対話』のAmazon予約 が、ついに昨日始まった。

シェアやリツイート、「予約したよ」というコメントをたくさんいただいて、顔は泣いているように見えますが、心の中はありがたくて泣いています。書くと約束してから数年間ボサり続け、寝かせ続け、センジュ出版の吉満さんにご迷惑をかけていたわけですが、やっと肩の荷が下りました。

しかしこれはやっと、出版という全国大会へのエントリーを済ませただけのことで試合はこれから。まだユニフォームは真っ白です。

先行公開した後書き にも書いたとおり、勝ち抜いて売れないと意味がない。それは自分のためだけじゃなくて、「私がいつも読んでいる人の本が出ます。面白いと思うので読んでください」と友人に勧めてくれる人の期待に応えたかったり、ずっと応援しているセンジュ出版という会社に利益をもたらしたいからでもあります。

俺は子どもの頃から「本の虫」と言われ、漠然と本を書けたらいいなあと思っていました。デザインや写真を仕事にしていますが、それについて書くことは考えていません。誤解をおそれずに言うと、実用書にはまったく興味がないからです。配管工が配管技術の本を書けば、配管工や配管工を目指している予備軍は買うでしょう。でもそれは俺が思っている「本」とは違う。

俺の本の定義とは、「自分が存在を知らない世界に旅をさせてくれるモノ」だからです。

写真やデザインや配管の技術のことなんかどうでもいいんです。どちらかと言えば、なぜそういう仕事をするようになったか、その人がその仕事をするに至った「魂の旅日記」にしか興味がない。

ソニア・リキエルが子どもの頃、スカートで木登りをするのを母親に怒られ、自分でそれをパンツに縫い直したという話があります。「それが私のデザイナーとしての出発点」と言われるのは面白いし、本で読みたい。『ソニア・リキエルの原価計算と販売戦略に学ぶ』なんて実用書は、生産と流通の専門家だけが読んでいればいい。

原稿が全部書けたとき、田中泰延さんに送って読んでもらいました。最終的に『読みたいことを、書けばいい。』に大きな影響を受けて書き直したからです。田中さんの本は今、16万部という驚異的な売れ行きを見せていますが、これが何をあらわしているかというと広告業界のコピーを書きたい人、つまり配管工だけじゃなくて、あらゆる立場の人から求められたという明快な証拠です。

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田中さんの本は文章の書き方を教えているように見せかけて、実は田中さんという大阪のチャーミングなオッサンが生きてきた「魂の旅」を書いている。たまたま電通でコピーを書く仕事をしていたけど、こんな生き方があっていいんだという、その人にしか書けない旅を書いている。読者はそこに共感するのです。そうじゃないと数万部は売れても、16万人の人に届くモノにはならない。

『ロバート・ツルッパゲとの対話』は、哲学・思想カテゴリに入っています。僭越かつ無謀すぎるエントリーですけど、これは編集者の吉満さんが面白がって決めたことなので、俺に責任はありません。でも、自分は職業技術のことについて今後も本を書くつもりはありません。仕事なんて人生のほんの一部分で、それに平日のすべてを使うのはバカらしいと思っています。「毎日が定休日」くらいでいいんです。

お金を稼ぐ姑息な方法を語ったり、それを読んで自分も儲けようとする本がベストセラーになるような世界は貧しい。道を歩きながら、誰彼構わず「セックスさせろ」「なぜなら俺はセックスしたいからだ」と大声で言っているのと同じで下品なのです。この人とセックスしたいと思っていただくためには、どう生きているかという「セックスに至る魂」を見せるのが先で、どんな立派な会社のCEOであろうが、いくら稼いでいようが、そんなことは何も関係ない。

魂という話のまとめがセックスになってしまってスミマセン。何だよ、セックスに至る魂って。そんなものあるか。


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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。